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あれから数カ月。 倒れてしまった聖闘士たちは葬られた。 聖域は静かな日常へと戻って行った。 ある日、ミロは森の中を歩いていた。 目の前にはあの日と同じ景色が広がっていた。 黒い森。 道とも呼べないような道が作られている。 この近くにあの温室がある。 そして雨が降って来た。 行ってはいけないと自分に言い聞かせていた。 しかし、体は言うことを聞かなかった。 憑かれたように歩いて、とうとう壊れた入り口の前まで来た。 だめだ!入るな! 足は愛しいものがいた方向へと進んでいった。 暗くてよく見えない。 躊躇うように周りを見渡した。ここは何も変わっていない。戦いの跡もない。ただ古ぼけた温室。 外の方が明るいと感じた頃、光るものが目に入った。 そろそろと近付いてみる。 「!」 彼のすべての動きが止まった。 紅い、髪の毛だった。 カミュの顔が飛び込んで、消えていく。 もう二度と思い出さないと決意したばかりだった・・・。 ミロは突然、温室を飛び出した。 無我夢中で走った。森を抜け、海へ出た。 肩で息をするほど、体の中は激しかった。 雨は止んでいた。空には星が煌めいていた。 砂浜に膝を付いて、砂をえぐった。爪には砂が入り込んでいた。 髪の毛から透けて、くいしばった口角を伝って涙が流れ落ちるのが見えた。 星が恨めしかった。波の音も。 地球の呼吸に合わせ、ただそこにあった。 もう、何万年も前から繰り返されている営み。地球は実現して来た。 時間に飼い馴らされるのは嫌だ!この自然に風化され、忘れていけというのか? 彼は丸く光っている月を睨み付けると、立ち上がった。 蠍の目は暗く光っていた。 星に背を向けると、しっかりとした足取りでその場を去った。 彼の耳には、もう波の音など聞こえていなかった。 それから数日後、冥界から懐かしい小宇宙を感じた。 |