果歩の夕食<1>

 

ホリー・ガーデン
穏やかすぎる、家庭的な献立のならぶ食卓
 ごく常識的に言って――果歩は鍋のだしに白味噌を溶きながら考える。常識的に言って、電話というのは何か用事があるか、用事はないが相手の声をききたいか、あるいは誰でもいいから誰かと話がしたいというときに、かけるものだろう。
 果歩は鍋の中身が煮立つ前に火をとめ、みつ葉を散らすと、その里芋とえのきの白味噌汁をお椀によそう。
「お待ちどおさま」
 果歩は味噌汁をリビングに運び、一合炊きの小さなジャーから、二人分のごはんをつける。目の粗い、赤い布製ランチョンマットの上には、煮た野菜と焼き魚、柚子酢で和えた蕪と蕪の葉が、すでに行儀よくならんでいた。
 腹立たしいのは――上手い具合に焦げ目のついた鱈の粕漬けをつつきながら、果歩はなお考える。腹立たしいのは静枝がそういう電話をよこすことそれ自体ではない。自分が静枝の意図にうまうまとのるように、まるで彼女を安心させるかのように、嬉々として近況報告をしてしまうこと、それどころか二週間も連絡がとだえると、何となくそわそわして落ち着かなくなってしまうこと、に、果歩はおそろしく腹が立つのだ。

 

 ■ 材料


<里芋とえのきの白味噌汁>
里芋
えのき
みつ葉
白味噌
出汁


<煮た野菜>
小松菜
油揚げ
出汁

醤油
みりん

<鱈の粕漬け>
鱈切り身
甘酒(缶とかパックの)


<柚子酢で和えた蕪と蕪の葉>


出汁
柚子

 ■ 作り方

  1. 粕漬けは、鱈の切り身に塩を振り、甘酒に漬けておく(時間はお好みで)。食べる前にグリルで焼く(酒粕を付けるか取り除くかはお好みで)。

  2. 蕪は、根は皮を剥いて薄切りにし、葉は3センチ程度に刻み、塩で揉む。しんなりしたら、出汁と柚子果汁、柚子の皮をすりおろしたもので和える。

  3. 味噌汁は、里芋の皮を剥き、薄切りにして塩もみし、水で洗う。出汁で里芋を煮、半分に切って裂いたえのきを加える。白味噌を溶き、煮立つ前に火を止め、お椀によそってみつ葉を散らす。

  4. 煮野菜は、油揚げを湯通しし、四角く切る。出汁を煮立てて醤油、酒、みりんで薄く味をつけ、油揚げと半分に切った小松菜をさっと煮る。

 ■ ポイント

  • 粕漬けを甘酒で作る!というのはなかなか簡単で画期的(?)な方法でいいんじゃないでしょうか。粕漬けなんてねえ、面倒ですよね(笑)

  • 煮た野菜は悩んだ末、小松菜と油揚げの煮浸しにしました。どういうのを想定してたのか分かりませんが。

  • 果歩の謎。果歩は毎晩、人を家に呼んで、料理を作って、一緒に食べる。つまり、毎晩2食分作っている。食費は大丈夫なのだろうか?(笑)昼は作ったお弁当だし、毎食自炊していればそんなにかからないのかも知れないが。という、いらん心配をしてしまいました。

  • こういう感じの献立はまだ出てくるので、このシリーズ、続きます。

広尾店