1983年は、第二次テレビゲーム戦争のまっただ中で、実に10数機種が市場にいりみだれる大激戦の様相を呈(てい)していました。この乱戦から他社のゲームを一歩でもリードしようとしたのか、はたまた、アタリ社のすごいCMの影響でしょうか。各社CMも今までとは違い、工夫にこらしたものが制作されました。

ンダイが発売した光速船のCMは、これまでのHowToスタイルではなく、ベクトルスキャンというゲームの特質をいっぱいに広げ、ゲームキャラクタが3D空間を高速で滑走(かっそう)する、クールなSFイメージを全面にうちだした格好となりました。 「3D空間」「光(レーザーなど)」のイメージは、富士通FM-7、シャープX-1などの当時の人気パソコンCMにも見られ、80年代初頭における「先端」を表すキーワードだったんですね。
 また、大物タレントの起用も見逃せません。TV-JACKシリーズにタモリ、インテレビジョンにビートたけし、アルカディアには小林克也(ナレーション)と、バンダイのTVゲームCMにはビッグネームが欠かせないものになっていたのですが、この光速船でも、そのナレーションに、声優界の超大物・広川太一郎を迎えています。
制作費などは不明ですが、いままでのバンダイTVゲームとは次元の違う、実に密度の濃いCMで、新たなテレビゲームをアピールしようという発売側の意気込みが伝わって来る作品といえるでしょう。

時期のコモドール社のホビーパソコン・MAXマシーンのCMは、そのSFXを「俺たちひょうきん族」のオープニングCGなどをてがけた東洋現像所ビデオセンターが担当。モーションコントロールカメラ:C-CAMシステムを使用し、本体やロゴが光跡を残して飛び出してくるといった”新登場!”のイメージを打ち出しています。何重もの透過光合成も美しく、これまた最先端を意識したイメージ重視のCMでした。
 


れらとは全く対照的に、最後発でありながら、従来のHowToものから一歩も抜け出していなかったのが、任天堂のファミリーコンピューターでした。こんな機械が出ました、カセットはこう差し込みます。音はこんな感じで、操作はこういう風にやります、と、まるでHOW TOもののビデオのように、たんたんとファミコンの遊び方について説明がなされていきます。

もちろん、この演出は予算がなかったというような理由ではなく、明確な広告戦略に基づいたものですが、あまりにも華の無い演出であるため、任天堂社内でも賛否あったそうで、ある社員などは社長に「こんな地味なCMはやめましょう」と直訴したという逸話が残っているくらいです。
もっとも、このファミコン初のCMにも、ある時点までは派手なものと地味なものの少なくとも二種類が用意されていたそうなのですが、最終的には「わかりやすい方でいこうや」という社長の意見で通されたそうですね。


1983年、もしあなたが何かテレビゲームCMを目にしていたとしたら、一番印象的なシーンは何でしたか? タレントの顔?それとも3D-CG??

  わがODYSSEY的には、これはもうファミコンにおける、ドンキーコングとマリオブラザーズの画面以外の何者でもありません。ソフトメーカー大手のハドソンの工藤氏も、談話で「CMでファミコンを見て、あんなグラフィックがTVで出るのか?いや出るはずが無い!」と衝撃を受けたことを述べられています。これが、ハドソンのファミコン参入のきっかけにつながったりするわけですね。
  考えてみれば、ファミコンの最大のセールスポイントは、その存在自身(絵、音、値段、ソフト)。さすが山内、元・任天堂社長。その慧眼(けいがん)具合にはおそれいります。



MEMO: ん!夜7:30からの「火曜スペシャル」で、よく任天堂CMがながれていましたね!「ドリフ大爆笑」の提供が確か任天堂でシュた?
おじさん、ドリフ好きだものなあ〜!


光速船 30秒編(1983)
企画制作:読売広告社+キャット

画面に出てくるCGは、直接ディスプレイから出たものではなく、計算で書かれたものをX-Yプロッタプリンタで一度出力し、それをベースにロットリングで作画した後、合成処理したものだそうです。なお、スタッフや社員が、撮影のため借りてきた光速船にはまったというエピソードも。




MAX MACHINE(1982)
企画制作:中央宣興+東京コマーシャルフィルム
SFX:島村達雄、東洋現像所C-CAM


同時期の東洋現像所の作品には、俺たちひょうきん族(83年版)オープニングなどがあり、こちらも光のワイヤーフレームのゲートをくぐる、近未来のアミューズメントパークをイメージしたもの。




ファミリーコンピュータ(1983)
企画:電通or博報堂(らしい)
全くシンプル極まりないCMだが、ファミコンの画面にまさる演出なし!
なお、任天堂のTV-CM制作を始めとする広告代理店は電通もしくは博報堂。博報堂は阪神vs巨人戦の放送枠を持っていたそうで、任天堂のCMは、その時間帯によく流されていた様子。




光速船の画像:コマーシャルフォト「CG&SFX」/1983年10月号/玄光社
・マックスマシーンの画像:特撮CMとコンピュータ・グラフィックス/玄光社/1983年
・ファミコンの画像:新・電子立国/ビデオゲーム・巨富の攻 防/NHK/1996放送
※アニメーションは、雑誌記事を構成したものです。また、実際の動きとは異なります。