かえるの絵本
第4話 水晶に映る運命
聞き覚えのある声が、アンジェの耳に突如届いた。
――仲間を募り、戦う準備を整えてから、わしのもとまで来るがよい。
そう言い残し、賢者は自らの精神体を消してゆく。
東の森の神殿。そこに隠された多くの宝。
4月の終わりが近づくにつれて、コロナの街では、この話題でもちきりだった。
「東の森の神殿ねぇ・・・」
「おもしれぇじゃねーか」
ここで口をはさむのなんて、あの人しかいない。今日も元気な酒場の常連、アルター。
「おい、アンジェ。その神殿とやらに行くんだろ。だったら、オレの力が必要だよな?」
少々、強引気味ではあったが、アンジェにとっては願ってもない申し出だった。
「・・・東の神殿? ふーん・・・おれの魔法が役に立つときがきたのか。いいぜ。付き合っ
魔法学院で日々、練習を積んでいる駆け出しの魔術士マーロは、誘いを断るそぶりもな
人間の姿に変わった矢先、魔物と遭遇したアンジェは、そこで弱さと未熟さをはっきりと
「門が閉ざされておるな・・・」
コロナからは、どのくらい離れているのだろう。街のざわめきからほど遠い、静寂な緑の
「わしの聞いた話じゃと、この門は一年に一度の特別な日のみ、開くということなんじゃ。
・・・扉に動く気配はない。
アンジェも、あとについて近づいてみた。
・・・それはまるで、そこに命が吹き込まれたかのように・・・
「おお・・・」
ラドゥが、感嘆の声を上げる。
「アンジェよ。やはりおまえは、特別な宿命のもとに生まれた人物のようじゃな」
もちろん、そんな自覚などアンジェにはない。
「・・・さあ、ときは満ちた。おまえの宿命、しかと見届けてくるのじゃぞ!」
冒険者たちが、冷たい空気の中へと姿を消していく。
「・・・・・・さて」
先頭にアルター。少し後ろにマーロ。そのさらに後ろを、アンジェは進んだ。
「アンジェ?」マーロが振り向き、声をかける。「・・・怖いのか?」
・・・恐怖心。もちろんそれも、一部を占める。あとは、ひそかな好奇心と、言葉にできぬ
「そんな不安そうな顔するなよ」
クス・・・と少し笑いながら、マーロは会話を続けた。
「この前も言っただろ。魔物なんか蹴散らしてやるって。だから、・・・・・・!?」
目の前の新米冒険者が、ふいに表情を変化させたのに気付き、少年は口を止めて同じ
「へへっ、さっそく来やがったなー!」アルターが、うれしそうに剣を構える。「オレ様の剣
早くひと暴れしてぇぜ・・・と、顔を合わすたびにこんなことを言っていた。その鬱憤を、こ
剣をしまおうとしたアルターの背後に、黒い影が躍った。魔物が1匹、残っていたのだ!
(あぶない!!)心は叫んだ。しかし、とっさで声が追いつかない。
――ドゥンッ!!
・・・次にアンジェが見たものは、黒い煙を浮かべて床に横たわる、魔物の姿だった。
「サンキュー!マーロ」今度こそ剣を収め、アルターは言う。「ナイスフォローだぜ」
「・・・フォローじゃねえよ」言われた側が、鬱陶しそうに答える。「ったく、毎回毎回・・・」
そんな二人のやりとりを見て、アンジェは思わず笑ってしまった。
――いやっほー!――。
石造りの廊下に、聞き慣れない声が響いた。3人の動きが止まる。それぞれが手にした
「やっとこの神殿に入れるぜ〜。水晶の間にダッシュだぁ〜」
軽めの服装に、武器やら道具やらを身につけたその男は、こちらの様子など目にもくれ
先を行くこと、数歩。
「ううっ・・・。誰か助けてくれ・・・・・・」
今度は、途切れそうな、弱々しい声である。すぐさま声の出所へ近づいていくと、そこに
「・・・・・・どうする、アンジェ?」
手当てのかいあって、男は元気を取り戻した。そして、ペラペラと饒舌を放ち始めた。
「ふぅ、助かった。礼を言うぜ。オレの名は、オジャージン。トレジャーハンターだ。この神
ジゴウジトクだ・・・と、口をはさむアルターを無視して、男はまだ話を続ける。
「・・・あんたら、強そうだな。会ったばかりで、こんなことを頼むのもなんだが・・・・・・よか
これには、さすがのアンジェも返答に困った。もし、それほど強い怪物がいるのなら、こ
結局、アンジェは同行を許可することにした。仲間二人にも、どうやら異論はない様子。
水晶を守る怪物ども・・・と、先ほどラドゥは言っていたが、この次々と行く手を阻もうとす
辿り着いた、その場所。
「なんだ、おまえは?」人間の言葉を話す。ここまでに戦ってきた魔物たちとは、見た目も
「おまえも、自らの運命を知るべく、この神殿まで来たのか?」地に響く声で、守魔は問
気迫が風となり、冒険者たちを襲う。ビリビリと、しびれにも似た感覚に、アンジェは一瞬
「もちろん・・・そのつもりだ」
言葉とともに、放たれた炎が、魔物を直に攻撃する。と、同時に走った戦士の剣が、時
「くらえっ・・・雷牙!!」
剣気に、いかずちが混ざり、鋭い光とともに斬りつけた。守魔の動きが、一瞬止まる。
手ごたえは、確かにあった。
「アンジェ!!」
短い悲鳴をあげて吹き飛ばされた少女のもとへ、仲間たちが駆け寄ろうとした。しかし、
「おい、おまえ! アンジェを頼んだぞ!!」
いち早く、アンジェのもとに寄っていたオジャージンに向かって、マーロは厳しい声を発し
「大丈夫か、アンジェ」・・・薬草を使い、オジャージンは手早く少女を手当てする。ほどな
「アンジェ・・・」後ろから腕をつかみ、オジャージンが言う。「その短剣じゃ・・・ヤツを傷つ
アンジェの足が、ピタリと止まる。正直、今の一撃で痛いほど気が付いていた・・・事実。
――だったら、どうすればいい!?
