ドラゴンクエストU
2 サマルトリアの王子


 翌日、初の野宿を経験したあたしたち二人は、朝食も急ぎがちに北へ歩いた。
 まだ昼間で明るい草原歩いてるから、昨日のようなおっかない大群に出くわすこともない。あいにく他のモンスターさんたちには、ゴールドに変わってもらうしか道はないワケだし・・・。今もコロンコロンの山ネズミが2匹、銅の剣の餌食になったばっかりだ。

 と。だんだんと目の前に現れてくる深緑の風景。あたしたちがちゃんと目的地に向かっている証拠だ。そしてそのためには、このまままっすぐ進まなければならない。もう迂回はできない。そう、あの森の向こうに、サマルトリアの城はある。
 期待とともに宿る、一抹の不安。なんたって、森には蝙蝠(ドラキー)がいる!
「・・・行くぞ」
 静かな闘志をこめて、リモーネが呟いた。


 陽の光が緑のすきまからふりそそぎ、森の内部は思ったよりも明るかった。小道もわりと広くて、うん・・・、世界がこんな不安な状況じゃなかったら、きっと行商とか旅人とか、サマルトリアに行き来する人がみんな使う道ってことで、にぎやかだったりするんじゃないだろうか・・・。なんて考えも、歩きながら頭をよぎる。
「・・・なーんだ。モンスターなんていなそうじゃん?」
 左右の木々へ交互に目をやりながら、あたしは無意識に抑えていた声を発した。
「きっと、国への通路として管理されてたりするのかも・・・」
 そのときだ――。頭上の木の葉がガサガサと音を立てた。・・・来たーっ!!
「キィーーーーッ!」
 ドラキー3匹が『見つけたぞ』とでもいうように嬉々として急降下してきた。うっわ、ゴメン、もしかしなくても、あたしのせい!? ここまで黙って神経を研ぎ澄まして歩いてたリモーネに、小声で「ごめーん」と手を合わせ、あたしはいま通り過ぎたばかりの太めの幹に身を隠す。いや、マジで申し訳ない。
 リモーネは、降下してきた最初の1匹を皮の盾ではじき飛ばし、一度後方に跳んで、すばやく体勢を取り直した。2匹が前方から襲いかかる。リモーネはそのドラキーたちの目前で剣をひと振り、すると2匹のドラキーはふわっと避けて、左右に散った。2匹は互いの方向に立つ木を、同じくらいのタイミングでターンして、ふたたびリモーネの首筋狙いでキバを光らせ飛んでくる。
 次の瞬間、右側からきた1匹が、確実に剣の打撃に仕留められた。落ちた身体がゴールドに変わる。反対側の首筋を盾で守りながら、まずは1匹確実に仕留めたのだ。リモーネは次に、盾に邪魔され「キィッ」とくやしげな声をあげ頭上に飛んだドラキー・・・は無視して、はじめに盾にはじかれたドラキーのほうへと向き直った。はじかれた勢いで木にぶつかり、根元でふらついていたドラキーだが、今またゆらりと浮き上がろうとしていた。この機を逃さず、リモーネの一撃が魔物に入る。
 リモーネ、上っ――と言おうとして、あたしはやめた。自分より高い位置から攻撃されるのは不利、そこでリモーネは、最後の1匹が自らの目線近くまで降りてきた直前で、さっと体を動かし、絶妙な間合いをとった。銅の剣の刀身が魔物をとらえる! 悲鳴をあげて、ドラキーが倒れる。
「・・・・・・・・・・・・」
 すご・・・・・・。
 あたしはあっけにとられて、一瞬ゴールドを拾うのも忘れていた。
 そのとき、小道の先から、突然『パチパチパチ・・・』という静寂を破る音が聞こえたから、またもびっくりして、木にしがみついてしまった。・・・・・・拍手? えっ? 拍手をしながら歩いてくる・・・あのカッコ、兵士・・・・・・!?
「すばらしい! お見事でした!!」
 兵士風の男の人は、拍手をやめてもなお高揚気味に、リモーネを誉め称える。
「ドラキー3匹を、キズひとつ受けずに倒すとは。すばらしい立ち回りでした」
 あ、確かに。今回はまったく魔物の攻撃受けなかったんだよね。・・・うんうん、とリモーネにうなずきながら、あたしはゴールドを拾い始めた。
「一度動き見てる相手だしな。けど、こいつらたぶん、夜のほうが動きがいいんだと思う」
 いやいや、アナタがやっぱり天才ですって・・・。三箇所に落ちた金貨、しめて9枚、革袋にチャリンと入って、そこであらためて目の前の人物に対する疑問が出る。
「で、あなたは・・・?」
 兵士風の、というか、その人は、見た目どおり兵士だった。
「私はサマルトリアの兵士です。森の見回りに出たところだったのですが、この付近の木が一瞬揺れたので、急いで駆けつけてきたのです。ですが、いらぬ心配でしたな」
「サマルトリアッ!?」
 ふたりの声が重なった。一回顔を見合わせてから、リモーネが続ける。
「俺はローレシアの王子、リモーネです。サマルトリアの王子に会うため、そちらへ伺うところでした。よければ案内をお願いしたい」
「なっ・・・、あなたさまがローレシアの王子さまっ!? こ、これは失礼をいたしました・・・!!」
 サマルトリアの兵士さんは、一転、焦ったようにふかぶかと頭を下げた。まぁ、間違えるのも仕方ないって。どう見たって”王子さま”には見えない、ローレシアの天才格闘王子・・・。

 兵士さんに案内されて、あたしたちは無事サマルトリアの城へとたどりついた。
 ただ、ひとつだけ気になることがある。それは、さきほど歩き出したときに、兵士がいった一言・・・。
「城はここからもうすぐです。ですが、我が王子はすでに・・・・・・。いえ、とにかくまいりましょう」


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