「ケナフが温暖化を救う」は本当なのか?

樫田秀樹(フリーライター)

ブームにあがる疑問の声

 ケナフ栽培が全国的に静かに広がっている。環境教育にケナフを導入した学校は1000以上あるといわれ、栽培を進める市民団体や企業も急増中だ。
 ケナフは、春に植えて秋の収穫期には5mもの高さに達するアフリカ原産の一年草。収穫後は紙製品に加工でき、その二酸化炭素の吸収量や水質浄化力の高さが謳われ、地球に優しい植物としての注目を浴びている。
 推進団体のホームページには、「CO2吸収で温暖化防止を」「森林保護を」などの言葉が元気に踊る。あちこちのイベントでは種が無料配布されている。
 いま、このブームに疑問の声が上がっている。大阪市立大学大学院生の畠佐代子さんはその1人。
 「ケナフそのものは有用な植物だと思います。ただ気になるのは、『ケナフが地球を救う』だなんて、それを無批判に受け入れるその風潮です。なかには、河川敷の自然の植生を切り払ってまでケナフを植えようなんて例もあるんです。」
 ケナフ万能のように伝えられることへの「もう一つの情報」として、昨年秋、畠さんはブームに警鐘を鳴らすホームページを開設した。そこには各地からの声が届いている。「ケナフよりも森の手入れを」「地球の救世主なんて誇大広告」等々。
 私も、某推進団体の「ケナフ紙で熱帯林伐採を防ぐ」との趣旨を疑問に思った。
 調べてみると、日本での1990年の二酸化炭素レベルに戻すだけのケナフを植えるには、一辺220kmの正方形に相当する土地が必要との試算もある。その100分の1の栽培でも現時点では無理。つまり、「ケナフで温暖化は救えない」のだ。

大きいマスコミの責任

 実は、推進の中心的組織もそのことはわかっている。その一つ、「ケナフ協議会」が事務局を置く財団法人「地球・人間環境フォーラム」の平野喬専務理事は、「温暖化を救うは早計!?」と題した毎日新聞の記事を前に
 「私たちは、ケナフだけで温暖化を防ぐといったことはありません。いってたのはマスコミです。その報道に多くの市民が飛びついたのは事実なのに、話題になれば、今度はその市民運動を叩くんですから」と憤る。確かにマスコミの責任は大きい。
 一方、地球を救うつもりで運動を始めた人のなかには、落ち込む人もいる。中部地方の某ケナフ団体のAさん。
 「壁にぶつかりました。地元の学校ではケナフは『総合的な学習の時間』に引っ張りだこです。わずか半年で種まきから収穫、紙作りのすべてを経験できる点ではいい教材です。でも私、生徒にケナフは温暖化を防ぐなんて話してきたのに、そうでないことがわかってしまったんです
 行政としてケナフ普及を進め、全国150もの自治体の視察を受ける神奈川県平塚市経済部産業推進課の黒部敏夫課長代理は、Aさんのような人が出る背景を次のように説明する。
 「温暖化の概略やケナフの限界など正確な情報を伝えなかった推進側の責任もあります。私は、ケナフ栽培はあくまでも、水や紙などいろいろな環境問題に目を開く『きっかけ』として進めるべきと思います。」
 ケナフ協議会や平塚市も自然植生を刈ってまでの栽培は同意しない。だが、他の自治体から「河川敷にケナフ栽培をとの住民要望にどうこたえたら」との相談が寄せられるほど、ケナフに熱心な人がいる現状がある。
 まずは、それらの人の「善意」を汲み上げ、ケナフの欠点も含めた正確な情報が提供されるべきだ。温暖化防止なら、フロン回収、節電、古紙回収などの運動もある。前出のAさんは「ケナフ運動に意義はある。でも、ケナフを『きっかけ』に他の運動とも関わりたい」と語った。そうなったときに、ケナフ運動はより意味をもつはずだ。

(「生活と自治」2000年9月号掲載記事、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会発行)

*記事掲載にあたり、執筆者と「生活と自治」編集部の許可を取っています。<は>


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