かえるの絵本

第2話 依頼



「のろい!?」

・・・私が静かにうなずくと、目の前の小さなルームメイトは、ますます甲高い声を上げた。

「呪いって・・・どうしてそんなコワイ目に会わなきゃならなかったんだケロ!? アンジェの
身に、いったい何が起こったんだケロ・・・!??」

・・・答えてあげたいのは、やまやまなんだけれど・・・。
私は、首を横に振るしかなかった。

「・・・正直いうと、自分が呪われているという実感さえ・・・無いの・・・。だから、とりあえず
ここで冒険者として暮らしながら、自分の過去に起こった出来事を調べていこうと思って
いるんだけど・・・・・・」

後半は、ラドゥのうけうり。本音は、といえば。

「・・・いったい、何から始めたらいいのやら・・・」

しばしの沈黙。
そののち、かえるがピョンっと飛び跳ねた。

「アンジェ! 街に行こうケロ!!」

!?
ちょっと唐突で、びっくりした・・・けれど、かえるはそのまま、目をキラキラと輝かせながら
提案を続けた。

「これからぼくが、いろいろ案内してあげるケロ! このコロナの街には、楽しい場所や
人々がいっぱいなんだケロよ。きっとみんな、アンジェの力になってくれるケロ。さあ、そう
と決まったら・・・」

そして、今度はドアに向かって大きくひとっ跳び。

「レッツゴー!だケロ!!」


コロナの街には、今日も賑やかな時が流れていた。

酒場を出た私たちは、まずこの辺一帯の大通りを歩き、続いて広場、スラム、学術地区
・・・と、かえるのオススメ通りに順々と名所(?)巡りをしていった。

訪れた場所で、あらゆる人々に会う度に、簡単な自己紹介が交わされる。
とはいっても、私にできるのは、自分の(とりあえずの)名前を名乗れるくらい・・・。
どこから来たか→わからない・・・の会話を何度か繰り返すこととなったが、それにより、
今の自分の状況をも、同時に知らせることになっていた。

そう、まずは自分のことを知ってもらわなければならない。
たとえ、信じられない事実だとしても。昨日まで、自分はかえるだった、ということも・・・。

皆、聞いた瞬間は驚き、私の姿を凝視した。
けれど、次にはすぐに、頼もしい挨拶と優しい笑顔が返ってきた。
中には、積極的に協力の姿勢を見せてくれる人々も・・・・・・このコロナの街に来て本当に
良かったと、私は何度も胸に手をあて、思ったものだった。

それから、「なんでも聞いてほしいケロ」との言葉どおり、かえるの案内もとても素晴らしか
ったのである。

街の施設や、人々について、(なぜそこまで知っているのかと思えるくらい)詳しいエピソ
ードを交えて教えてくれる。おかげで、私はすぐに、ひとりでも迷わず街を歩けるようにな
ったし、それぞれの特徴を素早くつかむことができた。

本当に、良いルームメイトに恵まれたものである。

決意と不安で、交錯していた私の心に、少しずつ、明るい兆しが見えてきたようだった。

すべてが良い方向に動いている・・・!?と、この街での新しい生活を半ば楽しみながら、
五日ほどたったその日・・・

事件は、起こった。


「アンジェ、入るぞ」

ノックとともに、軽快な声が響いた。この部屋を貸してくれている、酒場のマスターだ。

「よう、アンジェ。おまえに初仕事を頼みたいんだ。実は、コロナのすぐ西に、レーシィ山っ
ていう場所があるんだけどな。そこに生えている『美味キノコ』を、採ってきてほしいんだ」

言われるままを、とりあえず黙って耳に入れる。話はまだ続いている。

「明日の団体さんに食わせるためなんだが、オレが店を空けるわけにもいかないし、アル
ターの奴にも別の仕事を頼んじまったから、おまえしか手があいてないんだよ。・・・まあ、
レーシィ山はすぐ近くで、日帰りで帰ってこれるし、モンスターもいないから、初心者のおま
えでも大丈夫だろう」

