ドラゴンクエストU
3 夢の中の王女


「けっこう重いな・・・。よ、っと」
 ガツンッ! と、床が壊れんばかりの音を一瞬はっして、武器防具屋の試着室を開けたリモーネが軽くジャンプしてみせた。
「わぉ〜、似合うじゃん! 大丈夫大丈夫、ちょっと動けばすぐ慣れるって!」
「おまえ、鬼だな」
 全身をびっしり鋼鉄のプレートで覆うようにつくられた、その名もずばり鋼鉄(はがね)の鎧。ついでに盾コーナーの鋼鉄(はがね)の盾も、リモーネは合わせて試着している。
「・・・まぁ、でも確かにこいつなら、大抵の攻撃は受けてもびくともしなさそうだ。カウンターで腕や蹴りでも、逆にダメージ与えられそうだしな」
「すごいなぁー。そんなに重いのに、受けて逆に殴ったりしちゃうわけ?」
 感心だか呆れだかわからない微妙な笑みで言葉を返すランドは、さっきトルソーからこの鎧を外して持ってみた時点で、すでに自分には装備しきれないと判断していた。・・・いや、ランド、ぜんっぜん気にしなくていいからね。この人の体力筋力がすごすぎなんであって・・・。
「じゃあ、これ・・・とりあえず今日は鎧だけください」
「まいど!」
 あたしはお財布をあけつつレジに向かった。
「・・・おじょうちゃんたち、鋼鉄の盾もいずれ買ってくれるつもりかい?」
「あっ、はい。また明日にでも買いに来ます!」
 レジの店主に、早々こうは言ったものの・・・。
「あー・・・。明日はムリかな・・・。2000ゴールド・・・」
 だんだん、あたしの語尾は弱くなっていた・・・。
 なにげに、鎧より盾のほうが値段が高いのである。しかも倍。あたしは付近の森に現れるモンスター・・・たちがゴールドに変わった景色を思い起こして、一日に集められる額を頭で試算して黙った。・・・すると・・・。
「だったら・・・。そうだなぁ〜・・・、その、鎧と盾。特別に『鋼鉄セット』ってことで、合わせて2500ゴールド! ってのはどうだい!?」
「えぇっ!? ほっ、ほんとですか!!!」
「ああ。おじょうちゃんたち、ここ三日毎日かよって買いもんしてってくれてるしな。大サービスだ!」
「きゃ〜〜!! 聞いたっ、ふたりとも!?」
 たぶんものすごい大サービスなんだと思うけど、単純にもうマケてくれたのがうれしくて、あたしは奇声をあげて小躍りしていた。ここ三日・・・、そう、この店に入ったその日にまず、ランド用に鉄の槍。その翌日にリモーネの鋼鉄の剣。そして今日、このとおり。
 とりあえず1000ゴールド渡しこのまま鎧を受け取ると、店主のおじさんはリモーネが脱いだ鎖かたびらを引き取って、その値を引いて(なんと、買取値まで少し上乗せしてくれてた!!)あと1200ゴールドで盾もセットと約束してくれた。ああ、このくらいなら、今日明日中にきっと集められる!

 まだ陽が落ちるまでには時間があるので、あたしたちはさっそく魔物の森へと引き返した。
 鋼鉄の鎧の着慣れなさに、リモーネはさすがに苦戦しているようで、いつものすばやい動きがなかなかできない様子だった。けど、今日この感触をふまえて、もう一日・・・。

 何度もいうけど、リモーネは天才なので、明くる日には見違えるほど、この重厚な鎧と一体化していたのであって。
「おじさん、本当にありがとう!!」
「おう。魔物退治、がんばれよ!」
 好意の品の盾も無事受け取って、ついに、明日――あたしたちはムーンブルク城へと向けて出発することを決めた。
 ムーンペタ、この周辺での最後の追い込みを終え、薬草類や持ち物を確認して、翌朝、お世話になった宿屋をあとにする。扉を開けると・・・。

「くーん、くーん」
「わんちゃん・・・」
 出会ってから、町にいるあいだ、いつでもどこでもあたしたちに一生懸命くっついてきた小さなワンちゃん。
「じゃあな。おまえも元気にしてろよ」
「だれか優しい飼い主を見つけてね」
 リモーネとランドが、順番に頭をなでた。続いてあたしも、ふわっとした小さなからだを両手で包みこむ。
 町の防壁のところで立ち止まった子犬は、そのまま、鳴きもせず、微動だにせず、ただ、川を渡り行くあたしたちの姿をいつまでも見つめていた。その瞳はどこかいつも切なくて、あたしたちは、そういえばこの子犬が心から喜んでいるようすを誰も一度も見ないままだったのを思い出しながら、もう一度、遠くなりゆくその面影を瞼に残して前を見据えた。


 さんざん修行に使ったムーンペタ南の森を越えてから、草原を西に進む。
「ムーンブルクは、そうとうひどいことになってると思う」
 草地に出てすぐのことだった。リモーネが、歩きながら視線を向けずに話し始めたのは。
「ジョギングに行ってたあの公園に、ムーンブルクの衛兵がいたんだ。ひとりで、公園の片隅の木陰に隠れるようにして・・・」
 リザードフライが一匹飛んでくるのが見えた。リモーネは足を止めたが、話は止めなかった。
「一瞬、城の兵士だとは気付かないほど、ボロボロの姿で座りこんでた。俺と目が合って・・・そしたら、その兵士は突然うずくまって、叫ぶように泣き出したんだ」

 ――『じ、自分が恥ずかしい! 私はあまりのおそろしさに城から逃げ出したのです』――

 ・・・ザン!! リザードフライを一太刀に切り裂いた鋼鉄の剣を背中の鞘に収めて、リモーネはまた前を向く。
「城と、姫のことを、いつまでもつぶやくように繰り返してた・・・。それが、俺たちが今から向かう場所だ」

 左手に見える樹林が途切れたあたりから、南に進路を変えていく。
 高くそびえる岩山を避けるように、ふもとの草原をう回して・・・・・・。

「――っ!!」

 視界に現れたのは、脳裏から見慣れた緑を消し去るほどの、赤と、黒と、それらが混じり禿げた土色に変色した大地。
 そして・・・その真ん中に、ただ跡形のように残された・・・白亜の城の無残な姿だった・・・・・・。


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