VOLVO V60




ボルボV 60 (DRIVe)。
型式 DBA-FB4164T。

「頑丈」 「ワゴン」 「実用一点張り」―
ボルボというクルマのイメージは、従来
こんな感じだったのではないだろうか。

2010年から浙江吉利控股集団(ジーリーHG)の傘下に
入ったことにより、「シナ製」と揶揄されることもあるが、
今のところはボルボ側が吉利に技術支援を行い、
吉利側がボルボの市場参入許可やファイナンス面を
支援する、という関係。

ボルボの主要な生産拠点は本国スウェーデンと、
欧州の中では職人気質で定評のあるベルギー。
最近は重慶でも生産が始まっている。


ここ最近のボルボは、往年の角ばったデザインが消え、
かなり市場を意識したデザインを積極的に投入している。
その実車は如何なるものなのだろうか?

さっそく試乗所見にうつろう。


【試乗所見】

(エクステリア)
V40を見たときも思ったが、最近のボルボのデザインは
とにかく変わった。240時代には「空飛ぶレンガ」とまで
あだ名されたが、かなり丸みを帯びてきた。
欧州にはスタイリッシュな車が多いが、その中でも
流麗な部類に入るだろう。
エクステリア・チーフデザイナーは、カナダ出身の
サイモン・ラマーという人物。

ヘッドライトのデザインは特に目新しくはないが、
Aピラーから流れるラインと、バンパー部分の
ふくよかさで優しげな印象を与えている。

フロントから見てラジエータグリルの左側には、
レーダーカバーがついている。デザインの点では
非対称となるため賛否が分かれるかも知れない。
エンブレム後方にレーダーを隠す方法もあるのだろうが、
安全のための非対称なら機能美でもある。
個人的にはこのままでもいいと思う。

サイドウインドウを1周するメッキモールは、今となっては
国産車でもよく見られる見慣れた手法だが、窓面積を
必要最小限に狭くして、後方へ行くにつれて下げる
ことにより、クーペっぽい印象を持たせている。
ドアサイドのテーパー角ごと絞り込まれた、リアエンドを
形成するピラー一体型テールランプも個性的だ。

気に入った点はこのデザインそのもの。
気になった点は、収納しても畳んだのか畳んでいないのか
よく分らないドアミラーと、高温多湿な日本では不利な、
外車によく見られるメッキモール部表面の劣化。


(インテリア)
豪華ではないが、落ち着いた節度ある内装。
今回借りたのはレザーシートだったが、
経年劣化で表面の皮革はややヘタれている。
新品なら印象は違うだろう。

パネルはすっきりまとめられ、操作しやすい。
往年のボルボのような、緻密に組み上げられた
四角四面さに、やや丸みを持たせた感じ。

二眼メーターはややくっつき過ぎている。
ナビの画面はパネルに奥深く埋め込まれていて、
見づらくは無いがちょっとコンパクト過ぎる。
ナビだけは使いづらいが、テンキーがあるのは良い。

前席足元のスペースは充分。
ドアトリムは特に凝っている部分は無い。

ラゲッジ・ルームは、意外に小さい。
開口部にやや窮屈さを感じるし、
上部のスペースにも余裕がない。
純然たるワゴンとしての性能から言えば、
このV60を上回るクルマは何台もある。

後席は40:20:40の分割が可能なので、
積載物に合わせてバリエーションが組める。
それほどアウトドア志向でないユーザーや、
街の買い物程度ならば容量は十分ある。


いわゆる「スカンジナビアン・デザイン」
という謳い文句だが、インテリアの存在感を
良い意味で「消して」いる。
どこらへんがスカンジナビアンなのかは分らなかったが、
総じてこの透明感を言うのだろうか。
色がベージュ基調でウッドパネルだったら、
また違った印象になったのかも知れない。

良かった点は、室内空間の全体の雰囲気。
悪かった点は、 後部の収納式カップホルダーが
ややチープだったこと。


(エンジン)
直列4気筒DOHC16バルブICターボ。
このエンジンはV40に積まれているものと同じ。
V60の車体は100 kg以上重たい。
V40との差別化を図るなら、もうワンランク上の
エンジンを搭載するべき。ただしパワーが致命的に
不足している、という印象は受けなかった。
国産ではスバル・レヴォーグの水平対向1.6リッターが
ちょうど競合するだろう。
回転数を充分に上げてからギアチェンジするので
音はややうるさい。


