ドラゴンクエストU
2 サマルトリアの王子


 森の緑と同化するように映える、穏やかな空気、色。サマルトリアは、四方を木々に囲まれて、とてものどかな雰囲気の息づく城だった。
 兵士のあとについて、サマルトリア王に謁見する。ローレシアの王さま、つまりリモーネのお父さまと体型は似た感じだけど、こちらの王さまは髪が金色なのね。それに、なんだかどこかやわらかなかんじ。”威厳”より”優しさ”のが大きいような。その証拠(?)に・・・、
「これはリモーネ王子! よくぞまいられた!」
 明朗なねぎらいのお言葉のあとに続けられたのは、ちらりと見回してもどうやらこの部屋にはいないらしい、あたしたちが会いに来たその人のこと・・・。それが、しかも・・・・・・。
「わしの息子ランドもすでに旅立ち、今頃は勇者の泉のはずじゃ」
 ええーっと、あたしは内心声をあげた。王さまは続ける。
「ランドのあとを追い、仲間にしてやってほしい! わが息子ランドをよろしくたのむぞよ」

「あの場にいないんじゃなくて、もうこの城にいなかったのね・・・・・・」
 息子思いのやさしい父王さまに、「了解しました。すぐに追いかけます」と力強くこたえて王の間を出たリモーネとあたしは、ひとまず城の向かいの宿屋に落ち着き、あらためて地図を広げた。
「勇者の泉の洞窟・・・、ローレシアの北・・・・・・、あっ、ここかな」
 ここサマルトリア城から、東に・・・どのくらいだろ、かなりあるな。とにかく、ローレシア大陸の北東の岬に、洞窟の印。
「先に旅立ってるとは思わなかったけど、なかなか骨のある王子みたいだな。期待できそうだ」
「魔法も使えるらしいしね! 早く会ってみたーーい」
 今日はこれからしっかり薬草類を買い揃えて、出発は明日の朝。城の中庭で、武器防具の行商が店を広げてたけど、強力なのはまだ買えなそうだったからねー・・・。

 翌日から延々と歩き続けて、丸二日。山道と砂地と草原を越えて、橋を渡った先の森に足を踏み入れたのは、三日目の、太陽が一番高いところに昇った頃だった。魔物はアイアンアントやドラキー、山ネズミがほとんどで、たまに遭遇する、毒をもつバブルスライムに少し警戒するくらいで、リモーネは戦うごとに強さと安定感を増していた。
 森の奥、ロトの紋章の刻まれた石造りの洞窟の入り口を、ゆっくりとくぐる。階段を下りると、薄暗く土の匂い。ポツ、ポツと壁に松明の灯りが見られるのは、ここが人工的な洞窟だからだろう。
「気をつけろよ。見たことないモンスターもいるかもしれない」
 ひやりとした空気のなかに、声が響く。
 とりあえず見たことのあるモンスターたちが襲いくるのを払い倒しながら、(そしてあたしは、やっぱりその瞬間に見つける壁の段差、岩陰なんかに隠れながら)歩み進むうち、
「水の音がする」
 リモーネの言葉に耳をすますと、確かに! サーッと小さく水の流れる音。耳をたよりに方向を定めて歩けば、だんだんとその音が大きくなってくる。土に湿った匂いがまざる
 そして、壁を曲がったその場所には、流れ落ちる滝を受けた大きな泉が・・・!!
「うわぁ〜! ここが〜〜!!」
 あたしはリモーネを追い越して前に立った。
「!? フィナッ――!!」
「えっ・・・」
 リモーネがあたしに抱きつき・・・ごめん、あたしをかばうようにして魔物の攻撃を受けていた。足元に走ったらしい痛みに顔を歪ませる。なっ、何!? 誰――!?
「・・・初めて見るヤツだ・・・」
「っ、ヘビ・・・!!」
 赤黄黒の縞模様の大蛇モンスター、キングコブラ! しゅるるるっと舌を伸ばして威嚇している。そして、牙をむいて襲いくる――! リモーネは、噛みつきにくるコブラの頭を盾で防ぎ、剣の打撃を与えた。一撃では倒れない。
 地面についたキングコブラは、同じ襲撃をくりかえしてくる。リモーネも同じ攻守をくりかえす。魔物の体力が尽きた。霧に混じって、煙に変わる。
「リモーネ、だいじょぶ!? ありがと・・・!」
「あ、ああ・・・」
 リモーネは、左のふくらはぎを触った。
「痛(つ)っ」
「あっ、もしかして毒にやられた・・・?」
「・・・かな。足が重い・・・」
 ちょっと待ってて。そう言ってあたしは毒消し草を取り出し、リモーネの傷にすばやく当てた。

「どうやら、新たな勇者の到着のようじゃな・・・」
 水音に声が重なった。振り向くと、古びたローブをまとった老人が、杖を片手にそこに立っていた。
「勇者の泉へよくぞまいられた! あなたの身体をこの水で清め、偉大なるロトの導きを願ってしんぜよう」
 厳格な言の葉にうながされるように、リモーネが湧き出る泉へと歩を進めた。戦いに旅立つ者が、洗礼と守りを受ける場所。水の際につくられた不思議なタイルの上に身を置くと、老人は杖をかかげた。
「ロトの守りよ、勇者とともにあらん!」
 とんっ、と杖の先がタイルをたたくと、泉がまばゆい光を放った。光の霧がリモーネをおおう。戻ってきたリモーネに聞けば、さっきの足の痛みも完全に消えて、さらに疲れもとれているらしい。あたしもいきたい! と思ったけど、ケガもしてないあたしが行ったらおじいさんに睨まれそうなので、やめといた。かわりに、旅のブレーンっぽく最重要情報をたずねてみる。
「ところで、ここにサマルトリアの王子さまはいらっしゃいませんでしたでしょうか?」
 そ。新たな魔物と神聖な力に忘れそうになってたけど、あたしたちの目的は今はひとつ。ここに来るまでにも会わなかったしね・・・。
「サマルトリアの王子をお探しか? それは一足違いであったな。王子はロトの血を引く仲間をもとめて、今頃はローレシアの城に向かっているはずじゃ」
「ええーーーっ!?」
 今度はしっかり声に発していた。おたがいに目を丸くして、あたしたちは顔を見合わせた。


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