ドラゴンクエストU
4 風に乗って


 ……うーん、いい天気!
 やわらかな木もれ日と、ときおり頬をなでる風が心地いい。絶好の冒険日和♪
 傷心のアイリンを支えて、あたしたちはまたムーンペタに戻ってきた。そして今は、そのムーンペタをあとにして、今度は町から東の方角へ――。まずはこの長い森を抜けて、海岸沿いの道に出るのが目標である。

 チャリーン――! ……おっと、戦闘終了。
「あの……、次は私も戦いますから……」
 拾い残しのゴールドがないか地面を確かめていると、そのあたしの後ろにアイリンが、困惑顔で歩み寄った。ここまで魔物が襲ってきたときには、瞬間的に王女の手を引き、一緒にマイVIP隠れ場所へ隠れていたのだ。あたしは振り返って、ひらひらと片手を揺らして答えてあげる。
「大丈夫、大丈夫。ここらの魔物は敵じゃないから!」
「――おまえが言うな」
 リモーネのつっこみは、とりあえず聞こえなかったことにしてー。

 あたしたちが向かおうとしているところ。それは、ここムーンブルクに建っているという『塔』なのであった。
 なぜいきなり塔をめざそうという話になったのかといえば、ことは出発前のムーンペタにさかのぼる。
「遠くに高い建物、見えたよねー?」
「……や〜……。あたしあのとき、それどころじゃなかったから〜…………」
「それはきっと、『風の塔』と呼ばれる場所ですわ」
 あのときというのは、ムーンブルク城から東の沼地へ、ラーの鏡を取りに行ったときのこと。沼よりはるか南の方向に、細長い建物らしきものが見えた――と、ランドがなにげなく言ったのだった。
 そして、話を聞いたアイリンが答えた、『風の塔』。
「ムーンブルクに古くから伝わるいいつたえです。その塔にはむかし、ひとりの魔法使いが暮らしていて…………」
 アイリン曰く。
 ……その魔法使いは、魔法使いであると同時に、珍しい道具を考え、作るという、発明家な趣味の持ち主でもあった……。
 彼はある日、自分の住む高い塔から、見下ろす大地へ向けて気持ちよく舞い降りてみたいと考えた。風をはらんで、ふわりと飛ぶ…………。
「魔法のマント!?」
 ランドが目を輝かせた。
「ええ……。風を味方につける魔力をこめたマントなので、『風のマント』とも呼ばれるそうです」
 ……風のマント……。風の塔……。塔、塔、塔…………。
「アイリン、それ、場所、どのあたりだかわかる?」
 窓際の丸テーブルに地図を広げたあたしは、アイリンを呼びつつ、紙上をなぞる。ラーの鏡を見つけたあの沼。そこから下……、つまり南側……。残念ながらあたしの地図には、城と町、それからローレシア大陸にある洞窟以外には、建造物をあらわす表記がされていないのだ。
「私も、幼いころからおとぎ話のように聞かされていただけなので……」
 野山に魔物が放たれるようになって数年。あたしたち子どもが城から遠くへ出させてもらえなかったのは、ローレシアも、サマルトリアも、ムーンブルクも一緒だったようで。
「行ってみたいと願っても、東の海岸を何日も歩かなければ辿り着けない場所なのだと、最終的には説得されて…………」
「――。アイリン?」
 ふと途切れた言葉とともに、アイリンがゆるく握った左手で、口のあたりをおさえていた。彼女はそのまま静かにうつむいて、固く瞼を落とした。
 あ……。思い出しちゃったんだ……。王さまや、お城の人たちのこと…………。
「…………ごめんなさい……。……もし、次に行かれる場所がお決まりでないのなら、風の塔へ行ってみませんか? 私、ずっと行ってみたかったんです!」
 一転、笑顔で瞳を上げたアイリンの、促したかたちの決定だった。
 それからアイリンは、悲しい顔をひとつ見せずに、魔物と戦う意志まで抱いて、ともに歩みを進めている。

「今日はここで休むか」
 森の途中、広めの草地に出たところで、リモーネが足を止めた。日も傾き始めていた。
「さっき渡った川で、水汲んでくる。フィナ、おまえも手伝え」
「えーーーーー!?」
 じょーだんっ!! もう疲れたよぉ、今日は〜〜〜!
「ムリムリッ、あたしはムリ!!」
『休むか』っていったでしょ〜! あたしはその言葉で、もう本日の行軍お休みモードに切り替わっちゃったんだから〜〜っ!!
 ぶんぶんと首を振りながらアイリンにしがみつくあたしを見て、リモーネは「あのなぁ〜」とため息をつく。ええい、そんなに体力が残ってるなら一人で行けい! ――と。
「……私がまいりますわ。リモーネ……さま」
 あたしに袖を掴まれたまま、アイリンがわずかに微笑み口をひらいた。意表をつかれたリモーネは、一瞬固まったあとで、さっきのあたしのごとく大きく首を左右する。
「いい、いい。だったら俺一人で行ってくる。ランド、ふたりを頼むぞ」
 うん、とランドが返事をした直後だった。
「まだ歩けますから。お手伝いさせて下さい」
「…………」
 リモーネは困ったように瞳をそらした。片手を頭にあてる。っていうか、アイリン大丈夫……?
 結局、リモーネはアイリンをつれて、水を汲みに出かけていった。


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