ドラゴンクエストU


1 運命の旅立ち



「・・・な・・・」
 なんてリアルな夢・・・・・・。いや、今のってホントに夢だったの!?
「・・・夢・・・だよねぇ。だってここ、あたしの部屋だし。あんな城、見たことないし」
 そう・・・見覚えのない城、会ったこともない王さまにお姫さま。そして・・・モンスターの来襲。そういえば、今の夢ってあたし出てなかったよね。あたしの夢なのに・・・。うーん・・・でも、出てないって感じじゃあなかった・・・・・・確かにあたしはそこにいて・・・っていうか、上から見てて・・・・・・。
「あー! そっかー! あたし空飛んでたんだ! あ、そーだ、そーだ」
 空飛ぶ夢なら、よく見るし。まあ、自分の姿が見えないっていうのはないけど、これなら納得できなくもないな。うん。

 でも・・・・・・。

 助けられなかった・・・。何もできなかった・・・。王さまがモンスターにやられて、城がどんどん焼け落ちていくっていうのに・・・あたしは・・・あたしは、その光景を、ただ見てるだけだった。最後までじっと、見続けてただけだった。

『お、お父さまーーーっっ!!』
 お姫さまの、あの悲痛な叫びがよみがえる。ごめんね。ごめんね。助けてあげればよかったのに。モンスターなんてやっつけてやればよかったのに。あたしの夢なのに・・・・・・!
 ・・・・・・あれ!? なに謝ってんの、あたし・・・。
 夢なんだから。どんなに思い出したって、今となっちゃただの夢だったんだから。そんな、謝ったって・・・。
 外はすでに日が出ていて明るいけれど、起きる時間にはまだ早い。寝直そうとして目を閉じてはみたものの、再び眠れるはずもなかった。

 目を閉じて浮かんでくるのは、先ほどのあの夢の光景ばかり。どんなに打ち消そうとしても、かえって落ち着かなくなるだけ・・・。
「あー、ダメだ。もう」
 しょうがない。起きるか。・・・かくして、あたしは我ながら珍しい『早起き』なるモノをすることになってしまったのであった。


 早起き・・・とはいっても、それはあたし個人にとってであって、城内の至る所ではすでに今日一日の動きが始まっていた。城の兵士たちの食事を作る厨房からは、とってもいい匂いがしている。へぇー、兵士さんたちの朝ゴハンってこんなに早いんだ。そーだよねぇ。だって二十四時間、城の警護してなきゃならないんだもん。ホント、大変だ・・・。
 そんなことを思いながら、とりあえずテラスまで来てみた。ここは海に面していて、晴れていれば、南の半島までずーっと見渡すことができるのだ。ま、あたしが見たかったのは海なんかじゃないけど・・・。
「お! やってるわ、ホントに・・・」
 視線の先・・・そこには確かに、アイツの・・・・・・リモーネの姿があった。


 リモーネは、城のすぐ前の浜辺でひとり、剣の修行を続けていた。なんかやけに真剣にやってるみたいで、あたしが声をかけるまで気づかないみたいだった。
「おっはよー! リモーネ! ガンバってんじゃん、朝練」
「! ・・・えっ!? フィナ!? なんでこんな早く・・・・・・今日何かあんのか」
「何もないよ、別に。そんな驚くコトでもないでしょ」
「驚くよ・・・。だって用事ないときっておまえ、昼過ぎまで寝てんじゃん。それがよりによってこんな早くに・・・・・・やっぱ何かあるんだろ!」
「ないっつーの!」
 ったく。本当のことだから仕方ないけど、なんつー言われようだ・・・。あたしだって、好きで早起きしてるんじゃないんだから・・・あの夢のせいで・・・・・・あれ?

 リモーネ見たら、ふと思い出した。あの夢のお姫さまがかぶってたやつに、ロトの紋章が入ってたような気がする・・・・・・ううん、絶対入ってた! でも・・・なんで・・・・・?

「どうした? いきなり黙り込んで」
「あのさ・・・・・・あ、いや・・・なんでもない」
 やだ。今、本気で質問しようとしてた。夢の中の出来事に! そんなことしたってバカに思われるだけなのに!
 はぁ・・・とため息をついたと同時に、城のほうから大きな掛け声がかかった。
「リモーネさまーっ! 朝食の準備が整いましたーっ!!」
「おぅ! すぐ行く!」
「!? ・・・は? 朝食!? だって今って、兵士たちの朝ゴハンじゃないの!? 王家のはまだでしょ」
「ああ。朝の修業始めてから、兵士たちの朝食に付き合わせてもらってんだよ。なんたって腹へるからなー。なんなら、おまえも食べてけば?」
「えっ! いいのいいのー? いきなり行っても、食べさせてもらえんのー?」
「平気だよ。量多いし。俺も最初、王家の朝食まで腹もたなくってさ、兵士の食堂に行ったらこころよく迎えてくれたんだ」
「ふーん・・・じゃ、行かせてもらおっかな。さっきからいい匂いがしてたのよー」
 やったー!! 実はあたしもおなかすいてたのよー! ・・・それにしても、リモーネってば、どんどん王子離れしてるような気がするのは、きっとあたしだけじゃないわね・・・。


 昔々、アレフガルドと呼ばれる地に、「魔王」なる暗き闇があった。天上より降りし勇者ロトは、神から授かりし光の玉を用いて闇を討ち、永き平安をもたらした。
 時は流れ、ラルス十六世の時代。突如として現れた竜王によって、光の玉は奪われ、世界は再び闇に閉ざされた。しかし、勇者ロトの血をひく若者が竜王を討ち滅ぼし、世界に光を取り戻したのだった。
 その若者が新天地をめざして旅に出て、最初に築いたのが、このローレシアの国。そしてリモーネは、この国の王子なのである。つまり・・・そう! リモーネは、あの伝説の勇者ロトの血統を継ぐ由緒正しき王子さまなのだ。

 ついでだから、あたしの自己紹介もしておこう。あたしの名はフィナ。リモーネのいとこ。正式な王族ではないんだけど、今はこの城で暮らしてる。母親どうしが姉妹で、いとこといっても、あたしはまったくロトの血はひいてないんだけどね。
 あたしとリモーネはほとんど兄弟同然に育ったから(年は同じだけど)、おたがい思ったことはなんでも口にできる。もちろん、敬語なんか無しでね。だから、さっきのようなタメ口も平気できけるってわけなのだ。

 でも・・・いくらなんでも、あの話はできないよぁ・・・・・・。

「あー、食った食ったー! ・・・おいフィナ、どうした? 飯、うまくなかったか?」
 兵士用のボリュームのある朝食に満足しきった様子のリモーネが、これまた黙りこくって考え始めたあたしに言った。
 ・・・うまくないはずはなかった。早く起きて、ちょっと散歩してから食べる朝食は・・・いつもより、野菜の大きさなんかも大ざっぱで豪快な朝ゴハンは、とっても美味しかったのだ。
 だけど、食堂に集まってきた兵士たちを見たら、頭の中は一発で夢の城に切り替わってしまった。あの城の兵士たちは、襲ってきたモンスターと勇敢に戦って、そして・・・・・・。

 記憶は少しも薄れていない。鮮明に、とぎれることなく残っている。これはもう、ただの夢なんかじゃないんじゃないか・・・・・・!
「あのね――
 あたしは口を開いた・・・!


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