かえるの絵本
第11話 女剣士
いつかアルターとの対戦でそうしたように、低い体勢で剣を受け止め、そこから素早く後ろにまわって、反撃を繰り出そうとする。
一本、とれるはずだった。
「甘いわよッ」
けれど相手は、まるでその動きを読んでいたかのように、ひらりと優雅にかわしてみせた。
「まあ、良い考えではあったけどね。あたしには通じないわ」
あてが外れて、ポカンと拍子抜けな表情をしているアンジェを見ながら、彼女は構えを解いて言葉を続ける。
「でも確かに、ガタイのいい男なんかには有効な技よ。例えばホラ・・・あの赤い鎧の戦士くんとか」
ははは・・・と、アンジェは思わず苦笑いしてしまう。
「・・・休憩にしましょうか」
彼女の名前は、レティルといった。
女ながらに剣士としての一人旅を続けてきたのには、とある大きな理由が存在している。
竜を追って、旅をしているの――。
レティルは確かに、そう言った。
つい先日のことだ。
気軽な腕試しのつもりで来たのが、まさかあんなことになろうとは、レティル自身予想だにしていなかったであろうが・・・ともあれ、そこには彼女にとっての、思いがけない再会が待っていたのであった。
「ハハハ、なつかしいのう」
腰を抜かして座り込んだまま、その人物は笑った。
仕立てのよい革製の服を着たこの色白の男は、名をパトリックという。
「あの泣き虫レンフレーテが・・・」
「チョット!! 余計なことは言わなくていいの!」
少し顔を赤らめつつ、レティルが声高に反論する。
レンフレーテ――それは、レティルの本名である。
「つまらないこと言ってると、ここに置いてくわよ!」
レティルは、普段はほとんどその身分を表に出さずに接していたが、こうして実際に明かされても、アンジェはあまり驚かなかった。
「そ、それにしても、ずいぶんと勇ましくなって、見ちがえたぞ」
「・・・・・・」言葉が止まった。
地面の一点を見つめたまま、答えを求められた女剣士は、けれどなかなかその口を開こうとしない。
やがて、その静寂のなかに、ポツリと小さな声があがった。
「・・・もう一度、レオンに会うため・・・」
声の主は・・・・・・アンジェだった。
(レティル・・・自分で休憩しようって言ってたのに)
木陰に座る彼女の前では、先ほどまでの練習相手が、今度は素振りを始めている。
その手にあるのは、練習用の木刀ではなく――真剣。
手に入れたばかりの武器を、腕になじませるかのように、ときには素早く、ときにはゆっくりと、剣を振って風を斬る。
そんなレティルが、一瞬だけ剣を見つめて、柔らかな表情になるときがあった。
まるで、何か愛おしいものを見つけたかのような・・・。
アンジェには、レティルのその気持ちが、なんとなくわかるような気がした。
(レオンの剣――)
竜を追って、あの剣の持ち主を追って・・・レティルは旅を続けてきたのだ。
「アンジェ・・・・・・」
思わぬ発言をした傍らの少女に、レティルは驚いて振り返った。
自分を見上げるみずいろの瞳は、気のせいか、かすかな光を放っているかのようにも見える。
「そうかもね」心を覆っていた霧が、だんだんと晴れていくのを、レティルは感じていた。
「自分でも、よくわかってなかった。でもきっと、そういうことなんだと思う」
今日、この谷に怪物退治に来ていたのは、実はアンジェたちだけではなかった。
その剣士らしき者は、しかも、彼らの故郷のとある人物に似ていたのだという。
それが、バレンシアの英雄――レオン。
かつて赤き竜と戦い、命を落としたと伝えられている、伝説の勇者。
・・・けれど。
「他の誰もがみんな、レオンは死んだって言うけど」レティルは主張する。「あたしは信じない。どこかできっと、あの人は生きてるわ」
アンジェは、ここへ来るまでに、そんなレティルを何度か見てきた。
そして今、レティルは続ける。
「レオンはあたしの恩人で、バレンシアを救ってくれた恩人でもある。生きてるって信じてるから、もう一度出会うため、旅をしてるのかもね」
穏やかな口調だった。自分の迷いを、静かに消し去るように。
・・・と。
「アンジェ、どうやらいよいよみたいよ」
「うん・・・!」
この先に、目指すものがある。
レティルの不敵な瞳の裏で、とある、従者のひとりの言葉がよみがえった。
