ドラゴンクエストU
3 夢の中の王女


「おお、待っておりましたぞ!」
 小屋の前で、ひとりの老人がたき火にあたっていた。砂を踏みしめ歩いてきた若者たちに向かい、老人は喜びにも似た声をあげる。
「このじいは、王子さまにお教えすることがあります」
 たき火がパチッと音を立てた。老人は下ろしていた腰を上げ、その炎の横をゆっくりと歩みながら、あたしたちに知識を告げる。その声はゆるやかながらも、確かで、深い。
「じつはこの世界には『銀のカギ』と『金のカギ』のふたつがあり、扉にもふたつの種類が。これらのカギで閉ざされた扉のむこうには、貴重なる品や、秘なるものが隠されておるのです。・・・そしておそらく、それらの中には、邪教に対するための強力なる品々も」
「・・・!」
 そうか。このおじいさんは、リモーネやランドがハーゴン征伐に出ることを知っていたんだ。・・・それで、待っていたんだ。
「まず銀のカギを見つけなされ。サマルトリアの西、湖の洞窟の中に隠されているという話ですじゃ」
 そのとき、視線は遠くに広がる海を眺めて、こちらの話を聞いているのかいないのか不明状態だったランドが、さっと振り向いて言葉を返した。
「あっ、それぼく聞いたことあるよ。湖のまん中にある洞窟には、宝物が隠されているんだって」
「えー!? ランド知ってんのっ!?」
「うん。むかし一度だけ湖にも行ったことがあるんだけど、洞窟探検はさせてもらえなかったんだよ」
「・・・・・・そりゃ、そうでしょうね」

 ということで、あたしたちはまだ大陸を渡るわけにはいかないという方向になった。
 とはいっても、さすがにここ、ローレシアの南端からサマルトリアの西まで横断するのは、時間と日にちがかかりすぎる。近辺のモンスターたちもあまり修行の対象にならないし・・・ってことで。
 あたしはキメラの翼を空に投げた。翼が光に変わってあたしたちを包み、サマルトリアの城まで一瞬で運ぶ。サマルトリアの王さまやリラ姫さまに一度あいさつをしてから、そのまま西へ向かって出発する。
 道中、これまでのからは少し強くなったようなネズミやアリのモンスターが姿を現したが、特にくさり鎌を手にしてからのリモーネは銅の剣のときより多彩な攻撃ができるようになっていて、鎌の刃が、ときには鎖の打撃が道をひらいて、あたしたちは大きな湖の端まで無事に辿りついていた。

 湖の中央に島のような陸地ができていて、橋を渡って洞窟の入り口をくぐる。先導するリモーネは眼光鋭く辺りを見回し、一方ランドは違う意味で瞳をキラリと輝かせていた。・・・念願の洞窟探検・・・ね。
 ひとつ壁を曲がると、小部屋のような空間。洞窟の内部は、そんな小部屋が隣り合って組み合わさるような造りになっている。確かに宝物が隠れていそう・・・っていうか、それ以上に魔物が隠れてる確率のが高いわけだけど。バブルスライムの集団がやけに多いのは、水場に囲まれた洞窟だから?
「またアリか・・・」
 ああ、それはラリホーアントだよリモーネ。って、催眠呪文のラリホーされる前に倒しちゃったか。
 リモーネの一撃で倒れなかったモンスターでも、とどめをさすにはランドの力でもばっちりだし、連携も良くなってきたわね、このふたり。うんうん。

 奥まで進み、さらにつきあたりにできていた階段を下りて、あたしたちは洞窟内の地下二階へ。
 上と同じような造りの小部屋をひとつひとつチェックしながら、廊下のような一本道を奥へと歩む。見た感じ、ここはどうやら簡単なつくりのようで、帰るとき楽そうで助かるな。・・・と、また魔物が道を阻んだ。
「うう〜、また虫系だよ」
「フィナ、こいつは?」
 あたしゃすっかり魔物博士ですか。・・・あれってムカデだよねぇ。ムカデ系って、確か・・・・・・。
「鎧ムカデ!」と叫んだあたしの声と、リモーネのくさり鎌がムカデの体にはじかれる音が同時に重なった。ムカデ属のまとった殻は、確かすごく硬くて守備力が高かったはず!
「ランド、頭を狙って叩け! 一点集中だ!!」
「うん! ――わっ!?」
 カシィィンッ・・・と洞窟内に音が響いて、殻を叩いたランドの剣が、その手を離れて土壁に飛びぶつかった。武器のないランドに鎧ムカデが迫る。噛みつこうとする短いキバを、リモーネのくさり鎌が寸でのところで受け止める。
「・・・っの野郎!!」
 鎖でキバを押し止めながら、リモーネはムカデの腹を強く蹴り上げた。少し離れたけども、やっぱりさしてダメージは与えられてないみたい。そうこうしてる間に、奥から鎧ムカデがもう一匹這って来て、二体のカタブツが目の前に並んでしまった。
「やばいって〜・・・。あれは硬すぎだよ。魔法かなんかじゃないと・・・」
 それはあたしのひとりごとだった。でもそのひとりごとに、剣を拾って戻った王子が答えた。
「魔法か・・・。じゃ、使ってみようか!」
「――へっ!?」
 目を見開いたとき、金髪の王子は銅の剣を左手に持ち替えて、右手の人差し指を襲いくる魔物にまっすぐと向けていた。

「ギラ!!」


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