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美流は電車の中で動けずにじっとしていた。隣に神遊が寝ているからだ。なんでこんなことになったかっていうと、電車に乗ってすぐに2人掛けのシートに座れたのだが、神遊が「悪いけど肩貸してくれ」と言って来たのだ。やっぱ1人で帰れないじゃねーか。そうこしていると、車内アナウンスが最寄り駅に着いたことを告げた。 「相沢着いたぞ」 相沢の肩を揺らして起こした。俺たち2人は駅を出た。 「で、お前んちどこ?」 「歩いてすぐなんだ。こっち」 指差す道を一つずつゆっくり歩いて着いた住宅街の一角に神遊の家があった。家の人はいなさそうだ。 「俺んちここ。もう大丈夫だから」 神遊は鍵を取り出しドアを開けようとしたが、ドアが重くてすぐに開けられなかった。 「ドアも開けれないヤツを放ったらかして帰れねーよ。部屋までついてく」 「・・・」 神遊は肯定も否定もせず、美流と一緒に家に入った。階段を上がるのも億劫な状態だったので、美流が神遊の肩を担いで連れて行った。2階の突き当たりの部屋を開けるとベッドの上に崩れるように落ちた。美流もベッドの端に座った。 「今日はありがとな」 似合わない一言を言われて、美流は「おう」しか言えなかった。 部屋には机とかクローゼットとか本棚とかテレビなどがあって結構普通の高校生の部屋って感じだ。本棚はバスケ関連ばっかり。机には中学生の頃、面田益玖と一緒に映ってる写真があった。今よりかなり小さめの神遊が嬉しそうに笑っている。かわいーじゃねーか。どっからどういうふうにひん曲がったんだか。 「もっと部長の写真とかあんのかと思ってたら、これだけなんだな」 「それ中1のときやっとの思いで撮ってもらった写真」 それしか面田益玖との写真はなく、宝物だと付け加えた。 「お前さ、笑ったところはかわいいじゃねーか。もっと笑ってろよ」 「え・・・?」 「・・・家の人はいないんだな」 「多分もうすぐ帰ってくると思う」 「そっか。じゃあ、俺そろそろ帰るわ」 そう言って立ち上がった美流は神遊がシャツをつかんでいるのに気づいた。後ろを振り返ると神遊は泣いていた。 「この間はごめん。俺悔しかったんだ。あの人がお前をバスケ部に入れるためにわざと負けるのが分かってたから」 「え?」 正直驚いた。神遊が泣いていることも、今の独白も。そう思っていたら、こんな具合の悪いときまで面田益玖のことを考えている神遊に段々腹が立ってきた。涙まで流しやがって。 「こんなときまであいつのこと考えんなよ。ムカつく」 神遊は黙っていた。熱のせいなのかもしれない。 「・・・別にお前のこと嫌ってるわけじゃないから。言いたかったのそれだけ」 「わかった・・・じゃあな」 自分でもものすごく機嫌が悪いのが不思議な感じだ。あいつが面田面田って言うからいけないんだ。 「クソッ」 なんでこんな気分になるんだよ。 「わけわかんねー」 神遊の家を出たとき、違う学校の生徒とすれ違った。 「神遊の友達?」 誰だろう?知り合いなのかな。 「えっと、・・・はい?」 「あ、俺神遊の幼なじみなんだ。なんかあった?神遊ってこんな早く帰ってこないからさ。それとこの時間帯っておばさんいないから」 落ち着いてる感じが年上のような気がした。 「あいつ熱あるのに部活で無理したみたいで、倒れたんですよ。家が近いんで、俺がつれて帰って来たんですけど」 「そう。じゃあおばさん帰って来たら俺伝えておくわ。ありがとう。ちなみに俺んち2つとなりのそこだからなんかあったら言って」 「はぁ」 2人は名乗らずその場を離れた。美流はさっきの生徒のことを考えていた。っつーかさ、高校生にもなってアレって、過保護すぎないか?俺なんかいつもほったらかしで育ったし。大体部長もあのときビシッと言うべきなんだよ。それをファンだとか言いやがって。 そのときふと写真の神遊が目に浮かんだ。まぁ・・・あんなに可愛い後輩から好かれたら悪い気しないよなー。 とすると、さっきのアイツもそうなのか。 「あ〜もー俺の知ったこっちゃねーわ」 俺はイライラしたまま携帯を取り出すとサッカー部の悪友に電話してみる。もうそろそろ杉崎も練習終わる頃だよな。 「美流?どーした〜?」 「飯食ってかね?」 「電話ってことは外?どこ?」 「自分ちの近く」 「は?家に帰るなら家で飯食えよ」 獅子は笑って答えた。 「家の近くだけど家じゃねーし。俺着替えてから行くから」 「いいぜ、何でも聞いてやるって」 「バーカ!じゃ、後でな」 俺は電話を切ると、あと10分程の距離を走り出した。 |