モデルコードR60(型式 CBA-ZA16)。
代を重ねるごとに巨大化してゆくMINIだが、レギュラーモデルの
3ドアハッチバック、シューティング・ブレーク(ワゴン)、コンバーチブルに
加え、2011年にはシリーズ初の4ドア、そして日本で正式発表される
シリーズとしては初の3ナンバー車となるクロスオーバー(カントリーマン)
が発売された。
(ミニ 2011年9月発売の主なモデル)
ONE クロスオーバー
クーパー クーペ
クーパー クロスオーバー
クーパーS クーペ
クーパーS クロスオーバー
クーパーS クロスオーバーオール4
ジョンクーパーワークス クーペ
今回試乗したのはONE クロスオーバーの特別仕様車「バッキンガム」。
発売されたのは2012年で、BMWジャパンのミニが日本デビューしてから
10周年を記念して設定された。
もはや小さい車とは呼べないミニだが、歴史と品格を体現化させるという
観点では、これに匹敵する競合他車はなかなか見当たらない。
その実力はどのようなものであるのか。さっそく試乗所見に移ろう。
【試乗所見】
(エクステリア)
ミニの愛嬌あるたたずまいは継承されているようだが、
近くに寄ってみると威圧感さえ覚える。
それもそのはず、全幅は並みの国産車を上回る1,790mm。
全高は立体駐車場の入庫制限を考慮して1550mm(アンテナ含まず)に
抑えられているが、ミニとしては最低地上高が150mmと高く、黒い
オーバーフェンダーパネルと相俟ってSUVっぽさを感じる。
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マークUグリルをモチーフにしたフロントマスク、ヘッドランプおよび
テールランプ周りや、ウインドウ周りをぐるりと1周するメッキフレームにより、
クラシック・ミニの雰囲気が醸し出されている。
ボディカラーはライト・ホワイト。ボンネットからルーフ、リアハッチにかけて
サーフ・ブルーのスポーツ・ストライプが入っている。この塗装はバッキンガムの
標準カラーで、定価に含まれている。カラーバリエーションは以下の3通り。
ライト・ホワイト(サーフ・ブルーストライプ)
ピュア・レッド(ブラックストライプ:メタリックかどうかは未確認)
アブゾリュートブラック(ピュア・レッドストライプ)
アブゾリュート・ブラックのみメタリックなのでプラス\55,000-が加算される。
このほか16インチアロイホイールとインテリアカラーが標準装備であり、
これら塗装・ホイール・インテリアカラーの3つがミニONEクロスオーバーとの
主な違い(特別仕様内容)である。
↑給油口カバーはセンターコンソールにある室内集中ドアロックを解除すると
手動で開くようになる。
↑リヤエンブレムはトランクオープナーとなっている。
(インテリア)
ドアはかなり重さを感じるが、さほど力を入れなくとも閉じる。
サークルを基調とした内装は従来どおり。
インパネデザインの基本路線は以前レビューしたクーパーF55と
似たような感じだが、こちらのほうがアナログチックで懐かしさを覚える。
コクピットに座ると、ステアリングホイールの隙間から回転計が覗く。
車体は大きいが「ミニに乗る」という先入観で乗り込んだせいか、
足元も頭上も広々としすぎていて、かえって落ち着かない。
輸入車の例によってウインカーとワイパーのレバー位置は国産車と逆。
インパネ中央の大きな速度計は260km/hまで計時できるが、
ONEがベースなので最高速度は欧州仕様車で168km/h。
トグルスイッチも従来どおり。
前席ドリンクホルダーはいたってシンプル。
サイドブレーキは航空機のスロットルレバーを思わせる厳つい造りだが
頼もしい。個人的にはかなり気に入った。
アクセル、ブレーキ、フットレストもサークル基調のデザイン。
後部座席はスライド可能。フロントシートとのクリアランスもかなり取れる。
可倒式なので背もたれを倒すスイッチかレバーがるはずだと探したが、
なかなか見つからない。ふとシートとシートの間を見ると、タブのようなものが
はみ出ている。これを引っ張ると背もたれを倒すことが可能になる仕組みだった。
なお、当車は5人乗りだが標準仕様だと4人乗りで、その場合は後部座席も
独立シートとなる。
後部座席の背もたれは3分割可倒式。しかし倒しても完全なフラットとは
言いがたい。荷室容量は350リッター、背もたれを倒せば1,170リッター。
ドアトリム、センターレールは夜間ライトアップしてくれる。
ドア下部にはカーテシランプ装備。
センターレールにはサングラスケースやドリンクホルダーなどの
アタッチメントを装着することができる。今回はサングラスケースが
