ドラゴンクエストU
2 サマルトリアの王子


 そんなこんなで。リリザの町に到着したのは、もうすっかり日が暮れてしまったあとだった。
 あれからも何度か魔物の集団が現れたけれど、そこはさすがリモーネ。ダテに修行はしていない。スライムなんかもう、軽くあしらうまでになっちゃったし、最初はなかなか苦戦したあのアイアンアントでさえも、一回覚えればなんのその。真っ先に連打をあびせて、即ノックアウト。ほんと、この人、王子サマより格闘家やったほうがいいんじゃないかって感じ・・・。
 とりあえず、その日はそのまま宿屋へ直行して、各自、疲れた体を存分に休めることにした。今日という激動の一日を、もう一度、振り返りながら・・・・・・。

 んで、次の日。
 あたしたちは一路、町の中心広場の向こう側に位置する、武器と防具の店に足を運んだ。リモーネのヤツは、「そんなことより早くサマルトリアへ」ってカンジだったけど、そうはいかない! 知らない町へ来たら必ず武器・防具屋をチェックするっていうのは、冒険者としての最低限の常識。かの伝説の勇者だって、そーやって悪を倒したんだからね。

 でも、そんなものよりもっと普遍の現実に気がつくまで、そうそう時間はかからなかった。その現実とは、そう! 冒険者には、何よりもまず、お金が必要なんだってこと。

 店内には、ローレシアじゃ手に入らないような武器や防具がここにもあそこにもあるっていうのに・・・今のあたしたちに買えるのは、90ゴールドの皮の盾ただひとつ・・・・・・。うーっ!! かりにも王宮で暮らす一国の王子とそのイトコが、こぉんなビンボーな思いしていいと思ってんのー!?
「・・・・・・ま、しょーがないか。コレ買おう」
 ちょっとブチ切れそうになったけど・・・。そうよね。あたしたちはもう、単なる平和な王宮人ではない。邪悪な神官ハーゴンを倒すために旅立った一介の冒険者。こんなコトくらいでくじけてちゃダメなのよっっ!!

「盾、か。でも俺、使ったことないからなぁ。片手がふさがるんなら、ないほうがいいかも・・・」
「いや。そんなことはないぞ!」
 いきなり威勢のいい声が返ってきたのには驚いた。いつの間に傍らに来ていたんだが知らないが、よく見れば、鎧を着こんだ旅慣れた戦士風の男。皮の盾を持って腕を上げ下げしている、これまたいかにも旅慣れていない少年少女を見かけて、思わずほうっておけない気持ちになったか・・・彼のアドバイスは、こう続く。
「片手がふさがるとはいっても、敵の攻撃を防ぐといった意味では、盾は不可欠のものだ。初心者でも、その皮の盾なら軽くて使いやすいはずだしな。おぬしら、どこから来たんだ? その軽装からすると、ローレシアあたりからか」
「・・・はぁ、その通りですけど」
 答えたのはリモーネ。でも、あんましノリ気じゃないみたい・・・。
「やはりな。ローレシアからリリザの辺は、スライムやナメクジなんかしか出ないから、そのくらいの装備でもやって来られるというワケだ」
 あたしたちはそろそろ話を終わらせて、盾の会計に行こうとした。けれど、次に戦士はこんなことを言ってきたのだ。
「・・・では、これを聞いても無駄かな。おぬしら、ムーンブルクの城がハーゴンに攻撃されたという話を知っているか?」
「えっ!?」
 二人同時に声を上げたのはいうまでもない。こんなところでその名を耳にするとは。ハーゴン。あたしたちの目的。最大の敵。でも、どうして? ムーンブルク侵攻のことは、口外されてないはずなのに・・・。
 どう答えようか、あたしもリモーネも迷っていた。その様子を見て戦士は、『やはりこいつらは知らないようだな』ってとってくれたみたいだったけど・・・。まあ、結果的にはそれでよかったのかもしれない。
「そうか、知らぬか・・・。いったい本当なのだろうか」
――えっ? 本当のとこは、わかってないんですか?」
 今度は、あたしが聞き返した。根拠のないだたのウワサってこともありえる。でも・・・。
「ああ。まあな。おれもきのうちらっと耳に入れただけなので、なんとも言えんが・・・。だが、あの悪魔ならやりかねんことだ。・・・ああ、そうだ。それからもうひとつ、それらしい話を耳にしてな。聞きたいか?」
「はい! もちろんっ」
 もはや会計どころではない。これが情報収集ってやつなのだ。そして、戦士は言った。
「ここの武器屋の二階に住んでいる婦人の弟さんは、ムーンブルク城の兵士なんだそうだが、この間、突然幼い息子をあずけにやって来たらしい。ところが、その弟さんからは、それっきり一向に連絡が来ないそうなのだ・・・」

 ・・・・・・無言。まるで金縛りにあったよう。何も見えない・・・でも・・・心の中は・・・・・・。

「やはり、ムーンブルクに何か起きたと考えても、不思議ではあるまい・・・」
 心で動く。あの夢。あたしが見た夢。兵士・・・王さま・・・お姫さま・・・・・・魔物の来襲・・・みんなやられる・・・目の前で死んでいく・・・・・・。
 夢じゃない。これは真実。そしてあたしは・・・何もできなかった・・・・・・。


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