かえるの絵本
第7話 鉱石の洞くつ
その街・シェスナは、いま深刻な水不足に悩まされているとのことで、彼女はこれから
見たところ旅慣れているようだとはいえ、軽装の女性一人ではやはり危険を伴います。
そして・・・
道中でいろいろと話をしながら、私たちは、ちょっと驚きの事実に当たりました。
その仲間というのが、私も相棒もよく知っている人物で・・・。
コロナの街の武器職人――そう、あの人だったのです。
あれは6月のはじめ。
いつものように朝食をすませ、宿の1階にある酒場へと降りると、待ちかねていたように
「よう、アンジェ。ちょっとこっち来てみろよ!」
これまたいつものようにカウンターの前に立つ、その呼び声の主は、挨拶しながら近づく
「・・・・・・『鉱石探しの手伝い人求む』?」
「そう。依頼人は、ロッドだぜ。なあアンジェ、今日用事あんのか? なければオレたちで
今日はちょうど予定もないし、断る理由はありません。お世話になっているロッドの依頼
大通りにある鍛冶屋からは、今日も独特な鉱液の匂いが漂っています。
「よう、おっさん! 鉱石探し・・・だっけ、手伝いにきてやったぜ!」
店に入るやいなや話をきりだすアルターと私を見て、店主のロッドはすぐに事の次第を
「・・・マスターから聞いたと思うが、炭坑まで鉱石を取りに行くのを手伝ってもらいたいん
「怪物どものすみかか、おもしれぇ! よーし、ロッド。オレに任せとけって。おっさんも、
「何言ってやがる。誰がトシだ。魔物を片付けるのはオレひとりでもじゅうぶんだ」
それを聞いて、えっ?と揃って顔を向けた私たちへ、ロッドはこう締めくくりました。
「おまえたちに手伝ってもらうのは、採った鉱石の運び役だよ。荷物持ちだ、荷物持ち。
こうして私たちは、炭坑のある山へと、ロッドのお供に向かったのでした。
コロナの街の冒険者にとって、鍛冶屋のロッドは、なくてはならない存在です。
けれど、ロッドのすごいところは、それだけではありませんでした。
それは、山道を進んでいた途中のこと。脇に位置する崖を見ながら、ロッドが足を止め
「この崖をよく見てみろ。他のところとは、少し違って見えるだろ?」
そういえば、確かに・・・土が少し崩れているし、草の生え方も何やらまばらに見えます。
「いいか、アンジェ。これは人間や獣、あるいはモンスターのやつらかもしれないが、とに
「この上には、何かがあるかもしれねぇ・・・ってことだな」
同じく崖を見上げながら、アルターが続きを口にしました。
「その通りだ。アルター、おまえさんはどうやらもう登はんができるようだが、アンジェは
『登はん』・・・以前、キノコを採りに山を登ったときにも、同じような場面があったのを思
自信なさげに首を振った私を確認すると、ロッドはまずアルターを先に登らせました。
「ほら、オレにつかまれ。冒険で山を行くときには、こういう仲間が必要になる。いいか、
それはまるで、自分に冒険の先生ができたようで・・・私は大きくうなずくと、ロッドの手を
「あっ・・・おい、ロッド!! それはオレの役目だろ〜!!」
そんなアルターも、登り切った先で見つけた「お宝」には、満足しているようでした。
鍛冶屋のロッドは、元・冒険者。それも、とてもスゴ腕な――。
その実力をまざまざと見せつけられながら、私たちは採掘場へと、足を踏み入れたので
「おう、アンジェ。おまえずいぶん、マンゴーシュの扱いに慣れてきたみたいだな」
鉱山に潜む魔物たちを退けながら、坑道の奥を目指します。
ロッドが褒めてくれたように、確かにこの頃の私は、もうほぼ自在に短剣を使えるように
「だったらよぉ、ロッド・・・もうちっとオレたちに活躍の場を与えろよなー?」
アルターが、苦笑まじりに不満を述べます。
「ん? おお、それはすまんな。何せ久々の冒険だからよ。こういうバケモンどもを前に
数秒後、目の前の魔物たちは、ロッドの斧の旋回によってきれいに片付けられました。
「だあ〜っ、また!! ・・・ちくしょー、オレも絶対あの技使えるようになってやる」
ちなみにこの冒険の後、言葉のとおり、アルターは「あの技」を自分の剣でマスターして
そのまま、特に危ないこともなく進んでいくと、少しずつ採掘場らしき姿が顔を表すように
三人が、しばらく揃って無言になりました。
「・・・・・・これが・・・・・・」
透き通る石・・・それはまるで、光のかたまり・・・。
「これだけあれば、どんな武器でも作れるぞ!」
ロッドが言います。鍛冶職人としての夢・・・その夢の叶う喜びを、今まさに味わっている
だから・・・気付かなかったのです。
「アンジェ、あぶねえ!!」
その声と同時に、私は後ろからの強い衝撃を受けました。殴打の勢いで壁に吹き飛ば
「この石は、オレ様のモノだ・・・誰にも渡さない・・・・・・」
ボーンゴーレム・・・その地に眠る怨霊。赤黒い骸骨の魔物が、今度はロッドに向かって
「ほざきよる、このバケモンめが!」
敵より先に動いたロッドが、斧の一撃を与えます。普通なら立てなくなるほどの攻撃を、
「ロッド!!」
「くっ・・・・・・。おお、気が付いたか、アンジェ。こいつは相当手強い。ここはオレに任せ
・・・・・・。逃げろ・・・・・・?
