ドラゴンクエストU
2 サマルトリアの王子


「よくぞ無事で戻ってきた、リモーネよ」
 あれから急いで急いで急ぎ足で南下して、数日ぶりのあたしたちの故郷、ローレシアに帰ってきたわけで。
「さきほどサマルトリアの王子がリモーネをたずねて来たぞ」
 やった! 追いついた!
 王さまを見上げる瞳が輝く。で、王子さまはどこに・・・。
「しかしそなたがサマルトリアに行ったと知って、また戻っていったようじゃ」

 なにィーーーーーっっっ!??

「・・・・・・なんでココで待ってないのよっ!?」
「父上、ランド王子が来たのはいつですか? 出発したのはどのくらい前です?」
 王の御前であることもすっかり忘れて、心の言葉を吐いてたあたし・・・。やばっ、と気づいたのはあとのことで、この時はとにかく『また追いかけるのか』という疲労感で心はいっぱい。王がかたわらの大臣と目配せしながら答えたのには。
「出発したのは正午すぎのようじゃ」
 ちょうど3時間くらい前だ。
「・・・なら追いつける! 行くぞ、フィナ」
「えぇぇぇー、まじでッ!?」
 リモーネは父王さまに頭を下げ、足元に置いた剣と盾を掴んで、すっくと立ち上がった。あたしもあわてて同じようにお辞儀して、扉を出ていくリモーネを追いかける。うはー、結局ウチ(といっても城内)に帰るヒマもなかったよ。『リモーネについていってくる!』とだけメモ書いて出てきちゃったんだよなー・・・ごめん、お母さんっ。

 息を切らして走る、走る。
 脚力の差に泣きそうになって、もうついていけなーい!! と挫けそうになるあたりで、ちょうど魔物の出現にリモーネの進みが邪魔されて、あたしはそこで必死に息を整える。いったん停止だとはいえ、このインターバルは短いのよ、すでに、もう!
 ――ガッ! バシッ! ・・・シュゥゥゥ・・・。
 あ、終わった。この付近のモンスターは、すでにリモーネの敵じゃないからね・・・。はぁ〜、ゴールド拾うのも疲れてきた・・・。

 翌日、脅威の速度でサマルトリアに到着したあたしたちを待っていた、前と変わらな〜い雰囲気・・・”顔ぶれ”な城内・・・。
「まだランド王子と会えぬのか? ここには戻っていないぞよ」


