かえるの絵本 第16話 天才の試練

− 後編 −



「え・・・も、戻るって・・・!?」

ロッドの言葉に、アンジェもマーロも驚きを隠せない。

「・・・ああ。なぁに、大丈夫さ。おまえたちもすいぶん腕を上げたようだし、オレがついてなくとも、宝珠くらい探せるだろう」

「? ホウジュ・・・ですか?」そのとき、商人は何かを思い出したかのように、自分の腰の荷物を探った。すると――。

「もしかして、これのことでは?」

「あっ!」

声を上げ、マーロが思わず駆け寄る。
なんと、商人が取り出したそれこそ、『虹の宝珠』の一つ・黄色の珠だったのだ!

「先程すごい勢いで何かが飛んできたんで、そっちに見に行ってみたら、それが・・・。なんだ、ロッドさんたちこれを探していたんですか」

「おう!! でかしたぞ、ハンス!!」

偶然とはいえ、こうして二つめの宝珠を見つけることができた。
――ロッドの決意は、これで固まる。

彼は最後に、マーロへ・・・マーロにしか聞こえない声で、こう言った。

(・・・マーロ。おまえは男だ。男ならもう一度、ビシッと決めて・・・)

それからロッドは、視線をふいとずらして、「いいとこ見せてやれ・・・・・・あいつに!」

背中を叩かれ、つられて見れば、そこには、小袋を手にして振り返るアンジェの姿。
マーロは、かぁっと赤くなった。

「じゃあな、二人とも! 頑張れよ!!」

・・・そうして、マーロとアンジェ、二人による探索が、再開されたのである。


ロッドのいなくなった穴は大きかったが、二人はうまく魔物をやり過ごしながら、森中を探し歩いた。
そうして、なんとか赤い宝珠を見つけだすことができ、残る宝珠はあとひとつ――。

けれど、さすがに二人とも・・・特にマーロの疲労は、限界であった。

「危ない!!」

――ザシュッ。
間一髪でアンジェが倒した魔物の前で、マーロはふらりとよろめいた。

「マーロ・・・ねぇ、ちょっと休もう?」

「・・・だ、大丈夫だ・・・。それに、そんなヒマ・・・」

「無理しないで! ・・・はい、ちょっと休憩っ!!」

それはアンジェにしては珍しい、少々強引な口調。
倒れそうな体を杖で支えて強がっていたマーロも、これには驚いてうなずいた。

木陰に座り、アンジェは、先ほど薬売りのハンスから買った袋をあけ、中から小さな瓶を取りだし、マーロに手渡す。

「・・・これ・・・」

「うん、精霊の霊薬。ハンスさんにね、安くしておきますよ〜って言われたから・・・。さぁ、これ飲んで、あと一個もがんばって探そ!」

「・・・・・・」マーロは、黙って霊薬を飲み干した。

虹の宝珠は、使う者の「心の乱れ」に反応する――。
・・・こんなふうに、右も左もなく森をさまようハメになったのも、すべて、その『虹の宝珠』を扱いきれなかった・・・自分のせい。

「・・・アンジェ」霊薬の瓶を地面に置いて、マーロは言った。「おれ・・・自信がない」

地図を見て、小道を探していたアンジェは、ふとその顔を上げ、マーロを見つめる。

「宝珠をそろえて、もう一度あの炎に向かったとして・・・果たして消せるのかどうか・・・。また失敗して、また・・・同じことになっちまうかも・・・・・・。そしたら・・・」

どうすれば・・・! そう続けようとしたマーロの言葉に、重なったのは、アンジェの声。

「そしたら・・・また探せばいいんじゃない? 大丈夫。マーロならきっと、いつかはあの炎、消してくれるもの」

柔らかな笑顔に、そしてほんの少し、紅色が浮かぶ。
「だからそのときまで、私もずっとマーロと一緒に・・・この森にいるから。・・・それにホラ、私、マーロの突風で炎が消えるとこ見たいし・・・・・・ね?」

そこまで言うと、アンジェは一転「だから頑張ろ!」とだけ付け加えて、突然マーロの目の前で、地図の端っこを指さした。

「・・・?」

「見て、ここ! 私たちがこの森に入ったばかりの辺り。この道・・・たぶん、まだ行ってないと思うんだけど・・・」

マーロも地図を見つめる。
そして、ここまで通ってきた道筋をさかのぼり、頭の中に図を再現――。

真紅の瞳に、光が灯った。

「・・・うん、おれもそう思う・・・。そうか、まだ見逃してた場所があったんだな!」

心強い、同意の声。頼れるマーロの、確かな記憶。

アンジェは、こくりと頷いた。


四つの宝珠をすべて集め、彼らは再び妖精のもとへ。

(・・・この魔法は、自分の力を見せつけるために唱えるんじゃない・・・)

マーロは集中した。

想いの力は、魔力にかわる。
『いいとこ見せてやれ』と、背中を押してくれた、ロッドの言葉も甦る。

(そうだ。いつまでもこんな森の中にいたら・・・)

傍らにいる、暖かな存在。力を与え、力を与えられる。
これからもずっと、一緒に冒険していきたい、大切な・・・。

魔術士に生み出された風が、少女の髪を優しく撫でた。

(――アンジェの呪いだって、解いてやること、できないもんな!)


そして、マーロの突風は、鮮やかに炎を吹き消した。



第17話につづく


イヤー、ついに前後編でいくはめになっちゃったよハハハ・・・。
でも実際にパーティ組んだロッドは出したかったし、アンジェとマーロ、二人のシーンも欲しかったしー、でこういうコトに!
ダラダラしちゃって、ごめんなさいよ〜っ(苦笑)

はぁ、しかしホント、さすがに疲れちゃって・・・ここでのコメントもなんだか浮かんできませんです。・・・ふぅ(汗)
強いて言えば、冒険慣れしたアンジェの本性(?)が、そろそろ出てきたなぁ〜・・・と、そんな感じでございましょうか。

「うたがいを晴らして」は受けたんですけど今回は省略して・・・
次はミーユのクエストですね。ミーユが絡むオリジナル・・・次回、第17話「街角うためぐり」。 のど自慢!?

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