ドラゴンクエストU


3 夢の中の王女



「――はぁっ」
 リモーネ、一撃でアイアンアント撃破。
「やぁっ!!」
 ランド王子、一撃で山ネズミ撃破・・・はできず、リモーネがすかさずとどめをさして、戦闘終了。
 あたしたちは現在、ローレシアから南の半島を南下している最中である。

 勇者ロトの血統であるもうひとり、サマルトリアのランド王子と突然の出会いを果たしてからこのとおり。あたしたちは、まだローレシア大陸の土の上にいるのだった。
 一時、ランド王子探索を中断してでも先を急ぐべきだと、ローラの門まで足を踏み入れたあたしとリモーネではあったが、いざランド王子を見つけ、旅の準備を整えながら、あたしたちは少し冷静になった頭で考えた。
 リモーネ的には、ランド王子の力がどの程度かを量っておきたいという考えもあり、一方あたしは、地図を見ながらあらためて、『海を越えるとモンスターのレベルが違ってくるんだよね・・・』という、緊張にも似た感覚を思い出していた。・・・・・・思い出した、というのはおかしいか。記憶というか、知識? きっと国の貿易を司ってるあたしのお父さんか、旅の商人にでも以前聞いたんだろうけど。
 と、それに加えて、実はローラの門で声をかけてきたひとりの老人の言葉が気になった、というのが、とりあえずこの状況のもっぱらの理由ということになる。老人はリモーネを目にして、こう言っていた。
「ローレシアの南にあるほこらで、わしの弟があなたさまの来るのを待っているはず。会ってやってくだされ」

「あっ、ランド王子の足もとにも」
 銅の剣を鞘に収めた金髪の王子の、つま先近くにきらりとゴールド。あたしはしゃがんで手を伸ばそうとする。と、一瞬早く王子の指が金貨を拾って、そのままあたしに手渡してくれる。
「ありがとう」
「・・・・・・」
 手渡して、向き合ったまま、ランド王子は穏やかな、微笑にも似たそのいつもの表情で、無言のままあたしを見つめた。・・・・・・。なんだろ・・・。ふいにその間が耐えられなくなり、「え、えっと、まだ落ちてるかな〜」なんて呟きつつ、視線を外そうとしたそのとき。
「王子、って、つけなくてもいいよ? フィナ」
 ランド王子・・・が、ゆっくりとした口調で言った。
「え・・・。でも・・・」
「よそよそしいでしょ? 王子ってつけると。ぼくたちは一緒に旅する仲間なんだから、リモーネみたいに『ランド』って呼んでくれていいんだよ」
「・・・・・・はぁ」
 にっこりと微笑まれて、あたしは半ば気の抜けた返事をかえす。

 このサマルトリアのランド王子。リリザの宿屋で出会ったときから、どうやら常にやわらかな、おだやかなこの調子は変わらず。
 隣国の王子リモーネが『ともに戦う仲間として、おたがい王子とか様とかはつけないでいこう』と、早々にした提案を二つ返事で受け入れたかと思うと(余談だが、リモーネはただ今後『王子』をつけて呼び続けるのが、面倒だったからに違いない!)、さらにそのリモーネのいとこであるあたしが、ロトの血統は引いていないながら、夢に見たムーンブルク城を理由にリモーネについてきたことを話すと、なんと、それさえもほとんど驚きなく聞き入れてくれちゃったのである。
 この人、あまり王族とか勇者の血筋とか気にしない人なのかなぁ・・・と、リモーネもあたしも軽い脱力を覚えたほどで、まあ、その脱力のおかげで、老人の言葉を思い出す冷静さを取り戻せた・・・ともいえるかもしれない。

「ランドは優しいよな。こいつ、何の役にも立ってないのにさ」
「何の役にもって何よっ? あたしがいなかったら、あんたなんか今ごろ神官ハーゴンとこ突っ込んで自滅してるくせに!」
 ったく。リモーネってば、自分がさんざんあたしの同行に反対したもんだから、ランド・・・と呼ばせていただく・・・が、あっさりとあたしの存在を認めてることが気に入らないとみえる。
「あいかわらず隠れ技だけは天下一品だけどな!」
 ・・・・・・むぅぅ〜。でも、それ言われると返す言葉が出ない。もう、本当に、どうして魔物に気付くと同時に、あたしの目には、大きな岩やら盛り上がった草地やらが入ってくるのか・・・っ? 隠れろといわれてるとしか思えないじゃない!?
「とっ、とりあえず足手まといにはなってないんだからいいでしょー!!」
「・・・そうだよね。ちゃんと隠れてるから、足手まといにはならないんだよね」
「・・・・・・・・・」
 リモーネとあたしの反応が同時に止まったのにも構いなく、ランドは続けて、「リラもフィナみたいに、魔物が出たらうまく隠れるとかできれば、つれてきても良かったんだけど〜」などと独り言のレベルに入っていた・・・。

 潮の香りの漂う林を抜けると、緩やかな砂地が景色をあらわした。先はそのまま砂浜、そして海につながっているようで、ここがどうやらローレシア大陸の最南端といえるらしい。
 浜の手前に、小さな建物が見えた。きっとあれが、老人の言っていたほこらだ。


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