――お城――。・・・城の中庭・・・? ここは・・・あの城。あの夢で見た、ムーンブルク城!
・・・あっ、ほら! 王さまとお姫さまがおしゃべりしてる。本当に綺麗なお庭・・・・・・、きゃあっ!?
目の前に黒い霧がはしった。次の瞬間、あたしは城の上空にいて、白亜の城があっという間に赤黒い炎に包まれて・・・・・・あたしは目を覆う。・・・わかってるよ。わかってる。こんな、もう、何度も見せないでっ・・・・・・!
『お父さまーーーっっ!!!』
顔からはっと手をどけた。そうだ、お姫さまがいる――。城の中にまだいる。いかなきゃ。助けにいかなきゃ・・・! あたしは吹き上がる炎風をかくようにして、眼下の城に向かおうとした。・・・と。
突然、今度は今日着いたばかりのムーンペタの町の入り口に、あたしは立っているのだった・・・。
炎上する城がすぐ近くに見える。実際は、町と城は互いに見える距離にはないから、これこそまさに”夢”って感じなんだけど・・・、とにかくあたしはふたたび城へと・・・走ろうとした、そのとき。
背後ですすり泣く声が聞こえて・・・、振り返れば、そこには。
(・・・お姫・・・さま・・・!?)
白いローブのようなドレスに、金色の髪の女の子。夢に出会ったムーンブルクの王女さまが、あたしのうしろでうつむいて泣いてる。町のまんなかで・・・小さく首を横に振って泣いているのだ。
あたしは駆けた。駆けよって、その身を強く抱きしめた。
ふわっとした金の巻き毛が指に絡まる。大丈夫。もう大丈夫だから・・・・・・! っと・・・。えっ・・・? んん――!? 王女の細い体が・・・いつのまにか、なにか『やわらかいもの』に変わって・・・・・・!?
ドンドンドン――。
「おーい、フィナ。そろそろ起きろよ」
扉をたたくリモーネの声で目が覚めた。あたしの腕のなかには・・・そのとき、やわらかな枕がひしと抱きしめられていた。
「と、いうわけで!」
宿の食堂で朝食をとる。あたしは一連の夢の話をしてから、オレンジジュースをごくんっと飲み込み、声を強めて。
「ムーンブルクに行くのは、ここでばっちり力をつけてから! 今日はまずは武器屋によって、それから一日中森で修行ね」
うんうん・・・、はっきりとした道が見つかって、朝が苦手なあたしも、今はすこぶる気分がいい。
「修行はいいけど、本当にそんなのんびりしてていいのか・・・? おまえ、その王女が心配なんじゃないの?」
「心配だからこそ、王女のメッセージに従いたいんじゃない!」
「メッセージ・・・?」
ランドがゆったりコーヒーをすする。一番早くに食べ終わり、頬づえをついてるリモーネの顔と交互に見ながら、あたしはその中間のテーブルの上あたりに視線を移して言葉を継ぐ。
「王女は、城に向かおうとしたあたしを見て首を振っていたのよ・・・。あれはつまり、『まだ行っちゃだめ』『ちゃんとここで力をつけていって』ってことなんだと思うわけ。・・・泣いてたのも・・・もしかしたら、焦って向かおうとしてたあたしの愚かさに涙していたのかも。うわっ・・・恥ずかしー!」
あたしは両手を顔にあてた。ありがとう王女さま。本当に感謝!
「じゃあ、今日は武器屋めぐりから? 昨日ぜんぜん見られなかったから、町のなかもゆっくり散策したいなぁ」
ナプキンで口を拭って、ランドがにっこり微笑んだ。
「ん? あれ。おまえ、まだここにいたのか?」
「・・・何? リモーネ」
宿の扉を開けたところで、いきなり止まったリモーネの足元をひょいと覗くと・・・。
「わんっ、わんっ」
「うわぁー、子犬だ!」
「かわいい〜っ!」
リモーネの左右から、ランドとあたしが同じ勢いで躍り出た。
「くーん、くーん・・・」
ちょっと汚れちゃってるけど、白に茶のかかった毛色の子犬が宿屋の出入り口の前にいて、あたしたちの足に交互にすりよってくるのだった。あたしは腰を下ろして子犬を抱き上げる。ふわっとしてやわらかいけど、少し痩せてるかも・・・。ゴハンもらってないのかな・・・。
「さっき、朝、ジョギング中にあっちの公園で見つけてさ。立ち止まってなでたら、そのままついてきちまったんだよな」
リモーネが、頭をかいて苦笑いした。
さて、この子犬。リモーネの言ったとおり、あたしたちが武器防具屋に寄り、道具屋、教会、池のある公園・・・とひととおりの町の施設を回っていくあいだ、健気にもずっと離れず、あとをくっついてきたのであった。
ただ、さすがに町の外まではつれていくわけにはいかなくて・・・。子犬もどこかその危険をわかっているのか、町壁の脇に身をよせて、外に出ていくあたしたちの背中を寂しそうに見送っていた。
少し歩くと、川を擁した広めの森に入る。
木々の裏から、魔物がさっそく姿を現した。さあふたりとも――修行、開始よ!
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