近接信管

 信管とは爆弾やミサイル、砲弾に積載された炸薬(火薬)を起爆させる装置の事で、一般的には弾底部または弾頭に設置される。この信管が何らかの理由で作動せず、爆発しないままになった爆弾やミサイルが不発弾と呼ばれる。多くの場合信管は炸薬を必要な場所、必要な時刻に起爆させるため、何らかの条件付けを施す装置と一体化している。時限爆弾のタイマーなどが最もわかりやすい例だろう。近接信管はその一種で、VT信管とも呼ばれ、レーダーから発せられる電磁波の反射波が一定の強さになった時、つまり目標物の一定距離まで達した時点を計測して作動する。これにドップラー効果検波器等を併用する事で精度の高い近接信管を実現できる。
 従来の信管は着弾の衝撃で作動するものであったり、発射から一定時間で作動する時限信管であったりしたが、前者は目標そのものへ着弾しなければ、後者は目標(しかも大抵の場合動いている)に到達するまでの時間の計算が正確でなければ、本来の破壊的効果を発揮する事は難しい。しかし近接信管は目標の付近で爆発するよう条件付けられているために、目標に対する直撃も時間計算も必要なく、その爆発とそれによって飛散する砲弾自身の破片で目標に対し、破壊的影響を行使できる点で優れている。近年は破裂する砲弾の破片に指向性を持たせたものや、レーザーを使用した近接信管も開発されている。
 ミサイルなどへの搭載が主に想定されるように思えるが、実用化は高射機関砲の砲弾が先んじた。アメリカはこの開発に原子爆弾開発計画であるマンハッタン計画に匹敵する予算を投じ、1943年末に実用化に成功、翌1944年のマリアナ沖海戦では合衆国海軍の対空砲弾に近接信管を搭載し、この事が日本海軍航空部隊に甚大な損害を強い、当時の日本の海上航空戦力を事実上壊滅せしめた一因となった。
 しかし近接信管も万能ではなく、単純な作動不良や極めて強力な電磁波などによってレーダー等の計測器を破壊されてしまえば作動は出来ない。近接信管が高性能化すればするほど、それに対する対抗手段もより高度化していく。兵器の進歩とはそうしたいたちごっこに他ならないのである。
 闇竜フレキシブルアームドコンテナに搭載されているミサイルの多くにもこの近接信管が搭載されているが、パリ市街におけるQパーツ奪回作戦では近接信管が作動せず、エッフェル塔基部への誤爆が起きてしまっている。この時、近接信管が作動しなかった原因についてはQパーツが発する特殊な磁場の影響が挙げられているが、真相は不明のままである。