ニッサン ノート e-Power X
型式 DAA-HE12。
2012年に発売された2代目ノートの後期型。
量産型のコンパクトカーとしては世界で初めて
シリーズ方式ハイブリッドシステムを搭載したらしい。
2016年11月に発売されたこのe-POWERは、
XタイプでJC08モード34.0 q/Lの良好な燃費性能を謳った。
並み居るハイブリッドカーを押しのけ、発売月にはトヨタの牙城を
突き崩し、車名別の月販台数で1位に輝いた。
また燃費だけでなく、カーグラTVでは「非の打ち所が無い」
メーカーCMでも「ひと踏み惚れ」など、クルマ好きの耳目を
集める喧伝が見られた。
果たしてその実体はどんなものだろうか。
さっそく試乗所見に移る。
【試乗所見】
《エクステリア》
NA時代のノートを踏襲している。
一般的な「ニッサン顔」だと感じる。
フロントグリルのメッキ部分が太くなっており、これが
マイチェン前のノートと見分けるひとつの特徴になる。
大きくカットが入る側面部分。
光の当たり具合でまた違った様相を見せる。
『e-POWER』のエンブレムがついてる。
ブレーキランプ内部がV字形状になっている。
フロントのメッキモール形状と韻を踏んだのか?
《インテリア》
乗り込むといきなりシンプルさを感じる。
ステアリングホイールは意外にもDシェイプ。
シート生地はトリコット。
インパネデザインはサークルを基調としている。
デミオほどの質感はないが、好感は持てる。
しかしシフトレバーが問題。これは後述する。
リング状のドアノブ。
ドラポジを取っても後席のスペースはこの状態。
総じて車内スペースに余裕がある。
後席を倒すと段差が出来てしまうが、
オプションのマルチラゲッジボードをはめれば
一応フラットに近くなるそうだ。
ラゲッジルーム床下にはサブバッテリーが格納されている。
これは駆動用ではなく、エアコンの電源に使われる。
グローブボックスは上下に開閉する。
パワーソケットはここにある。
前席カップホルダー。
取り出すにはちょっと遠い。夜間は暗い。
この遠さが吉と出るか凶と出るか。
《エンジン》
1.2L直3DOHC+モーターのシリーズ方式HV。
ガソリンエンジンで発電し、バッテリーに蓄電された
電気のみを使って駆動する。
一般的なハイブリッド車と異なり、内燃機関の生み出す
パワーはあくまでも発電だけに使用される。
これをもってノートe-POWERを「EV」と呼ぶか「HV」と
呼ぶかの論議は本稿の機能には無いので他者に譲る。
「リーフ」は充電スポットを探す必要があるが、
「e-POWER」は普通のスタンドに入って給油すればいい。
インフラ整備がまだEVに対して厳しい現状、この違いは大きい。
《走行性能》
走り出しはとても軽い。
一般的なクルマではそうそう無い加速感。
それもそのはず、2.5リッター車並みのトルクを
0 rpm状態から発揮する。
Sモードに切り替えると、推進力を得たような加速感。
その代わりエンブレも親の仇とばかりに効く。
このエンブレは過剰なほどで、アクセルペダルを放すと
かなりの制動がかかる。このため、赤信号で停止する際に
ブレーキを踏まなくても済む。
慣れは必要だが疲労軽減にはいいだろう。
ブレーキパッドの磨耗もかなり抑えられるに違いない。
この、一般的なクルマとかなり勝手の違った走法は
急坂の多い駐車場や右左折で威力を発揮した。
6階まである駐車場の内部を、ほぼブレーキ無しで
走り回ることができた。
また、エンブレの加減により右左折時の突っ込みが
スムーズに、かつ的確に行えることが分った。
高速に乗ると、アクセルレスポンスの良さで合流が
しやすいと感じた。高速度域になると踏みっぱなしで
ノイズと振動が増え、不得意に感じた。
基本は走行車線キープだった。
合流以外の高速ではノーマルモードが適している。
ドライブモードは他に「ECO」がある。
ECOモードはアクセル反応が鈍すぎてストレスが溜まった。
Sモードほどのエンブレも掛からない。
街中ではほぼSモードで通したように思う。
そして問題のシフトレバー。
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これが問題。ファミレスの呼び鈴ではない。
人間工学としてこれが妥当なのかどうか、
開発担当者の方に話を伺ってみたいものだ。
はっきり言って使いづらいことこの上なかった。
メーカーCMでは「未来の運転感覚」と書いてあるが、
この未来なら来なくていい。
《乗り心地》
乗り出しは静か。
発電のためかエンジンはよくかかる。
エンジン音よりロードノイズのほうが大きい印象。
一般道平均ではプリウスαよりも静かだった。
ただしロードノイズや細かな振動は決して少なくない。
アクセル開度を上げた時の騒音もかなり大きい。
【明治通りの掘割近辺を走行した際の参考デシベル値】
Min. Ave. Max.
