Velvet Skin

第5章 決意



あれから数カ月。
倒れてしまった聖闘士たちは葬られた。
聖域は静かな日常へと戻って行った。

ある日、ミロは森の中を歩いていた。
目の前にはあの日と同じ景色が広がっていた。
黒い森。
道とも呼べないような道が作られている。
この近くにあの温室がある。


そして雨が降って来た。


行ってはいけないと自分に言い聞かせていた。
しかし、体は言うことを聞かなかった。
憑かれたように歩いて、とうとう壊れた入り口の前まで来た。

だめだ!入るな!

足は愛しいものがいた方向へと進んでいった。
暗くてよく見えない。
躊躇うように周りを見渡した。ここは何も変わっていない。戦いの跡もない。ただ古ぼけた温室。
外の方が明るいと感じた頃、光るものが目に入った。
そろそろと近付いてみる。
「!」
彼のすべての動きが止まった。


紅い、髪の毛だった。


カミュの顔が飛び込んで、消えていく。
もう二度と思い出さないと決意したばかりだった・・・。

ミロは突然、温室を飛び出した。

無我夢中で走った。森を抜け、海へ出た。
肩で息をするほど、体の中は激しかった。

雨は止んでいた。空には星が煌めいていた。

砂浜に膝を付いて、砂をえぐった。爪には砂が入り込んでいた。
髪の毛から透けて、くいしばった口角を伝って涙が流れ落ちるのが見えた。
星が恨めしかった。波の音も。
地球の呼吸に合わせ、ただそこにあった。
もう、何万年も前から繰り返されている営み。地球は実現して来た。

時間に飼い馴らされるのは嫌だ!この自然に風化され、忘れていけというのか?

彼は丸く光っている月を睨み付けると、立ち上がった。
蠍の目は暗く光っていた。
星に背を向けると、しっかりとした足取りでその場を去った。
彼の耳には、もう波の音など聞こえていなかった。


それから数日後、冥界から懐かしい小宇宙を感じた。



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'99.8.21
Gekkabijin