ますだあーと書店日録


古本屋を始めるにあたって

一冊の本が人生を変えた。〜ぼくが古本屋を始めようと思ったわけ。

 まず始めにこの商店のオーナーであり、統括するサイトの管理者であるぼく、
マスダのことから話さなくてはならないと思う。話せば長くなるが手短に。

 ぼくはうんと若い時、高校生の頃に、「植草甚一責任編集」と表紙にある雑誌
『宝島』と出会って、カルチャーショックを受けたというか、人生観が変わり、
毎朝ネクタイを締めて電車に乗るスクエアなサラリーマンにはならないで人生を
生きていこうと思った。
で、学校を出た後もきちんと就職活動など一切せず、いわゆるフリーター(まだ
そんな言葉もなかった時代だが)、つまりバイト生活をずっと続けながら、学生
時代から続けていた自主制作映画活動とか、バンド活動、ミニコミ発行、海外放浪
旅行とか好きなことだけやって生きてきた。そのどれかでプロになれれば良かった
のだけれど、世の中はそんなに甘くもないし、第一そんな真剣な気持ちもなかった。

 そして20代が過ぎ30代に入り、好きな人もでき、結婚も考え、就職のまねごとを
したこともあった。が、会社の都合や自分の都合で(性格や能力的なもの)で長く
続かず、そうこうしている間に“長すぎた春”で結婚話も立ち消えて、いつしか
ぶらぶら定職のないまま、40代になってしまった。
 これまでの人生において、人夫のような肉体労働、外国人に日本語を教える教師、
ソーセージを作る職人の見習い、工場の単純労働者、販売員などいくつもの仕事に
身をおいたがどれも続かず中途半端で辞めたり首にされたりで、そのうち“家庭の
事情”もあって(老親の病気介護)歳と共に不況もあいまってバイトにせよ仕事も
なくなり、近年は代々木などのフリーマーケットで家の不要品や拾ってきたモノ、
友人からカンパされたものなどを並べ小銭を稼いでそれで喰ってきていた(それで
何とかメシが食えるのは、実家に住んで家賃というものを払ってないからです)。

 話を聞きつけた大学時代の友人たちがいろいろカンパの品として各家庭の不要品
などを提供してくれたのだが、その中にKちゃんという脚本家などをやっている男
がいた。その人は、小さくなった子供服、おもちゃなどと一緒に彼が読み終えた本、
雑誌、仕事で使った資料なども宅急便で次々と送ってくる。はっきりと記録しては
ないが、2Lペットボトル6本入りの箱ですでに40箱を軽く越えていると思う。
すべて本類ではないが、膨大な量だ。
 最初、フリマに持っていって並べていた。でもこれが売れない。けっこういい本
があるんだけれど、フリマに来る若い人は本なんて読まないし、売れたとしても
むこうの言い値で100円かそこらでたたかれてしまう。元より本や活字は死ぬほど
好きな“もだえ苦しむ”活字中毒者だったから本のカチのわからないバカ者たちに
売らなくてもイイやとため込んで喜んでいたのだが、Kチャンからの宅急便は次々
届き、狭い我が家は本はたまる一方だ。ただでさえ貧乏性で捨てられない自分の本
もたくさんあるのに。その上、築40年の我が家は老朽化が進みあっちこっちガタが
きて近日起こる大地震に耐えられそうにない。立て替えるにしろ問題は本の山だ。
せっかく送ってくれる彼の好意をむげにするわけにはいかない。さてどうしたもの
だろうか。
 そんなある日、届いた本を整理していたら、一冊の本をみつけた。
『ぼくはオンライン古本屋さんのおやじさん』――北尾トロ著作・風塵社刊・2000年。
西荻のネット書店の先駆者でライターでもある北尾トロという人が書いた、ネットで
古本屋を始めた体験談とノウハウを開かした、いわば「ネット書店のススメ」だった。
 ぼくは古い世代だからパソコンなどにはまったく興味がなく音楽だってCDよりも
レコード、そして真空管アンプまで自作しようと考えているほどの超アナログ人間だ
ったから最初はためらいがあった。でもこの本を読み終えた時、これはいいなあ、
こんな風に本をインターネットで売ることができたらなあと思った。
 本好きな人なら古本屋は大好きで、誰もが一度は古本屋になってみたいと夢想した
にちがいない。ぼくも憧れた職業のひとつだった。でも、店を構えたら毎日店を開け
店番をしなくてはならないし、いろいろ設備に金もかかる。でもネットでならホーム
ページを開設してそこに目録を載せればいい。それで売れて少しでもお金になればいい
けど、それよりもまずは今ある、あり余るほど処分に困っている本を、探している人、
読みたい人に流通させられたら、と思った。
 松沢呉一氏も言っている。「――本に幸せというものがあるのなら、面白がれる人、
価値がわかる人がいるところに行き着くのが幸せってもんです。どうせ捨てられる
だけなんですから《略》」(ポット出版のサイト・黒子の部屋569回、図書館と古本屋
より)と。                     
 そんなわけで古本屋さんを始めることになったわけです。一冊の本がぼくの人生を
変えた。夢と希望を与えてくれた。だからこの『ますだあーと書店』は、本に対して
のぼくの恩返しなのです。

 世の中では日々膨大な量の本が出版され、また反面膨大な量の本が日々紙ゴミとして
処分されている。稀覯本として高い値で売買される本もあるだろうが多くの本は読み
捨てにされる。新しくて話題のきれいな本はブックオフなどの大型新古書店に流れるが
それ以外の特に汚く古い本はヒモでくくられ紙ゴミ回収の日にゴミ捨て場に出されるの
がオチだ。
 でも本は、故・山本夏彦翁の言葉を借りれば、「――本には著者の魂の全部でな
いまでも片鱗がこもっている。それが並みの商品とちがうところで、どんな本でも
見るべきところは一つはある」(『「豆朝日新聞」始末』より)ものなのだから、
たとえ汚くたってすごく古いからといってすぐにゴミに出されていいものだろうか。
 世の多くの人にとって興味のない価値のないような本だって、ある人にとっては
長い間探していた、思い出の本かもしれない。またまったく関心のない人にだって
偶然手に入れた一冊の本がその人の人生を変えてしまうほどの感動や驚きを与えて
くれるかもしれない。
 ぼくは本が大好きだ。本はぼくの多くを変え、ぼくの多くを救い、ぼくの多くの
楽しみとなってくれた。ぼくが願うのは――、本をもっともっと幅広く流通させたい
ということだ。ぼくの店にある本は大部分が均一本の棚に並んでいるような本かも
しれない。でも、その中にはきっとあなたの知らない素晴らしくユニークで役に立つ
本や、素晴らしくカンドー的で面白い本、素晴らしくヘンで不思議な本があるかも。
そして読み終えたとき、少なくても読む前のあなたとはどこかが違った自分に気が
つくことでしょう。

 当店はそんなきっかけで2003年7月1日を開店の日として始まりました。パソコン
歴も一年ちょっとの素人同然でトラブル続きでいろいろ不備不満足なサイトです。
目録も制作途中で店に出ている在庫も少ないけれど、日々入力、更新して行きます
のでちょくちょく気軽にまたのぞきに来て下さい。おもしろい本が出ているかもしれ
ませんよ。
 以上、とりとめのないご挨拶となりましたが、これからも末永くおつきあいを
心よりお願いします。また本の注文にかぎらずご意見、ご感想、ご指導ご鞭撻のほど
よろしくお願いします。頂いたメールには必ず返事を送ります。

                            店主 マスダ昭哲
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