ニッサン マーチ 12c
型式 UA-AK12。
日産が生んだ国民的コンパクトカー、マーチの三代目。
マーチの歴史も長くなった。
ジョルジェット・ジウジアーロがデザインを手がけ、1982年10月に
発売された初代.。
1992年1月に発売され、日本車として初めて欧州カーオブ・ザ・イヤー
を受賞した二代目。
マーチは持ち前の使い勝手の良さ、デザインの秀逸さ、価格の
手ごろさから、国内にとどまらず海外でも人気を博し、
「ジャパン・アズ・No.1」の名声とも相俟って、文字通りグローバル・
スタンダード・カーとしての地位を築き上げてきた。
国際化プロジェクトのつまづき、そしてバブル崩壊による追い討ちで
経営難に陥った日産は、ルノーとの資本提携にともない、
「コスト・カッター」の異名をとるカルロス・ゴーンをCEOに招聘。
夥しい数の中途切り、下請け切り、異常とも言える値切り攻勢により
わずか4年で経営を立て直した。
この三代目マーチはそうした激動の中、2002年3月に発売された。
プラットフォームとエンジンを刷新した本車の実力はいかなるもの
なのか。早速、試乗所見に移ってみよう。
【試乗所見】
《エクステリア》
先代よりもさらに丸みを帯びた外観。その見た目は「カエル」とも
評されるが、両生類的な意味合いではなく、憎めない風貌といった
ニュアンス。女性にも人気を博した理由が分かる気がする。
↑ヘッドランプはいわゆる「釣り目」だが、鋭い印象ではなく
コミカルな雰囲気。
ボディカラーはアクアブルー。
このマーチはカラーバリエーションの豊富さも売りで、
メーカー標準色10色とメーカーオプションのホワイトパールを
あわせて11色が設定されている。
また、広報用に生産された水玉模様の「みずたマーチ」、
縞々模様の「しましマーチ」、花びら模様の「花咲かマーチ」
も存在する。街で見かけると幸せになれると言われるが、
筆者は未見。
↑
丸っこいプロポーション。
CD値は0.32を達成している。
大きなリアガラスもうまく湾曲されている。
後席プライバシーガラスはオプション。
リアブレーキはドラム式となっている。
↑
レトロチックでありつつ斬新さも感じる顔つき。
初期型はウインカーがグリル内部にインテグレートされる。
《インテリア》
内装は非常にシンプルかつプラスチッキー。
当時としては先端技術である「インテリジェント・キー・
システム」を採用しており、エンジンスタートで鍵を挿し込む
必要がない。
計器針は速度計と燃料計だけという潔さ。
エアコンはマニュアル。
シフトレバーはオーバードライブのON/OFFスイッチ付き。
シフトレバー根元のポジション表記は光らない。
ドリンクホルダーはシンプルながらも収納式。
オプションで当時のサイバーナビがついている。
使い勝手はあまり良くない。
フロントとリアのドアトリム。
徹底してコストを抑えてあるようだが、丸を基調とした
デザインは嫌味がない。樹脂部分にはボディカラーに
応じたカラーバリエーションがある。
後席は狭い。運転席でドライビングポジションを取ると、
後席右側の足元のスペースはやや窮屈に感じる。
また、後席の背もたれは分割のできない一体式。
コストダウンが徹底されている。
ラゲッジルームはVDA容量で250L。当時の同クラス車両と
比べるとヴィッツよりやや多くフィットより少ない。
後席を倒してもフルフラットにはならない。
当時はまだパンク修理キットが一般的でなく、スペアタイヤが
標準装備される。
《エンジン》
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新開発の1.2リッター水冷直列4気筒DOHC。
電子制御スロットル(フライバイワイヤ)を採用している。
小型車向けのNAでとくに燃費性能に特化しているわけではないが、
10・15モードで19.0km/Lがカタログ値。
同時期のヴィッツに勝るとも劣らない。
e燃費などのデータを見る限り、実燃費は7掛け程度。
《走行性能》
走り出しは軽いが、低速域でシフトチェンジのショックがある。
CVTのレヴォーグに慣れてしまったので「ATはこんなものか」
程度に感じたが、このショックは小さくなく、気になった。
ATフルードが劣化しているのかも知れない。
信号待ちからの再発進加速では、いかなる先行車にも追随できる。
右左折やカーブでは、車体がそれほどロールすることなく
曲がることができた。
