ランドの指先から出でた炎の波が、鎧ムカデの一匹に勢いよくぶち当たった。
ごぅっと音が発して、やがて消えゆく炎とともに、微妙に香ばしいような変な匂いが鼻に届く。と、燃える”同胞”を避けて遠回りするようにして、もう一匹のムカデが早足で這い向かってきた!
「もう一回! ――ギラ!!」
魔法の炎は、ムカデの腰(?)の部分をかすった。
「おっと・・・うまく当たらなかったなぁ」
赤いムカデはその場を動けず、上半身と頭を左右に振って悶え暴れる。ランドはいま一度、指先に魔力を集中しようと構えた。が、リモーネの短いかけ声がかかって、焦げた魔物の部分にリモーネの武器の鎖が絡まる。
「・・・りゃあぁぁぁ・・・!!」
暴れる魔物をものともせず、巻きつけた鎖を、リモーネは力をこめて締めつけた。バキ・・・バキバキッ・・・。やがて炎で焼けた腰の一部(?)から、ムカデの体が真っ二つにちぎれた!
うひゃあ〜〜っ、リモーネ、ムカデの液体みたいのが超とびちってるーッ!! でもちぎれた体はゴールドに変わった。倒したーーー!!
「っていうか・・・・・・いつギラ使えるようになったのッ!?」
あたしはランドに詰め寄った。聞いてない! そんな大事なこと何にも聞いてない!
「使ってみたのは今日が初めてだよ。でも、使えるようになったのは自分でもわかってたから」
「・・・・・・」
「フィナ、なんか拭くもの貸してくれ」
・・・・・・・・・。あたしはバッグからタオルを取り出しリモーネに投げた。
銀のカギは、その後さらに奥へ進んだところで、無事に見つかり手に入れた。
「どうぞお通りください。ここをぬけて南に行けばムーンペタの町です」
今度こそ、誰にも何にも邪魔されず、あたしたちはローラの門へとその身を踏み入れる。
海峡に掘られた由緒ある地下道をくぐり抜ければ、視界に現れた静寂の森――新たなる大地。
ムーンブルクへ続く道・・・・・・。
――ウオォーッ・・・! キキキーッ・・・。キギャー・・・ッ!
・・・嘘。”静寂”は、地下道を出たあたしの一瞬の思い込みなだけだった。
なんかキレてヤバそうな魔物の鳴き声ばっかじゃん・・・・・・。と、とにかく早く草地に移動したほうがよさそうだ・・・。
さいわい、森からすぐにひらけた街道に出られたけれど、
「うわっ、なんだこいつ!! これもモンスターか・・・!?」
突然まとわりついてきた灰色の煙を、とりあえずくさり鎌を力任せに掻き回して今リモーネが倒した、妖煙属のモンスター・スモークをはじめ、緑色のドラキー・タホドラキー、ああ、ランドがここに来るまでに攻撃呪文を使えるようになってて良かった!! と心から思えた、これまでの魔物の比じゃない強(こわ)さの大猿・マンドリル。ギラまで唱えながら飛び追いかけてくる、リザードフライの”ぶおーーん”っつう羽音も、ものすごくイヤ〜〜!!
日暮れ寸前にムーンペタの町に辿りついた時には、ランドとあたしは肩で大きく息を切らし、さすがのリモーネもこの道だけで体のあちらこちらに生傷をつくって、久しぶりに薬草を大量にすりこむ羽目になっていた。
うーーーん・・・・・・。
宿の部屋でひとり、ベッドに座って腕組み、唸った。
きっと隣のふたりも同じ思惑を抱えてることだろう・・・。こっちの魔物は格段に強い。さっき向こうの部屋で確認した地図。ここ、ムーンペタの町からムーンブルクの城までは、なにげにけっこう距離がある。
・・・けれども・・・。
・・・ここまで来て・・・。
その夜。あたしは夢を見た。
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