機内でーその3



さて、そうこうする間にごまちスペシャルシート、バシネットをスチュワードさんが取り 付けてくれた。バシネットとは赤ちゃん用のベビーバスケットのことで、一番前の席の壁 (普通はスクリーンの下)にとりつけられる。毛布をたくさん敷き詰めてもらってさながら ふかふかのベッドに寝ているみたいだ。お父ちゃんはぽいぽいとごまちのおしゃぶりやら おもちゃやらをその中に放り込む。ごまちをそうっと寝かすと案の定ふえっふえっと泣き出した。 そりゃ抱っこの方がいいよなあ。でもお母ちゃんはごまちが寝ていてくれる方がいいのだよ。 と行ってみても仕方ないのでごまちを抱っこする。 飲み物のサービスが始まった。 いつもならここぞとばかりアルコール、特にベルギービールをたのむのだけど。お父ちゃんの ビールを一口もらうので我慢しよう。お母ちゃんの手はごまちを抱っこしてふさがっているので お父ちゃんが時々お母ちゃんの口にぽいぽいとお菓子をほうりこんでくれる。 ごまちはまだ食べれないけど、そのうちほしがるようになるのだろうなあ。 世の中にはおいしいものや楽しいことがたくさんあるんだよー 。

食事は例のごとく、牛肉の和食か鶏肉の洋食かの選択だった。 お父ちゃんとお母ちゃんはなんとなくいつも二人で別のものを頼んでお互いにシェアーする 方法をとる。その方がいろいろな味を楽しめるからだ。今回はお父ちゃんが「和食をお願い します」と言ったのでお母ちゃんが洋食に決まった。といってもほぼ半分ずつ分けるので同じ ことなのだけどね。和食も洋食もどうということのない普通の機内食。サラダがおいしかった。 ごまちは泣くばかりだったのでお母ちゃんはずっと中腰でごまちをゆすりながら時々お父ちゃん が口に入れてくれるものをもぐもぐと食べる。途中でお父ちゃんと交替。 パンのサービスがあって、あたたかいパンが配られた。これはおいしかった。

食後にも飲み物が配られ、ほっと一息。 そういえば、ごまちに離乳食をあげようと思ってフリーズドライの食べ物をたくさん持って きたけど、全然その余裕がなかったなあ。

機内が暗くなって映画の時間となった。これからがつらかった。 ごまちは泣くし、機内は暗くて仮眠をとる人の迷惑になってはとちょっとした物音にも気を使う。 とうとう立ち上がって、スクリーンの邪魔にならない位置でずっとごまちをあやすことになって しまった。これはある程度覚悟していたことだが。 2回目のごまちのミルクの後だったろうか。ほ乳瓶を洗いにトイレに立ったが、間もなくして ごまちの泣き声が聞こえてきた。エコノミーの一番前の席にいるごまちの声がエコノミーの中央 のトイレの壁をつきやぶって聞こえてくるのだから相当うるさいに違いない。 お父ちゃんも困っているはずだ。はやくもどらなきゃとは思うものの、ほ乳瓶が汚れたままだと この先ブリュッセルに着いてからほ乳瓶が洗える状況になるまでの不安が残る。 なるべく早く洗い終えて席にもどるとリラックスしたお父ちゃんがいただけで、ごまちがいない! 「あんまり泣くからスチュワーデスさんが連れていってくれた」とお父ちゃん。心底ほっとしている ようだ。しかし、私にしてみたら、なんでー!?母親失格?という気分。 みると、カーテンの向こうのビジネスクラスの通路でごまちがスチュワーデスさんにだっこされ ごきげんで笑っている。ビジネスクラスのお客さん達にも愛想をふりまき、頭をなでてもらっている。 飛行機が遅れたため多くのビジネスクラスのお客さんは他の航空会社に振り替えられて、ほとんど がらがらの状態だった。数人のスチュワーデスさんが集まってきてごまちのまわりをとりかこみ、 みんなであやしてくれている。ごまちはご満悦。

そうっとビジネスクラスの方に入っていくと、金髪のスチュワーデスさんが、「大丈夫よ、後で 連れていくから休んでいて。」と言ってくれた。多少不安が残るものの、まあ、そう言ってくれて いるのだからと、お礼を言って席に着いた。なんとも複雑な心境。こういう時は有り難く好意を受ける のがいいのだろけど。






だいぶんたってからスチュワーデスさんがごきげんなごまちを連れてきてくれた。 にこにこしているごまちは相当かわいい。あ、これは親ばかなだけか。 間もなくごまちは眠りにつきバシネットの上ですやすや眠りこんだ。 ほっとしたお母ちゃんも、今のうちに、と寝ることにした。そういえば映画をやっていたんだ。 そんなことを思う余裕もなかった。普段ごまちはどんなに泣いていてもお母ちゃんがあやすと お腹がすいている時以外は絶対に泣きやむはずだった。その自信がもろくも崩れ去った。 考えてみると、ごまちを静かにさせるためだけにあやしていたような気がする。周囲に気を使い、 とにかく泣きやませようと必死だった。ごまちは悲しくて仕方ないと目で訴えていた。当然だ。 お母ちゃんがぴりぴりと神経をとがらせて、この長いフライトの間をなんとか穏便にすごそうと そればかりを考えていた。ごまちのことを考えてあげる余裕がなかった。ごまちは単純に お母ちゃんに抱っこされて安心したいだけだったのかもしれない。泣き叫ぶごまちを抱きながら、 周囲の人に「すみません、すみません」ばかり連発していた。後ろの席の白人の男性に「sorry」 と言ったら、「とんでもない、大丈夫だよ」という顔をされた。これは、その後チェコで飛行機に 乗った時もそうだった。なぜあやまるのかわからないといった表情をされた。それで「うるさくて ごめんなさい」と言いかえたら、やっと理解して、全く気にしなくていいよと身振りで教えて くれた。そんなことを気にするより、赤ちゃんを大事にしなさい、ということだった。 本当にその通りだ。ごまちはこんな母親に不安を感じていたのだろう。

お父ちゃんは自然体でごまちをみている。泣いていてもあせらない。 お母ちゃんだけか。こんなにぴりぴりしていたのは。。。

ミルクも頼めばスチュワーデスさんが温度を確かめてもってきてくれた。 ほ乳瓶も洗ってくれた。自然に何でも助けを頼めばよかったんだ。 とやっと気づいたころに、飛行機は5時間遅れでブリュッセルに到着した。


つづく

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