ケナフは本当に日本で帰化しないのか?

−程舟氏(高知大学)のケナフ協議会ニュース第91号記事への反論−

黒沢 高秀(福島大学教育学部助教授)

 ケナフ推進派の「帰化しない」論で,多くの議論はちょっと考えればおかしいとわかる間違い(例えば一年草だからとか,作物だからとか)にもとづいています。ただし,高知大学の程舟氏によるケナフ協議会ニュース第91号の記事(「ケナフは日本で帰化するか?」→ケナフ協議会HP参照は専門的で,説得力がありそうに見えます。「帰化の可能性につき科学的な検証をしてみることに致します」とあるので,こちらもきちんと「科学的に」対応しておいた方がよいかもしれません。もっとも,ケナフは実際アフリカとアジアで広く逸出あるいは帰化していることが知られているので,この事実自体が一番強い反論になると思います。

 私が気づいた彼の間違いは,

(1)故意にではないと思いますが,帰化と畑地雑草をすり替えていること。
 彼の述べた6条件のうち,2,3,6は畑地以外の帰化では関係ありません。もっとも,ケナフは6条件をすべてそろえているような気がします。だからこそアジアとアフリカの畑地雑草として知られている(竹松・一前1993)のでしょう。

(2)初期の成長が遅いといいますが,何と比較して遅いのかわかりません。
 そこら辺の雑草は春先に1日に0.2-0.5cmも伸びましたっけ?春先が具体的にいつを指すかにもよりますが,春の比較的はやい時期であれば,野生植物としては成長が速い部類に入るような気がします。ケナフの種子は5mmくらいということなので,一年生草本としては異例の大きさです。同程度のサイズの種子を持つ一年生草本のオオブタクサは,種子の大きさを活かして高い初期成長速度を達成していることで知られています(鷲谷1996)。

(3)高知県では種子収量は多くても20-30g/m2がやっとでしたとありますが,それって多くないですか?
 少ないというのは穀物と較べていないでしょうか?ケナフの種子重は30ミリグラムということですので約1000粒/m2の収量になります。大型の種子をつける一年生の野生植物としてはかなりの収量ではないでしょうか。また,「雑草は極めて繁殖力が旺盛で、1個体が何万又は百万個以上の種子を生産します」とありますが,必ずしもそうではありません。

(4)ケナフのように種子がこぼれ落ちるだけの単純な種子散布をするものは重力散布といいます。草本植物としては大型の種子をつけるものにみられるとされています(中西1994)。重力散布は野生植物で特に珍しい散布方法ではありませんし,散布力がないわけでもありません。

(5)報告がないことと帰化の事実がないことはちがいます。

 文章中の言葉の使い方などからみて,彼はあくまで農学の専門家で作物に関する知識を持っている人と思われます。しかし,上記の間違いなどからみて生態学や野生の植物について十分な知識があるかは疑問です。ただし,野生化をないといわずに「ほとんどない」といっているところは研究者として誠実かもしれません。こちらも絶対に帰化するというつもりはありません。

 ただ,ケナフが世界各地の熱帯・亜熱帯に広く逸出あるいは帰化していることと,関東地方以南に熱帯・亜熱帯原産の植物が多数帰化していることから考えて,日本でも関東以南は帰化の可能性が十分にあると思います。それ以北は帰化の可能性は低いと思いますが,万が一帰化したときの生態への影響の大きさを考えると,このような地域でも組織的で大規模な導入には反対せざるを得ません。ケナフは大型一年生草本であり,他の多くの一年生帰化植物が道端や荒れ地で大人しくしているのとは違い,大型一年生草本の帰化植物は草地などの自然植生に侵入して植生破壊を行うことがあるからです(例えばオオブタクサ(鷲谷1996)など)。

引用文献
竹松哲夫・一前宣正. 1993. 世界の雑草II離弁花類. 全国農村教育協会.
中西弘樹. 1994. 種子はひろがる 種子散布の生態学. 平凡社.
鷲谷いづみ. 1996. オオブタクサ,闘う 競争と適応の生態学. 平凡社.


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