絹の雨




何に失敗しても 人生が終わったわけじゃないよって
だから大丈夫だよって
その老女の瞳は涼しくて
遠くも近くもよく見える眼差しで云う



遠い異国に娘を送って そして
あの娘はカセットデッキと引き換えに
その人生を断たれた



( か )の国の裁判は この国のものとは違う
遺影を持ち込むことを疎んじたりせずに
言いたい事はないかと訊いてくれる



思いのたけをぶちまけて
できる限りの憎しみを込めた瞳で
あの時は






だけど
だけど
ああそうだよ
あの娘は戻らない






人間の尊厳とか 存在の価値とか
それを操る魂の数だけ種類がある
自由意思という名のもとに



蘇摩( そ ま )を飲んでも 神にはなれない
でも同じその名のもとに
あの目に近づく事はできるんだろうか



抱えきれないほどの絹の雨を飲んで
あの人はそれを
証明したのかもしれない

 

 

 

 

 

 

Photo by Noi


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