2 サマルトリアの王子
リモーネと同じロトの血を引く仲間をもとめて、あたしたちはまず西へ向かった。
出発前の挨拶も兼ねて城内の人に話を聞くと、けっこうみんな基本的なことをいろいろと教えてくれた。森や山では魔物に出くわしやすいとか、行く先々の教会を訪ねなされとか。
中でもみょーに気になったのが、おじいさんがひとり静かに守ってる旅の扉。今まで出入りが許されてなくて、今回初めて入ってみたところ、そりゃもう驚きの連続だった。
勇気を出して青い渦巻きに飛び込み、目の前の空間が歪んでいくというちょっと気持ちわるい体験をして抜けた先は、どこともわからぬ小島だったのだ。一面、海に囲まれていて、その海を隔てた向こうに町らしきものも見えるのだが、どうやら行くことはできないらしい。あたしたちはすぐに城に戻ってきた。
城門を出たところで先ほどの兵士を運んだ衛兵に、ムーンブルクが襲われたことはわずかな者にしか知られずにすんだことを聞いた。そうしていざ、城をあとにしたのだった。
「でやぁあぁーっ!!」
――ザシュッ!!
「ナイスナイス!! ・・・っと・・・7ゴールドか」
スライム二匹に大ナメクジ一匹。魔物たちはほとんどが集団で襲ってくる。銅の剣と皮の鎧を身に着けたリモーネがそれらを倒し、あとに残ったゴールドをあたしが拾う。えっ? あたしは戦わないわよ。戦闘が始まったら、草や岩陰に即、隠れてるんだもの。
「それにしても、よくそんな隠れ場所があるよな・・・しかも一瞬で・・・」
一息ついて、リモーネが言う。いやはや、まったくだ。だけど必ずあるんだよね・・・あたしの目のつくトコに、何故か。
・・・・・・でもね。あたしだって、ハナッから隠れるつもりでついてきたんじゃないんだよ。自分の身は自分で守ろうって、護身用のナイフ持ってきたし、防具だって・・・・・・。
あたしは今、なめし皮でつくられたミニ丈のドレスを装備している。
このドレス、表面は”にかわ”で固めてあって、とっても丈夫。まさに冒険の旅にぴったり!って感じなんだけど、こういう女性用の防具というのは、この世にそうそうあるものじゃないらしい。リモーネにも、「その服、何?」とか言われたし。この服は、以前ローレシアに来た旅の商人から買った、本当に珍しい防具。あたしの宝物・・・。
ま、このご時世じゃ、よっぽどチカラに自信のあるヤツでもなければ、旅に出ようなんて思わないだろうけどね。女性用の旅着があっても、それを必要とする人がいないんじゃしょうがないのだ。
町を出れば、そこはもう魔物の世界。出会った以上は戦うしかない。そして、勝つしかない!
「やっぱ、草原歩いてるからかな。思ったより、魔物のやつら出てこないな・・・」
リモーネが、辺りを見回しながら言った。確かに・・・。ここまで来るのに出くわした魔物は、たったの三組。それもスライムとか大ナメクジのみだ。
「ちょっと遠回りしたかいがあったね」
そう。あたしたちは、少し遠回りをすることにした。ローレシアから、ロトの血を引く王子がいるというサマルトリアへの中継地・リリザまで最短の道を行くには、森を通らなければいけない。でも、森はモンスターのすみか。どこから襲ってくるかわからない。まだまだ実戦不足のリモーネと、知識はあっても実際に城を離れるのは初めてのあたしにとって、草原に進路をとるのが最も安全だと考えたからだ。
「でもさすがに遠いねー。町はあの山の向こうでしょ・・・。あとどんくらい歩けばいいんだよーっ!!」
「・・・あのなぁ。もうちょっとがんばれよ。できれば今日中にリリザに着きたい・・・、!?」
「わ!! 出たっ!!」
魔物出現! スライムと、もう一匹は・・・。
「ア・・・アリ!?」
でかい・・・! その初お目見えのモンスターは、なんと巨大アリ。ナメクジも嫌だけど、これも気持ち悪ーい!!
「アイアンアント! スライムは無視して、そっち先倒したほうがいいよっ!!」
「よし!!」
言うや否や、リモーネが突っ込む! 銅の剣を振りかぶり、アリの顔面に叩きつける――が。
「かっ、固ぇ!?」
「リモーネッ!! スライム、スライム!!」
そのスキを狙って、無視されたスライムが怒りの(?)体当たり! よろめいたリモーネの足に、今度は剣の一撃をくらってもびくともしなかったアイアンアントが、間髪入れずに噛みついた!
「ぐわぁっ!! ・・・く・・・このやろう!!」
さすがにアタマにきたか、リモーネも怒りにまかせて剣を握り、足にくいついているアイアンアントを、そしてまたも飛びかかろうとしているスライムを、次々に振り落とした!!
その渾身の一撃に、スライムはもちろんのこと、鉄の皮膚をもつとといわれるアイアンアントさえもどうやら倒れたようだった。瞬間、魔物の屍体は煙のごとく消えていき、あとには例のように、いくらかのゴールドが残っていた。
「やったー!! すっごい! リモーネ!! ・・・あ、なんだ、たったの6ゴールドー!? もっとくれたっていいじゃーん! ねー、リモーネー?」
ゴールド収集係(自称)のあたしは一喜一憂していたが、かたやリモーネのほうはというと。
「・・・・・・ゴールドもいいけどさ。薬草、くれよ・・・」
・・・・・・それどころじゃなかったらしい。
戦う者と戦わざる者・・・こういうトコで差が出るのね・・・。
>>NEXT
目次
|