爆弾的入門書
 ここ数年、アンソロジー、辞典、入門書といった、短歌の大きな枠組みを示そうとする書物の刊行がひときわ目立っている。むろん数だけを言えば、もともとかなりの量がコンスタントに出版されていたわけだが、近年は特に、従来の常識を破るものが集中している感がある。たとえば、三十代歌人に大きく偏向した『新星十人』(立風書房)、私的な価値観を濃厚に反映させた小高賢の『現代短歌の鑑賞101』(新書館)、国文学者が編集に参加していない『岩波現代短歌辞典』、歌壇的活動のノウハウまでを面白く見せた島田修三の『短歌入門』(池田書店)等、書店の棚を見渡すだけでも、例には事欠かない。
 背景には異色の本が市場で強く求められている事情もあるのだろう。けれど、この趨勢には、出版の問題だけでは到底わりきれない感触がある。そこには、教養的な短歌観への反撥の姿勢が感じられてならない。歌人たちは、現場からの生の声を切実にひびかせたがっているのではないか。そしてまた一冊、桁外れなまでに常識を破った入門書が出た。穂村弘の『短歌という爆弾−今すぐ歌人になりたいあなたのために−』(小学館)である。
 歌集『シンジケート』でも知られる著者独特のエキセントリックな感性を活かし、ビギナーの作品を批評したり指導したりする座談会や電子メールでのやりとりをはじめ、歌壇からやや離れた同人誌での歌会や短歌朗読コンサートの様子が楽しげに語られたりもしている。もちろん紙数の半ば以上は、短歌という詩型の仔細な分析のために費やされてはいるが、従来の入門書が実現できなかった、と言うよりも、発想さえしなかったスタイルがここにはある。書物としての面白さを失わずに短歌観を十全に伝えているあたり、入門書の理想のかたちのひとつだと思われる。愛読されることも大きな批判をうけることも予想されるが、本書の賛否をめぐって、現代短歌が新しいステップにのぼる予感がある。

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