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翌朝、ミロは腕の痛みで目を覚ました。隣ではカミュが寝ていた。 そう言えば昨日、腕枕なんてものをしてたなあと思いながらミロはカミュの方を向いた。 向こう側を向いているカミュの睫の先が見える。こんなに長かったなんて知らなかった。 カミュの紅い髪を一房掴むと、上からパラパラと落とした。香りが漂って来た。 「綺麗だ」 無意識のうちにそう口走った。 この麗人を情緒不安定にさせた、あいつが憎い。 「カミュ、少しぐらい報復してもいいよな?」 カミュの頭にキスすると、ミロはガウンを羽織り、部屋を出た。 「ザイード。この写真の蠍を100匹ほどこの住所に送られてくる荷物と掏り替えろ」 ミロは写真と紙切れを渡した。 「わかりました。珍しい種ですと、今日中に集めるのが難しいかも知れませんが、なるべく急がせます」 「急げ。掏り替えるのは実験用に使う動物で珍しく、安全なのがいいな。それもサガ・ノイエンタール自身に宛てられたものだ」 ザイードはミロを見た。 二人とも口の端が釣り上がっていた。 「ルチアーノが手を出せない形でやれよ」 「分かりました」 ザイードは事務所へと車を走らせた。その様子を上から見ていたミロは、物音で顔を上げた。カミュが起きて来ていた。 「おはよう」 「仕事?」 「まあ、そんなとこ。それより、今日は何して過ごす?俺としては何もしないで昨日みたいに、ぴったり横にお前がいてくれるのがいいんだけど」 ミロは意地悪くウィンクしてみせた。 「昨日行けなかった栗の木に行きたい」 「分かった」 ミロは笑いながらカミュを引き寄せた。 その夜、カミュがシャワーに行っている間、居間でくつろいでいたミロに電話が入った。 「もしもし」 相手はザイードだった。 「で、どうなった?」 「やりました。血清が足りずに、今日の午後死にました」 「そうか。わかった。ありがとう」 電話を切ったミロは、愉快に笑った。そのままカミュのいるバスルームへ直行した。カミュの同意も得ずに、服を脱いで勢い良くドアを開ける。カミュは何事かというふうにドアを振り向いた。 「カミュ!!」 「何だかとても嬉しそうだな」 「俺、入ってもいいだろ」 嫌だと言ってもここで引き返すはずが無い。 「いいけど」 カミュの言葉が終わらないうちに、ミロはバスに入って来た。乳白色の湯が揺れている。 「なに・・・」 ミロは何も言わずに、カミュの身体へ腕を伸ばした。 「あっ」 「お湯より熱いぜ」 カミュの顔が朱に染まった。 ミロはカミュが完全に変わってしまうまで手を休めなかった。 バスルームにはカミュの声が充満していた。ミロは手を伸ばすとカミュの頭に巻いてあったタオルをゆっくり取った。髪がさらさらと落ちてくる。 「んあぁ・・・」 全身から甘い雰囲気が滲み出て来た。 ミロはカミュの膝を抱えて押し上げた。透けて見えそうだった。見えそうで見えない格好がカミュの羞恥心をさらに煽った。 「いや・・・ああッ!!」 抵抗する間も無く、ミロが入って来た。身体を支えられなくなったカミュは、腕を回した。口では抵抗しながら。 「だ、めッ」 ミロはそんなカミュの唇を塞いだ。 でも身体は覚えている。今日までのミロの優しさが突然脳裏に浮かんで来た。突かれた時の甘い痛みが、心を溶かすのに時間は掛からなかった。 突然、カミュは鼻から抜ける息と同じくらいの激しさで唸り出した。 ミロには分かっていた。イントネーションはこう聞こえた。 「愛してる」 |