眼前では、戦士と魔術士が持ち前の技を駆使して、思う存分魔物に立ち向かっている。
せめて、遠くからでも攻撃できれば・・・。アンジェの目に、魔法を放つマーロの姿が映っ
そのときだ。「危ねぇっ!! アンジェ!!」
二人の攻撃の合間をぬって、敵がアンジェめがけて襲いくる。(間に合わない!?)誰も
「ギャアッ・・・!」
・・・・・・魔物は、攻撃を受けた。
「あっ・・・」繰り出した本人は、いつのまにか伸ばしていた右手をあわてて引っこめ、ほの
「おい・・・今の・・・」アルターが、驚きを隠せない様子で声を出す。
近距離で炎をくらった守魔は、さすがに予定外だったらしく、大きく跳躍して、元いた位置
そんな折、マーロが何かに気付いた。アルターが再び攻撃に出たのを確認すると、いま
『おれとあんたで、同時に炎の矢を放つんだ』
手のひらに、熱いちからが集まる。刹那――。
「今だ、アンジェ! 撃て!!」
アンジェの手から、炎が飛び出す。そこに、マーロの魔力が重なって、ふたつの炎は、ひ
神殿内に、すさまじい轟音が響きわたる。
「・・・降参したほうが身のためだぜ。魔物のおっさんよ」
地面に這う魔物の顔へ、戦士は剣を突きつけた。
「見事だ・・・。おまえたちの力、認めよう。さあ、水晶を見るがいい」
やったな・・・と、魔術士が端正な笑顔を見せる。アンジェも、ほっと胸をなでおろした。
「さっそく水晶を見に行こうぜ」と、オジャージンの言葉どおり、3人は開かれた扉をくぐり
「・・・いよいよだな、アンジェ。なんだか、オレまでキンチョーしちまうぜ」
ごくり・・・と、アンジェは息を飲みこんだ。
そのとき、アンジェの横に、マーロがすっと進み出て・・・そして、小さく囁いた。
「アンジェ、心配するなよ。おれがついててやるから」
・・・その言葉は、アンジェのなかの、重圧を溶かす。
水晶の前へ・・・アンジェは立った。
「・・・・・・!!」水晶には、ひとつの「影」が映った。「・・・なんということじゃ。まさか、これ
聞き覚えのある声に、アンジェはハッとして振り向く。そこには、まぎれもない、賢者ラドゥ
「そんなことはどうでもいいさ」そこで、マーロがするどく口をはさんだ。「それより、この水
賢者は、地面に視線を落とす。
「年寄りはくどいぜ。早くしろよ! アンジェの運命がかかってるんだぜ!」
「・・・・・・今、この水晶が映し出しているのは、竜の影。すなわちこれは、アンジェにかけ
・・・・・・リュウ・・・ノ・・・ノロイ・・・・・・。
「この世で最も強力な呪い・・・それが『竜の呪い』じゃ。竜の呪いは、強い解呪の魔法や
そして、ひととおり話すと、賢者は最後に、こう締めくくった。
「アンジェよ、とにかく竜に会うのじゃ。それが、おまえにかけられた呪いの正体を解く鍵
アルター、マーロ、そして、アンジェ。
「アルター!マーロ!」何かを決心したように、アンジェが、去りゆく二人へ声をかけた。
「・・・もし・・・また何かあったら・・・。・・・また一緒についてきてくれる!?」
とても、必死な申し出だった。
「あったりまえだろ。いつでも呼べって!」
「ふっ・・・あんたといると、いい実戦が積めそうだからな。・・・また、声をかけろよな」
そんな二人を見送ってから、アンジェは胸に手をおいた。
――竜。
大きな存在が、アンジェを待ち受けている。
それは、なくした記憶の道標。 |
「おれがついててやるから」・・・・・・きゃーっ、マーロしゃんったら!!スッテキーーーッ!!!
・・・取り乱しました。失礼。えっと、まず戦闘シーン。自分では結構気合い入れて書いたつもりなのですが、実際読み直してみると
なんかこう、「あっという間」な感じですな(苦笑) 語い選びが難しい! なかなかいい言葉が浮かんでこなくて・・・
(それにしても、「クリーンヒット」って・・・(涙))
この「運命の水晶イベント」。やはり大抵の方は、メンバーに盗賊のルーを入れていく方が、多いのではないでしょうかね?
宝がなんとか・・・って、アッシュさんも言ってましたしね。ここにあるロックピックは、失敗率100%なので(ウソ。でも経験談よ)
宝を全部とりたい場合は、ルーを連れていきましょう。自分が盗賊なら問題ナシです。
・・・あ、ハイ、私はこの話の通りのメンバーで行きましたよ。でも、1stプレイでは、初めてのダンジョン、初めての戦闘に必死で、
カギつきの扉には気が付きませんでした。いやぁ、あの頃は若かった・・・(爆笑)
さて、次回はその、ルーちゃんのイベント。
第5話「ネコと盗賊」。果たして、絵本は出来るのか・・・!??
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