そうか、普段はアルターが・・・酒場の手伝いなんかもしてるんだ・・・などと思いをめぐらせ
ているうちに、マスターからは、依頼の締め言葉が発せられていた。
「・・・それじゃ、時間がないから、さっそく向かってくれ! 頼んだぜ!」

かくして、私の冒険者としての初仕事は、突然にして訪れた。
心の準備もそこそこに、急かされるまま、目的の山へと直行することとなった。

「イヤな予感がするケロ・・・・・・」

部屋を出ていく私を見送ってから、かえるは思わずつぶやいたそうなのだが。
果たして・・・・・・。

マスターの言ったとおり、レーシィ山にはすぐに行くことができた。西側の土地に則して、
ほぼ街に面しているともいえる小高い山がそれだった。

緩やかな山道を少し登ると、左右に分かれ道があり、その中心に立て札が立っていた。

『右・初心者向けルート』 『左・上級者向けルート』

とりあえず、一度左右をキョロキョロと見渡してから、右のルートを選んで歩き出した。
・・・だが、すぐにその道を引き返すこととなった。
初心者ルートを少し進んだところで、道をふさいで立ち往生している牛飼い人に出くわし、
左側の道・・・つまり上級者向けルートを行くことを、余儀なくされたのである。

・・・大丈夫かな。

不安はあったけれども、ここで止まっているわけにもいかない。ましてや、マスターに任さ
れた初仕事だ。怖じ気づいて戻るなんて、もってのほか。

行こう!と、早足にて進み出した、そのときだった。

「ちょっと待って!」

一瞬、驚き気味に振り返ると、ひとりの旅人風の青年が、後ろから駆け寄ってきていた。

「キミ、レーシィ山に行くのかい? こっちは上級者向けルートだから、技能がなくちゃ
進めないんだぜ」

・・・・・・ギノウ??

疑問をそのまま露わにした、こちらの表情を見て、青年は微笑しながら会話を続けた。
どうやら、この「上級者向けルート」は、ある程度の山岳登坂技がなくては、先を進むのが
ほとんど不可能であるらしい。

けれど、このまま山を登れないと、頼まれたキノコが・・・・・・。

「だったら、ボクが途中まで一緒に行ってあげるよ。この辺のことにも詳しいし、ね」

こうして、快く山道の同行を引き受けてくれた「ヴィクタ」と名乗るその青年のおかげで、
依頼の放棄までは免れることができ、まずはひと安心したのであった・・・。

その後、進路をふさぐ大岩やら、確かに普通に登るのにはちょっと険しい崖道などに、
何度か突き当たったが、旅慣れたヴィクタの助けで、難なく切り抜けることができた。
そして、山道をともに歩いた私たちは、「この先を行けばキノコのある場所に出る」という
道の手前で、進路を別にすることとなったのだった。

しっかりとしたお礼を言う暇もなく、旅人は颯爽と自らの道を歩んでいってしまったが、彼
のおかげでここまで来ることができ、私はまた、明るい気持ちで胸が一杯になった。

さあ、キノコを採って帰るぞ!

意気揚々と、走り、広い場所に出る。

が――。

そこに待っていたのは、キノコではなかった。

ドス黒い肌・・・邪悪な羽・・・いやらしく鋭い眼光・・・
それは、まぎれもない、「魔物」・・・・・・。

「モンスターもいない」・・・!? 頭の中で、マスターの話が前後する。
信じられない。でも、目の前にいるのは本物なのだ。

黒い悪魔は、こちらの姿を確認するや否や、薄笑いを浮かべて飛びかかってきた・・・!