「何言ってんだよ、ロッド!! んなこと、できるわけねえだろ!!」
・・・その通りだ・・・。
私も、戦う。ロッドを助ける・・・!
「無茶だ! よせ!!」
その言葉を、聞けるわけはありませんでした。私も、そしてアルターも、目前の強敵へと
長い戦い。攻撃と反撃の繰り返し。そして最後・・・高く跳んだロッドの斧が、敵の頭を打
「アンジェ、何を考えてる!」
「・・・・・・・・・」
私は、言葉を返せませんでした。返せなかったというよりも、返さなかったのです。
視線を外さず、口をつぐむ私を見ると、ロッドはふいにくるりと背中を向けました。
「・・・まあ、オレも負けん気の強いヤツは、嫌いじゃないがな」
へへっ・・・と、アルターが私に笑みを見せました。緊張の糸がほぐれた瞬間。
でも、それだけでは終わらなかった・・・。
「まずい、崩れるぞ!」ロッドが振り返り、それから鋭く叫びました。
「それであいつは何と言ったと思う? ・・・『おまえは先に脱出しろ』って・・・そう言ったん
水源の地図のある場所を目指しながら、リンの冒険者時代の話は続きました。
「だからって、仲間を置いて逃げるなんて、できるわけがないだろ?」
そう・・・できるわけがない。
「その場で待つしかなかったけど、それでも私は信じていたんだ・・・」
うん・・・と私もうなずきました。
「すると、いきなり足もとの岩が一個、ポーンと飛んだのさ。そこから、あいつが出てきた
懐かしそうに、リンは笑いました。
『ん? ・・・アンジェ! おまえ、逃げなかったのか? そうか・・・・・・』
「どうしたんだよ、ロッド? ・・・ボーッとしちまって」アルターが顔を覗きこみました。
「すまんすまん」それに応え、ロッドは立ち上がり、そしてこう続けました。「少しばかり、
・・・・・・ああ、そうだったんだ・・・・・・。
「こういう洞窟を歩いていると、ホントに思い出すよ。まあ、ここが崩れるようなことは、な
ふふっ・・・。私は小さく微笑みました。
大丈夫。たとえ崩れても、強い魔物が現れたとしても、必ず守ります。
コロナを離れて数ヶ月――。 |
さてと、今回は少し説明が必要ですね。
この話に出てきた「リン」とは、水竜編に登場するメインキャラクター。ですが、前回で述べた通り、この小説は赤竜編です。
赤竜編のエンディングで、仲間(この話の中での「相棒」)とともに新たな旅に出た主人公。
その旅の途中で、シェスナの街に立ち寄り、リンに出会った・・・という設定に・・・してしまったんですぅ。くっは〜、メチャ強引ッ
ロッドのクエストを書くのに、ただ鉱山冒険の筋を追っていくだけでは、ちとつまんないかなぁと思いましてね。
そう・・・読者の方々に、飽きずに読んでもらえるように・・・。そして、書いてる自分が飽きないように・・・(←本音)
ところで、話中には出さなかったのですが、冒険終わって店に戻ってきたときのロッドのセリフのなかで、
「おまえはだいぶ血の気が多いようだな。まるでオレの若い頃を見ているみたいだったよ」ってのがあるんですが、
お、女主人公に、それ言われても・・・・・・(汗) と、いつも思ってしまいます。呪いの解けた姿はロッドかぁぁ!?みたいな(爆笑)
さぁ〜て、来週のかえるの絵本は〜?
「アンジェです。依頼人の落とした宝石を探して森を訪れた私たちは、そこで
エルフの少女と出会います。第8話『人間だめし』。来週もまた、見て下さいね〜!」
・・・って、絶対”来週”じゃないですけど・・・(^^;
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