48.8 61.3 66.7・・・NOTE e-POWER
54.2 61.9 68.3・・・LEVORG1.6(REGNO GR-Xi装着後)
57.6 64.6 70.5・・・LEVORG1.6(ホイール交換後)
56.1 65.5 72.0・・・Prius α
これはスマホのアプリ「SLA Lite」による10回計測平均値。
(レヴォーグのREGNOバージョンのみ11回のサンプリング)
アイドリング時間は含まれず、流れに乗って一定の速度
(40〜50 q/h)で走行できたケースのみを対象にした。
プリウスαが意外にうるさかったのは、流れに乗るために
アクセルを吹かすとかなりノイズが大きいせいだろう。
吹かし続けたときのノイズは平均値に大きく影響する。
乗り心地は一般的な国産コンパクトカーより硬めだった。
いつも試乗で使うトンネル内の段差舗装はスムーズに
乗り切ることができた。大きなカーブでは若干尻に荷重が
かかったが、不快なほどではなかった。
視界はプリウスよりは良好だが、
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このAピラーの小窓は実用に適さないと思う。
ボンネット形状によりコーナーの見切りはあまり良くない。
《燃費》
12月の末あたりから1月上旬にかけて乗ったが、
エアコン控えめの街乗り中心で19 q/L程度だった。
「e燃費」によれば実燃費20.04 q/L(2017年4月現在)。
メーカーCMでは「燃費の常識を超える」とあるが、
JC08モードと実態数値との乖離を見る限り、
とくに超えたとは言いがたい。
《価格》
このクルマのシステムと特長を理解し、一般的な
ハイブリッドカーと違う道を進む観点では妥当だろう。
5ナンバーのコンパクトカーとしては、個人的には
やや高めに感じる。
《総評》
ゼロ発進加速とエンブレに特化した5ドアハッチバック。
エンブレ走法を多用する電気駆動のクルマという点では
特異な存在であり、一般的なハイブリッドカーとはやや
趣が異なる。
喧伝が勝った感があるが、既存の技術を用いて
トヨタと違う特長を持たせるにはこれしか無かったのかも
知れない。
燃費に特化したクルマが持て囃される昨今だったが、
出足の良さに惚れ込んで買うユーザーがまだ多いことに
心強さを覚えた。
ただし前述のようにシフトレバーは使いづらいことこの上なく、
「道具」として勧められるクルマではない。
【性能諸元(NOTE e-POWER X:DAA-HE12)】
全長:4,100 o
全幅:1,695 o
全高:1,520 o
ホイルベース:2,600 o
最低地上高:130 o
トランスミッション:CVT
駆動方式:FF
エンジン:水冷直列3気筒DOHC
総排気量:1,198 cc
最高出力:79 PS/5,400 rpm
最大トルク:10.5 kgf・m/3,600-5,200 rpm
モーター:EM57交流同期電動機
定格出力:95 PS
最大出力:109 PS
最大トルク:25.9 kgf・m/0-3,008 rpm
最小回転半径:4.9 m
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:41 リットル(e-POWER Sは35 L )
車両重量:1,210 kg
乗車定員数:5 人
価格:1,959,120 円(2016年11月当時)
INDEX
クルマのこと