かえるの絵本
第9話 この世の竜
アンジェは思わず、足を止めた。
ポカンとして、入り口に立つ。そこは自分が帰る、いつもの酒場。
「・・・・・・マスター・・・?」
うかがうように呼んでみても、返事は返ってこない。
マスターが・・・いない。お客さんもいない。
日が高い時間なので、明かりが灯ってなくとも、さして暗くは感じないけれど・・・。
先ほどまで、彼女は図書館に行ってきた。
冒険で手に入れた、とある本を預けるために。
コロナの西に位置する山にて見つけてきたその本は、街にとっても、あるいは世界に
『この世界に住まう竜』――本には、こんな題名がつけられていた。
コロナの西のレーシィ山。そこを住処としていた、古の魔法使い。
自分にかけられた呪いが、竜によるものであること・・・。
直接的ではないにしろ、自身に関わる情報を、またひとつ手に入れたことになる。
(マスター、やっぱりいないのかなぁ・・・)
カウンターの中をのぞいてみたが、やはり姿は見当たらない。
ん?と一瞬目を見開いて、次には足がそちらへ動く。
カウンターのテーブルの、一番隅に「それ」はあった。壁に立て掛けて置かれている、
竪琴。
広場でときどき会う、吟遊詩人のミーユが持っているような、あの音を奏でる竪琴だ。
なぜそんなものがここに・・・?
コト・・・と小さな音をたてて、それはアンジェの腕におさまった。
それからアンジェは、一番近くのテーブルの椅子をひとつ、床に下ろして座った。
・・・彼女は普段、もとある物を勝手に動かすようなことは、しないはずなのだが。
ポロン・・・。
ゆっくりと触れた指が、弦を弾く。
ポロ・・・ロン・・・。
音の余韻が、全身に響く。
なぜだろう・・・。
アンジェは、今度は何か、もっと長い旋律を弾いてみたくて、とぎれとぎれに触れていた
彼女の脳裏には、そのとき、先ほどまで持っていたあの本についてが、現れてきた。
・・・・・・この世界には、三種類の竜が存在する・・・・・・。
食い入るように読んだ文章。
・・・・・・赤き竜・・・・・・青き竜・・・・・・白き竜・・・・・・。
あるだけの想像力をふくらませて思い浮かべた、呪いの主・・・竜の群像。
アンジェの瞳に、光が灯る。
指が再び、弦に向かい、今度は正確に音階を追う。
そしてアンジェは、口をひらいた。
カウンターの奥にある、厨房の裏口から入ってきたマスターは、重い荷物を運んだあと
業火のなかで ふるう爪 民は恐れし かの者を
琴の音にのって、心地の良い歌声が店の中に響いている。
その歌声の主を見て、マスターは思わず、自分の目を疑った。
短い間奏をいれて、アンジェが再び、声を発する。
絆の深さ つなぐ水 大切なもの 守るため
まるで、親が子に歌ってきかせるような・・・穏やかで、優しくて、そしてどこか懐かしい、
一瞬、目を疑ったとはいえ、マスターはその歌声に納得した。
そう。
聖なる未来へ 導く者 瞳に映す 時来たる
竪琴が、歌の終わりを告げる後奏を奏でた。
細い指が、しだいに速さを落として、音階を弾く。
最後の一音が、余韻となってその場に残り、アンジェはまた瞼を閉じそうになる。
――静寂。
・・・・・・・・・。
・・・・・・パチパチパチパチ・・・・・・。
その音で、アンジェはハッと我に返った。
びっくりして振り向くと、なんとそこには、カウンターのいつもの位置に立っている、マス
「アンジェ、おまえ・・・すごいな!!」
興奮したような拍手を一度止めて、マスターはカウンターから足早にこちらへ出てきた。
「いやー、驚いたぜ。まさか、おまえがなぁ! 楽器なんて、いつ習ったんだ? ああ、
「マ、マスター・・・」
なんだかとても喜んでいるマスターの様子に、アンジェも困ったような笑みを浮かべて、
「あっ・・・!!」大事なことを思い出す。
「マスター、これっ・・・ご、ごめんなさい!!」
すべてテーブルの上にあるものが、ひとつだけ自分の後ろに下りている。
彼女はいよいよパニックになって、「とっ、とにかくお返しします!!」と、手にあるもの
だが。
マスターはそれを、受け取らない。
「気に入ったんなら、これ、おまえにやるぞ?」
目と口をまん丸く開いて、この上ない驚きを表しているアンジェに、マスターは、渦中の
「もともと、誰かにやろうと思ってそこに置いといたんだよ。物置整理してたらな、それが
マスターは、顎に手をあて、天井を見上げる。
「いつだったかなぁ・・・かなり昔の話なんだが、うちの酒場で歌ってた旅の吟遊詩人が、
いま、自分のもとにあるその竪琴を、アンジェはあらためて見つめた。
「・・・とはいっても、オレは楽器なんて扱えないし、さっき物置で見つけちまってなぁ・・・
それから、少女の肩を、ポンとたたく。「おまえにやるよ! いや、ぜひ使ってくれ」
正直いえば、その申し出は、アンジェにとって願ってもないものではあるのだが・・・。
「でも・・・」やはりアンジェは、遠慮してしまう。「だったら、やっぱりミーユさんにあげた
そうして返ってくる答えが、なんとなくわかっていたマスターは、さらに力強く続けた。
「よし、ならこうしよう! おまえこれから、そいつを使って店で歌ってくれ。おまえのその
「ええっ!? そんな・・・でも私、歌、知らないし・・・」
そうなのだ。
「ああ、それなら大丈夫だ」
「楽譜っつったか・・・あれがあれば、おまえにも歌えるさ。街でも売ってるだろうし、確か
すると何かを思いだしたかのように、マスターはいきなり声色を変えた。
「そういや、オレは大掃除の途中だったんだ! アンジェ、ちょうどよかったぜ。探しつい
この時期に大掃除というのもなんだが・・・マスターは「思い立ったら即実行」な人である
とにかく。
それからアンジェは、酒場でときどき、自らの歌声を披露することになった。
ときには、客の歌に合わせて、竪琴による伴奏をつけてあげたり・・・と。
マスターの用意してくれた譜面が、初めて見てもスラスラ読めてしまうのは、きっと彼女
歌や楽器を奏でているとき、アンジェは心から楽しく、穏やかになれた。
それと同時に、何か、身体の底から熱いチカラが湧いてくるような・・・そんな気さえして
賢者ラドゥは言った。
「この世界には、三種の竜がいるようだが、おまえの呪いに関係ある竜は、赤き竜の
人の生きる道を、正しく見据えることのできるこの賢き者は、少女にかけられた呪いの
そして、かの古の文献は、赤き竜について、こう記している。
――力には力で対抗すべし――。 |
「竜のうた」・・・作詞・作曲yumiでお送りしました。(爆笑)
というわけで、この主人公アンジェさん、職業は「吟遊詩人」であります、ハイ!
今回の話は、吟遊詩人の仕事の「弾き語り」のアニメーション(?)をイメージしてもらえばいいかな〜と。
・・・ですが。細かい設定を申し上げさせて頂きますとですね(何だこの口調(^^;)、彼女は正確には「吟遊詩人」ではありません。
ゲームの職業上「吟遊詩人」である・・・といったところで。ま、このへんの詳しいところは、いずれ話の中で明かしたいと思います。
さてと、次回からまた、ゲーム内容追ってく話か・・・。今回ほぼオリジナルで、自分的にとっても楽しかったりして・・・(笑)
次回、第10話「悪者を追って」。ラケル登場クエストですな。ふむ。
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