・・・そういえば、怪物の背に、何か剣のようなものが刺さっていたようですよ・・・。
怪物に傷を負わせたという、剣士の剣。それをこの手で、確かめられたら・・・。
ひらりとマントをひるがえし、真っ直ぐに前を見る。
「よおし、アンジェ、行こう!」
だけど、恐ろしい赤い竜を倒しに行って、それっきり、帰ってこなかったの。
そのとき、あの人の手に、この剣が光ってたっけ・・・・・・。
「・・・あ、そういえば、レティル」
素振りが中断したのを見はからって、アンジェは声をかけた。
「どうしてその剣が、レオンって人の剣だって、わかったの?」
倒した怪物の背に刺さっていた剣は、騎士剣にも似た片手剣だったが、刃の形も正統で、見た目にはほとんど特徴を感じさせないものだったのだ。
「ああ、それはね・・・」
にこりと微笑みながら、レティルが木陰に歩み寄る。
「ほら、これ見て」
「・・・・・・あっ!」
アンジェは目を見張った。
「月に吠える獅子・・・」
その柄の絵を見つめながら、レティルは静かに語った。
「優しい光を宿す月が、戦いの身を照らしてくれる・・・。この柄の模様を見ていれば、冒険のさなかでも心が安らぐんだ・・・って、レオン、よく話してくれたんだ」
「へぇ・・・」
なるほど。よく見ると、獅子の表情は自信と安堵に満ちあふれているようにも見える。
思わぬ装飾を目にして、アンジェはなんだか無性にうれしくなってきてしまった。
「あ、あの、レティル」踊る心をおさえながら、剣の持ち主に目を向ける。「これ・・・触ってみても・・・・・・いい?」
その顔と声が、やけに遠慮がちだったので、レティルは「ふふ・・・」と軽い笑みをもらしながら、柄の部分を差し出した。
「いいわよ。もちろん」
すると一転。お礼とともに、満面の笑顔を浮かべるアンジェ。そして、軽く手を出してみる。
指先に触れる、獅子・・・・・・。
『・・・アンジェリシア。そういう言い方はやめてくれ。私は・・・・・・』
『わかってるよ。・・・レオンはレオン。勇者であっても・・・・・・なくてもね』
「アンジェ!?」
柄に触ったまま、少女が石のように固まってしまったのを見て、レティルは慌てて声をかけた。
「・・・えっ・・・・・・」
反射的に指を離して、アンジェは顔を上げたが、その瞳はまだ虚ろだ。
(・・・・・・消えた・・・・・・)
何かが、見えた。何かが、聞こえた。
「ちょっと、ホントに大丈夫?」
いま、自分のなかに映るのは、目の前で心配してくれている、大切な仲間の姿。
「・・・う、うん! 大丈夫だよ。な、なんだろうね〜・・・びっくりしちゃった」
「もう! びっくりしたのはこっちだよ!!」
「あははっ、ごめんごめん」
失われたものを、取り戻すために。
アンジェ、レティル、そして・・・英雄レオン。
大いなる運命の道が、今、ひとつに導かれようとしていた。 |
展開がかなり交差していますが、どうでしょう・・・「かえる」未プレイ読者様には、やはり訳わかんなくなっちゃってるかなぁ・・・(^^;
ただ自分的には、単調なクエスト話に陥らなかったので、工夫して書けたつもりでいます。
このレティルのクエスト、全体のセリフがめちゃくちゃ多いんですよ〜。従者とのセリフとかね。
ノートに写すだけで、かなり体力を消耗しました・・・・・・が、結果的にほぼカット! ま、それもまた良しとします。
さて、この話でようやく11話目・・・ですが。
今のところのとりあえずの構想をしてみたところ、なんと、全部で24話くらいになることが判明いたしました(核爆)
まだ半分もいってないってことよ? どうする・・・もっとカットするか・・・いや、しかし・・・・・・ッ(←闘ってる(笑))
さあ!最後までついてこれるヤツは、どいつだぁぁぁ!!
・・・ってゆうか、ついてきて下さい。マジで。宜しくお願いします。私も頑張ります。
はやく全ての記憶を解きたいですね。誘惑に負けて、チラッとまた出しちゃったんですけどね。「アンジェリシア」。
竜が現れたという情報をもとに、アンジェたちは洞窟へ向かう。そして、そこに現れたのは・・・。
次回、第12話。・・・・・・カナ山の洞くつ(仮)。 すっ、すいません。タイトルがまだ決まりません。
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