ミニほどダイレクトなアクセルフィーリングではないが、ミニに通ずる
ゴーカートっぽさも感じられる。
右折時に対抗車の間隙を見計らって発進するときも
パワフルな印象を受けた。
高速道路に入ってみると、問題なく流れに乗ることができた。
予想以上に車体は安定する。100馬力に満たないながらも、
非力さはさほど感じられない。ACCはついていないが、80km/h前後
の巡航ならあまり疲れないだろう。
駐車場での取り回しは簡便。よく小回りが利く。
駐車時、ギアをバックに入れて後進をかけた際、予想以上に
後進速度が速かった。レヴォーグの後進速度リミッターに慣れている
せいかも知れないが、要注意だと思う。
《乗り心地》
発進加速時の変速ショックはあるものの、走り出してしまえば
街中でも高速でもショックは少ない。
シートはそれほどコストをかけているようには見えないが、
高反発マットみたいに疲労が溜まり難い感触。
視界はプリウスやオーリスに比べればかなり良好で、
コーナーも把握しやすいと感じた。
ロードノイズはそれなりに拾う。
エンジン音は不快ではないが、速度を上げる時に室内に響く。
今回お借りした個体は年季が入っており、シフトレバーの
解放スイッチを押し込むのに苦労したり、右フロントドアの収まりが
悪く、雨水が入ってきたりと2つのトラブルがあった。
これらが無ければ、より快適に運転できただろう。
【首都高速における参考デシベル値】
Min. Ave. Max.
63.1 68.6 73.5・・・LEVORG 1.6GT-S(B型 純正時)
62.7 67.2 71.8・・・Prius α S Lセレクション(2011型)
64.8 69.5 72.9・・・MARCH 12C
※レヴォーグとマーチは滝野川入り口〜用賀間の12箇所計測。
※プリウスαは滝野川入り口〜木場間の14箇所計測。
スマホのアプリ「SLA Lite」による計測平均値。
マーチは車内騒音の音圧自体は大きいが、不快に感じる周波数の
帯域が少ないせいか、見かけの数値より煩くない。
《価格》
安全装備はさすがに今のコンパクトカーに劣るものの、
街中でも高速でも使い勝手が良く、デザイン性も高い。
「ユーザーフレンドリー」の謳い文句そのままに、
価格もフレンドリーだと思う。
《総評》
友達感覚でつきあえるタウンユースカー。
コンパクトカー全盛期において競合車種が増えてゆく中、
デザイン性と実用性を両立させて女性ドライバーにも
人気を博した功績は大きい。
この三代目のあとに登場した四代目マーチはデザイン性で
賛否を呼んだが、全幅は1,665mmと、たった5mmの拡大に
抑えられており、扱いやすさという点ではフレンドリーさを
保つこととなった。
昨今は交通安全を追求する動きが強く、国産車にもそれなりの
強度や安全性能が求められるようになった。
その流れは必然的に車体の巨大化や高性能化を呼び、
結果的にコスト増大と、日本の狭い道路事情という環境の中での
取り回しづらさに行き着く。
マーチの海外バージョンである「マイクラ」はすでに2017年に
モデルチェンジを終え、全幅が1,743mmと拡大されている。
エクステリアはフレンドリーと言うよりもスポーティで、
製造国フランスでは好調なセールを記録している。
巷の情報では、このマイクラを日本に導入するという噂だ。
それはそれで魅力だが、やはり女性を含めた万人からの支持を
集めてこそのマーチであり、スポーティさの希求や3ナンバー化が、
かえって没個性的なクルマへと変えてしまわないか?という
懸念がぬぐいきれない。
果たして国内新型はフレンドリーなマーチとなるだろうか?
注目しつつ2020年を待つことにしよう。
【性能諸元(MARCH 12C:UA-AK12)】
全長:3,695 o
全幅:1,660 o
全高:1,525 o
ホイルベース:2,430 o
最低地上高:135 o
トランスミッション:4速AT
駆動方式:FF
エンジン:水冷直列4気筒DOHC自然吸気
総排気量:1,240 cc
最高出力:90 PS/5,600 rpm
最大トルク:12.3 kgf・m/4,000 rpm
最小回転半径:4.4 m
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:41 リットル
車両重量:930 kg
乗車定員数:5 人
価格:1,095,000 円(2003年7月当時)
INDEX
クルマのこと