――た、戦わなきゃ!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
決着は、一瞬だった。

・・・満足な構えも出来ず、魔物の突進を正面から受けた私の身体は、人形のごとく宙を
舞い、そのまま地面に・・・墜落した。

そして・・・・・・。


「アンジェ、災難だったな」

ここは、酒場。
営業時間の終わった店内で、戦士のアルターと魔術士のマーロが、待ちかねていたよう
に駆け寄ってきた。

・・・気が付くと、診療所のベッドの上にいた。
魔物に突き飛ばされ、地面に強く身体を打ちつけた私は、そのままあっけなく、気を失っ
たのであった。

ぐったりとした私を、この街の診療所まで連れてきてくれたのが、アルターとマーロだった
のだそうだ。診療所の女医アエリアが、話してくれた。

そういえば、遠のく意識の中で、確かに二人の声を聞いたような気も、するような・・・
しないような・・・・・・。

あの魔物は・・・!? 二人が、倒してくれたのだろうか・・・。

幸い、ケガ自体はたいしたことはなく、すぐに冒険者宿に戻ることができたのだった。

「実は最近、あの山には、妙に強い魔物が出るようになったんだ」

「だから、マスターから、おまえをそこに行かせたって聞いて、心配になってさ。急いで
向かったんだよ」

もしも、彼らが来てくれなかったら・・・今頃、私は・・・・・・。
一瞬の表情の曇りに、アルターもマーロも心配そうな面持ちで、こちらをうかがっていた。

「あっ・・・た、助けてくれて、本当にありがとう。・・・それで、その魔物は・・・・・・」

なんとか笑顔を見せ、二人のほうへと顔を上げる。

「それがよ、オレ様の存在にビビったのか、技も見ねぇうちに逃げちまったんだ。・・・けど
どうだい? オレってたよりになるだろ。ほれてもいいんだぜ」

得意満面のアルターに対し、マーロは少しばかり憂いの表情を浮かべてから、元の端正
な顔に戻って言った。

「・・・とにかく、これから外に冒険に行くときは、おれたちに声をかけろよな。魔物なんか、
けちらしてやるからさ」

・・・・・・頼もしい言葉に、思わず、心からの笑みがこぼれた。
そして、私の無事を確認した二人は、そのまま酒場をあとにしたのだった。

二人の背中を見送ると、今度はマスターが、申し訳なさそうに話しかけてきた。

「・・・あっ、そういえば、キノコ・・・!」
肝心なことを、すっかり忘れていた。

「ああ、それならあいつらが採ってきてくれたから、心配いらないぜ。・・・それより、本当に
すまなかったな・・・」

マスターは私に何度も謝り、それから、今回の報酬のお金を、しっかりと手渡してくれたの
だった。

依頼を成し遂げることは、できなかったというのに・・・。それに、アルターとマーロは、
出会ってまだ数日の私のために、すぐに駆けつけてくれた・・・。

そして・・・部屋に戻ると、小さなかえるが、心配そうに私の帰りを待っていたのである。

自分は、こんなにも、あたたかいものたちに包まれている・・・!

・・・・・・・・・なのに。
ふつふつと湧き上がる、この気持ちは、いったい何なの・・・!?

――負けた。たった1匹の魔物に。何もできず、一撃で――。

疼く心を隠すように、私はベッドに潜り込んだ。

その数日後、同じようなやるせない思いを、また経験することになろうとは・・・・・・。

このときはまだ、知るはずもなかったのだった。


第3話へつづく


あ、いけね!ラドゥ出すの忘れちゃった・・・。セリフは一応メモってあったんだけどなぁ。ま、いっか。どうせ幻だし!(爆)

2話目・・・いかがでしたでしょうか? なんか状況描写が、ドキュメント番組っぽくなってる気もしますね(^^;
本当は、街の人々のことをもっと詳しく書き連ねたかったんですけれど、キリがなくなりそうなのでやめました。これからの話で、
関わってくるごとに登場してもらえばいいかな〜なんて思って。
ちなみに、実際のプレイでは、さすがに一撃ではやられていません(笑)・・が、回復だけで精一杯だったってな思い出がありますな。

御存知のとおり、魔物を追い払ったときのアルター&マーロの会話が、文中には出てきていません。
主人公は気絶してたから知らなかったってことで。(←勝手に決める) でも、あの会話はホント面白いですよねぇ。
マーロの、あのあからさまに「?」を出すところなんて、最高!! 何度見ても大笑い!!! と、あとがきはこのくらいにして・・・

次回、第3話「潜在する力」。
自分の無力さを思い知ったアンジェは、新しい武器を買い、その足でアルターとの剣の稽古に望みますが、
果たして・・・? どうぞ、また読みにきてやって下さいね!(^^)/

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