はめ込まれていた。
(エンジン)
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直列4気筒1.6リッターDOHC16バルブ自然吸気。
アイドリングストップ機能はついていない。
エンジンをスタートさせるとアイドリング音がそこそこ入ってくる。
(走行性能)
ゼロ発進加速はやや重い。
クーパーに比べるとゴーカートのようなフィーリングは無く、
車間空隙を縫いながら走るというわけにはいかなかった。
右左折は車体があまり傾くことなくスムーズに曲がれるが、
低回転からのトルクは不足気味で、右折時に対向車線の
切れ目を窺うときは少しだけ勇気を必要とした。
最小回転半径はクーパーに比べてさらに大きい。全長は4,105mmだが、
取り回し感覚は4,690mmのレヴォーグとさほど変わらないように感じる。
カタログ数値上はアウディA6アバントより回転半径が大きい。
バックモニターもついていないため、取り回しには注意が必要。
高速には乗らなかったが、湖西道路をほぼノンストップで走ったところ、
速度が乗っても車体が安定するため、クーパーより長時間の乗車に
耐えるのではないか、と感じた。
合流の際にやはりトルク不足を感じたものの、キックダウンで加速すれば
問題なく入れる。
NAなので高回転時の伸びや音をもっと楽しみたいと思ったが、
時間の都合上、それは次の機会とする。
ブレーキはよく効く。踏み始めの効きがいいと感じた。
ただし踏みシロのパコパコ音が気になった。
アクセルペダルも足を離すたびににパコパコ言う。
しかし乗り慣れてくればあまり気にならなくなった。
湖岸道路を進む頃にはトルク不足もほとんど気にならなくなっていた。
ヘッドランプはハロゲンランプでやや暗めだった。
(乗り心地)
硬めと思ったが、意外にやわらかい。国産車並みのヤワさではない。
シートの質感も悪くなく、合計6時間の運転でも疲れにくかった。
エナセーブを履いている効果もあるのだろうか。
ロードノイズはそこそこ拾う。
アクセル開度を上げたときのエンジン音はややうるさい。
リアの接地感は良好、全体的に安定感があった。
(価格)
発売された当時は衝突軽減システムやアイドリングストップ機能などが
まだ広く普及していなかったので、これらが標準装備でついていないからと
いって割高と評するのは公正でないと思う。
趣味性に振ったSUVだということを考えれば妥当な価格。
(総評)
都会派ライトクロカン。
キビキビ走るでもなく、装備も1世代前のクルマだがそこはミニ。
高級車たちに囲まれても存在感は見劣りしない。
図体こそもはやミニではなくなってしまったが、室内空間に余裕もできて、
ファミリーカーとして充分使える。また、衝突時の乗員の安全性を
考えれば、クルマとして立派に正常進化を遂げている。
ベース車であるミニクロスオーバーは米国道路安全保険協会が2014年の
トップセーフティピックに指定した実績があり、自動ブレーキがついてなくとも
ドライバーの生存空間確保性能は信頼できる。
従来、ミニはその秀逸なデザインを持ちながら、超小型ゆえに
ファミリー層の需要に応えにくかった面が大きい。
「ミニに乗りたい」、という夢が、ミニ自体の制約によって夢のままで
終っていたわけだが、クロスオーバーはそうした課題に対するBMWの
ひとつの回答だろう。
ミニがミニでなくなったとき、ファミリー層の需要を満たせるようになったことは
皮肉なことではあるが、いまや輸入車だけでなく国産車も大型化の傾向にある。
現実の激しい交通競争を生き残るには、小さなミニでは不利なことは確かだ。
今後も保守的な部分を大切にしつつ、魅せるデザインと確かな安全性を
両立しながら進化しつづけて欲しい。
【性能諸元(R 60:クロスオーバー バッキンガム)】
全長:4,105 o
全幅:1,790 o
全高:1,550 o(アンテナ含まず)
ホイルベース:2,595 o
最低地上高:150 o
トランスミッション:6 速AT
駆動方式:FF
エンジン:直列4気筒DOHC16バルブNA
総排気量:1,598 cc
最高出力:98 PS/6,000 rpm
最大トルク:15.6 kgm/3,000 rpm
最小回転半径:5.8 m
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
燃料タンク容量:47 リットル
車両重量:1,350 kg
乗車定員数:5 人
価格:2902,000 円(2012年3月当時)
クルマのこと
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