ドラゴンクエストU
1 運命の旅立ち


 先ほどリモーネを見つけた、あの見晴らしのよいテラスで、あたしはつかえていたものを吐き出すように話した。
 リモーネは夢だと知りつつも真剣に聞いてくれるので、あたしにもついつい熱が入る。
「ほんっとにリアルだったのよ! いま思い出しても悲しくなる・・・。やっぱり、なんかイミがあるのかも・・・」
「意味があるっていってもなぁ・・・。予知夢とか? その城、本当に見覚えないのか」
「うーん・・・。そういえば、城の名前言ってたような気もするんだけど・・・。・・・・・・ダメだ、思い出せない」
「じゃあ、城から抜け出した兵士が目指してた場所は?」
「え!? えーっと・・・」
 鮮明に覚えてるはずだったのに、それだけどうしても思い出せない。大切な固有名詞忘れるなんてー!!
 自分で自分を責めていると、ふいにリモーネが遠くを指さし、こう言った。
「なぁ・・・あれ。人・・・だよな」
 指の方向を見てみると、確かに平原を歩いてくる人の姿が目に映った。だけど・・・なんかちょっと歩き方が変だ。


 兵士は傷ついていた。
 修羅場と化した祖国を後にし、目指すべき国へと足を向けたものの、その道のりはあまりにも遠すぎた。道行く旅人に、魔物たちは容赦しない。何度戦い、そして何度倒れそうになったことか。しかし、そこで倒れるわけにはいかなかった。自分には使命がある。ここで足を止めたら、誰が世界の危機を伝えるのだ!
 もはや彼を動かしているのは、精神力以外の何ものでもなかった。血と汗でうつろになった瞳にその城の門が映ったとき、彼はとうとう倒れ伏した。
 門番の兵士がこれに気付き駆け寄り、異国の兵士のその壮絶な姿をみて声をあげた。
「む! そのキズは!? いったい何があったのだ!?」
「キズの手当てなどかまわぬ! すぐに王さまに会わせてくれ! 私にはお伝えしなくてはならぬことがあるのだ!! ゴホ・・・ゴホッ・・・」
 傷ついた兵士は、槍で自らの身体を支えながら、低くしゃがれた声でこう言った。話すだけで体力を使い、口からは血が溢れていたが、その目は炎のようにギラギラと光って見えた。
「・・・わかった。おい! そっちを支えてくれ!」
 門番は傍らの兵士を呼び寄せた。ただならぬ雰囲気であることは、誰の目にも承知だ。
「城の皆に気付かれては大騒ぎになる! 静かに運ぶんだ!」
 人の目がないことを確かめ、三人は中へ入っていった。ただひとつ、テラスからその一部始終を見届けていた二つの人影だけは、見逃していたが・・・・・・。


 なんか大変なものを目の当たりにしてしまったあたしとリモーネは、とりあえず王の間に急いだ。そして、王の間に続く階段のところで、三人に遭遇した。
 異国の兵士は血だらけだった。こんなの見たのは、これが初めてだった。
「王子さま・・・」
 リモーネは無言だった。先導し、王の間の扉を開ける。
 扉が完全に開かれる前に、兵士は二人の支えを振りほどき、この国の主・ローレシア王の前へと進み出て叫ぶように言った。それはまるで、最後のチカラを振り絞っているかのようにさえ見えた。・・・ううん。きっと、それが彼の全てだったのだろう・・・。
「ローレシアの王さま! 大神官ハーゴンの軍団が、わがムーンブルクの城を! 大神官ハーゴンはまがまがしい神を呼び出し世界を破滅させるつもりです! 王さま! なにとぞ、ご対策を・・・! ・・・・・・ぐふっ」
 兵士は倒れた。そして・・・息絶えた。

 王は入口に立っていたあたしたちを見、息子の姿を確認してまっすぐにこちらを向いた。そして、
「王子リモーネよ。話は聞いたな? そなたもまた、勇者ロトの血をひきし者。そのチカラを試されるときがきたのだ! 悲しんでいる時間はない・・・。旅立つ覚悟ができたなら、わしについてまいれっ」
と、毅然とした態度でそれだけ言い、その場を離れていった。衛兵に、その勇敢な兵士を手厚く葬ることを命じて・・・
 リモーネは、兵士の屍を見つめていた。いきなり『旅立て』なんて言われて、どんな気持ちなんだろう・・・・・・。
「リモーネ王子! じいは王子と離れるのがつろうございますぞ! しかしこれも人々のため。泣かずにお見送りせねば・・・うっうっ」
 リモーネのお目付け役である大臣は、すでに別れに入っている。兵士たちも、「お気をつけて」「旅のご無事を祈っております」などと口々に言い始めている。

 そして当の本人は・・・いまだ無言のまま、王のあとを追うように部屋を出ていった。

 ・・・・・・でもって、あたしはというと。

 ムーンブルク、ローレシア、そしてハーゴン。虫食いの暗号が解けたかのようにうれしくて、複雑で、とにかく落ち着かなかった。そんな中で、あたしはひとつの決断をした。

 この旅に、あたしもついていこう、と。


>>NEXT

目次




その他ゲームのページ トップページ