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2020/07/03 Updated

日本の教育を考える
~新型コロナ禍で浮き彫りになる問題~


この文章は9月入学の是非を問うものではなく、日本の教育の問題を考察したものである。

2020年5月27日に、自民党のワーキングチーム(WT)は、学校の始業や入学の時期を変える「9月入学」提言の原案をまとめた。
これは、2020年4月30日に、全国知事会が児童、生徒、学生の新型コロナによる学習機会損失の救済の選択肢として政府に緊急提言をしたことから始まった。
しかし、自民党WTの原案は、入学月を9月に前倒しした場合の未就学児から就職までの社会的影響を列挙しており、児童、生徒、学生に対する3月からの一斉休校への影響については言及されていなかった。
また、自民党WT案は、現在、保育園、幼稚園に在園している未就学児の飛び級、学年分断、学年統合等、問題が山積みとなる内容であった。<リンク1>参照。
自民党WT案を受けて、教育分野の関係者が未就学児の問題部分を大きく取り上げ、9月入学に反対するとして活動を始めた。<リンク2>参照。
2020年6月には政府も事実上、2021年度までの9月入学は困難とした。

ここで問題を整理すると、大きく以下の2つが考えられる。
(1)児童、生徒、学生の学びの機会の損失に対する対策は立てられておらず、現場まかせになっており、今年度の授業日数が足りない可能性がある。
(2)入学時期の変更による未就学児の問題は、新型コロナの第2波以降が発生したら再燃する。

では、新型コロナ禍での9月入学の出来事から見えてくる、日本の教育の問題とは何かを考える。

国立情報学研究所(NII)は、AIで東大入試に合格するとして、2011年に東ロボくんプロジェクトを立ち上げた。
プロジェクトの結末は、2016年に、大学入試センター試験の模擬試験で偏差値60程度を記録したところで中止している(現在、プロジェクトは再開している)。
これは、AIは問題の意味を理解していないが偏差値60までの大学なら入学試験をパスする可能性を示している。
即ち、日本の教育システムで中堅の成果を出している人達は、日本語を理解していない可能性を示唆しているとして、研究費用を教育に充てるべきとNIIは判断した。<リンク3><リンク4>参照。

実は、日本の教育問題はずっとくすぶっており、臨時教育審議会設置(1984年)や尾崎豊の卒業(1985年)の歌詞「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」等からも伺える。1996年には文部科学省下の中央教育審議会の答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」で「『自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力』をはぐくむ必要がある」と解説されている。
臨時教育審議会でもすでに、「記憶に偏った詰め込み型、知識集約型の教育」から脱却し個性を重視すべきとの答申が出されている。<リンク5>参照。
つまり、日本の教育ではぐくむことができないのは、個性や問題解決能力だということになる。

文科省は文部省時代から幾度も教育改革を推進してきているが、その結果はいつも骨抜きになり、戦前の教育の仕組みが未だに継続している。
このことが、新型コロナ禍での9月入学の検討でも如実に表れている。
例えば、政府案は未就学児の問題をケアする配慮ができていない点や、それを受けた教育関係者や児童、生徒、学生とその保護者達の政府案に対する賛成か反対かの選択は、問題解決を目的としているとは言えない。
教育制度や教育の仕組みを変更することが大変なのは理解できるが、実現するにはどうするか、と立ち止まって考えることが私たちのやるべきことではないだろうか。

NIIの東ロボくんプロジェクトの成果では、シンギュラリティの危機が述べられているが、自民党WTの9月入学案やその賛成か反対か選択だけしている姿は、シンギュラリティを既に迎えている。
なぜなら、選択する能力において、AIは人間よりはるかに優れているから。
人が人としてやるべきことは、選択ではなく、問題解決である。
そして、これは子どもの問題ではなく、大人たちも含めた皆の問題である。

<リンク1> 9月入学導入:苅谷教授グループ報告書 - オックスフォード大学日本事務所
<リンク2> 9月入学本当に今ですか?
<リンク3> 「東ロボくん」が偏差値57で東大受験を諦めた理由 - DIAMOND online
<リンク4> AIで東大目指した「東ロボくん」開発者がTEDで語った危機感 - BUSINESS INSIDER
<リンク5> 35年前から進化しない日本の教育は、世界の変化に追いつけるのか - Forbes JAPAN

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