(走行性能)
ターボ・ラグをあまり感じずに発進できた。
小さいエンジンで無理やり引っ張る感じは殆ど無い。
ただし低回転域で車体がわずかに前後に揺すられる
ギクシャク感があった。個人的にはCVTに慣れて
しまったためか、3千回転まで上がってからギアチェンジ
する時の騒音が気になった。
マニュアルライクなトランスミッション。

市街地では軽さが気になったステアリングだが
高速では安定してあまり気にならない。
標準装備のクルコンにより車間距離の維持が可能、
アクセルにそれほど右足の力が要らないので、
疲労も少なく済むだろう。

いつも試乗の際に通るトンネルの段差舗装では
突き上げもあまり無く、うまく吸収できた。

後方視界はかなり悪い。V40と同等に悪い。
デザインや強度重視もいいが、危険回避のために
視界も確保したほうが良さそうだ。

走行時の危険状況を検知すると、
警告音がすごかった。

全幅は1,845 oと大きく、都市部の駐車場では
隣の車との兼ね合いでドア開閉に苦労するかも
知れない。もっとも、出かける場所を選ぶようになって
生活水準が上がるかも知れない。


(乗り心地)
本革シートは乗り込んだ瞬間、「広い」と感じた。
あまり腰が包まれる感じがしないが、適度に低反発。
突き上げが少ないのはこのシートのお陰かも知れない。
疲労を考慮した座り心地なのだろう。
後部座席に同乗した親類も、乗り心地の良さを
評価していた。

今回は試さなかったが、後席はチャイルドシートが
しっかりと収まるように設計されているそうだ。

ドア開閉の重厚感は「ドスン!」という感じで、頼もしい。
ベンツやVWの「ボフ!」というドアより迫力がある。
実際の事故でどの程度の被害局限が可能かは、
事故が起こってみないとわからない。単なるギミックで
ないことを祈る。


(価格)
同時期の輸入車と比較して妥当だと思う。



(総評)
クーペ的な美しいワゴン。
大味な面もあれば繊細な面もある。
そのデザインは本来のワゴン車としての機能を抑制させて
得たものかも知れないが、好意的にとれば、デザインと
機能のバランスがいい、ということでもある。

乗った時間は短かったが乗り心地は良かったし、
見てくれの良さの中に節度を感じた。この節度と、
ボルボの理念である安全性能の追求とを併せれば、
他の欧州車との棲み分けが可能だろう。

全幅はフーガ、レジェンド並みの1,845 oあるので、
取り回しが不安な人はコーナー・ポールをつけると
いいだろう。


独特な形状のテールランプ。
後ろ姿はボルボの代名詞とも言える。
全高も低めに抑えられており、
車幅の割りにボディ全体が小さい印象。

すっきり纏められたパネル周り。
運転に集中しやすい。
車内の色はベージュのほうが
高級感が出ると思うが、運転には
こちらのほうが適するのでは。

センターコンソールはフローティング。
運転席の方向へわずかに傾けられている。

前席カップホルダー。
12ボルト電源ソケットがついている。

収納式後席カップホルダー。
実用一点張り。

後席はそれほど広くない。

後席ヘッドレストは大きく、後方視界を
かなり阻害する。

ドアインナートリムもシンプル。

荷室容量は通常で430L。
後席を倒せば最大1,241L。
ステーションワゴンとしては少ないが、
それほど荷室を使わない人にとっては
十分な広さがある。



畳んでも収まりが悪いドアミラー。

二眼メーターはくっつきすぎだが、
これはこれで人間工学を研究した結果
なのかも知れない。



【性能諸元(V 60:DRIVe)】
全長:4,630 o
全幅:1,845 o
全高:1,480 o
ホイルベース:2,775 o
最低地上高:135 o
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:FF
エンジン:直列4気筒DOHC16バルブICターボ
総排気量:1,595 cc
最高出力:180 PS/5,700 rpm
最大トルク:24.5 kgm/1,600 〜5,000 rpm
最小回転半径:5.5 m
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
燃料タンク容量:67 リットル
車両重量:1,560 kg
乗車定員数:5 人
価格:3,950,000 円(2011年7月当時)













クルマのこと


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