 ・・・・・・さて。
 このときのあたしたちは、驚くほど冷静な心理状態だった。あたしもリモーネも、どこかこの結果を予想していたのかもしれない。王の間を退出し城内の廊下で足を止め、中庭の様子に目をやりながら、しばらく無言でのどかなその風景を見つめる。
 と。
「姫さまっ、お待ちください!!」
 やわらかな空気にそぐわぬ甲高い声で思考を止められ、顔を向けると、その声の主・・・の前に、タタタタッと靴音を立てて駆けてくる女の子の姿。
「い、いけません姫さまっ」
 侍女さん・・・かな? 彼女の焦りもむなしく、可愛らしいドレスを着た女の子、つまり”姫さま”は、あたしたちふたりの前でぴたりと止まると、こちらの顔を交互に見上げ、興味津々のまなざしで話しかけてきた。
「あなたたち、お兄ちゃんのお友だち?」
 ・・・お兄ちゃん? ああ・・・。うんと答えたのはリモーネ。すると、姫、イコール、サマルトリアのランド王子の妹ぎみは、さらに目を輝かせて、ドレスの裾をちょいとつまんで自己紹介をしてくれた。
「わたしはサマルトリアの王女、リラ! いいなぁー、お兄ちゃんといっしょに行けて。わたしもいっしょに行きたかったのに」
 肩の上でくるんとカールした金髪が、軽やかに揺れる。青くてぱっちりした瞳が愛らしい。こちらの王家は皆さん金の髪色なのね・・・、ランド王子もこの子と似てる感じなのかな・・・・・・。は〜・・・・・・。
 ため息で脱力してるあたしに代わって、リモーネが困惑顔でお相手をする。
「俺はローレシアの王子、リモーネ。こっちはいとこのフィナ。・・・でもね、残念ながら、まだきみのお兄ちゃんには会えていないんだ」
「まあ・・・そうなのですか?」
 答えたのは侍女さん。リラ姫さまのほうも「そうなの?」と一度おどろきの表情を浮かべながらも、次にからりと笑顔になおって、人差し指を小さく立て、こう言った。
「なら、いいこと教えてあげる。お兄ちゃんね、わりとのんきもんなの。けっこう、より道したりするんじゃないかなぁ・・・」
「・・・・・・・・・」
 寄り道・・・? のんきもん・・・?
 ああー、なんだか考えていたイメージと違う印象が出てきた。あたしのイメージは、もっと、こう・・・。
「寄り道・・・寄り道かぁ・・・。もしかしてあたしたち、どっかで追い越しちゃったんじゃないの? だいたい、街道外れて最短距離来ようとなんてするから」
 そうだった。とにかくサマルトリアで追いつかなければと、それ一心でローレシアから疾走してきたから、その途中で会えるかもなんて考えは、間まったく思いつかなかった。そういうとこ似てんのよね、あたしたち。っていうか、どっちか気づけよ! と自己ツッコミ。痛い。
「・・・そうだな・・・・・・」
 リラ王女と別れ、宿屋に入って、地図をばさりとテーブルに置く。と・・・、リモーネが・・・。
「ムーンブルクに行こう。ローラの門は、ここからすぐだろ?」
なーんてことを言い出すから、あたしは思いっきり素っ頓狂な声を上げてしまった。
 声色を戻して答える。・・・あ、ちなみにローラの門ってのは、ローレシア大陸からムーンブルク地方へ渡る唯一の道。かつてロトの血を引く勇者が、妻のローラ姫をつれて渡ったことからその名が付いたらしく、道は地下通路になっているらしい。
「だって、これから街道戻って探すんじゃないの!? ランド王子」
「居場所もわからないのに、うろうろ探すのはもう時間の無駄だよ。一刻も早くハーゴンの軍勢を倒さなければならないんだ。おまえだって、ムーンブルクのことが気になるんだろう・・・!?」
 ――お父さまーーーっっ!!
 即座に、夢に聞いたあの悲鳴が呼応する。
「そ、それは・・・」
「それに、ランド王子も先に進んでいるのかもしれない。いくらのんき者でも、この状況下で寄り道ってのは考えにくいさ。めざす道は同じなんだ。この先、どこかで仲間にできるかもしれないし」
 な! そう言って、リモーネは、もう迷いも疲れもすべて吹っ切れたような笑顔を見せた。

 ・・・そうだね・・・。力をつけるための寄り道ならむしろ必要なくらいだけど、リモーネはもう、このあたりでは充分に強くなってる。先に進めない理由はない。ううん、進まなきゃいけない。
「オッケイ、わかった。・・・あ、でも、ちょっと待っててね!」
 あたしは宿屋にリモーネを残して、ふたたび城内の中庭にお邪魔させてもらった。旅の商人が広げる、武器と防具の出店。そのうちのひとつを購入して戻る。
 ・・・くさり鎌。先端に分銅のついた鎖を振り回せば、空中を飛ぶ魔物でももっと楽に捕らえられる。銅の剣と併用すれば、リモーネの戦力はさらに増すってもの!

 あたしたちに迷いはない。
 正義の旅は、誰にも邪魔はできない――。

「これより先、おひとりでは危険です!」
 えっ? えっ!? ローラの門前に進み出たリモーネに、ふたりの門兵がすばやくかけよる。
「サマルトリアの王子に会うまでここを通すな、との、王さまのご命令です」
 ・・・・・・なぁにぃぃぃーーーっっっ!!!??

 まっ、まさか、ウチの王さまに邪魔されるとは夢にも思わないじゃない・・・。ああ、もう、もう・・・・・・!
「どうしろっていうのよ・・・っ!??」


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