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分子間相互作用によるチョコレート用固体脂の物性改質

論文の要旨




 チョコレートは結晶性ココアバター(CB)を連続相とし、この中にカカオ
豆や砂糖等の固体粒子が分散した構造を有する固体脂食品である。したがって、
油脂結晶に関する詳細な理解がチョコレート物性の理解と物性改良、さらには新
たな物性創出につながる。本研究はCB固化過程の実験的・理論的解析をもと
に、植物性油脂から精製した新規なトリアシルグリセロール(TAG)をCB系
へ導入することによって、TAG分子間相互作用を利用し、新たな物性を有する
食用固体脂の開発につながる基礎的研究をまとめたものである。

 本研究で得られた成果の要点は以下の通りである。

研究の前半では、CBを構成する主要な3種類のTAG分子の結晶化過程をそれ
ぞれについて検討し、その後、それらの成分分子を混合させた系における相挙動
を明らかにした。すなわち、高純度の試料を用いて、POP、SOS及びPOS
(P:パルミトイル、O:オレオイル、S:ステアロイル)の融液からの結晶化挙動を
新たに開発した結晶化速度測定装置、X線回折および示差走査熱量計により解析
した。結晶化方法として、単純冷却結晶化・融液媒介結晶化を用い、以下の特
徴が見出された。
 (a)結晶化速度は常に不安定多形の方が安定多形よりも大きい。
 (b)同一結晶化温度において、融液媒介結晶化による結晶化速度は、単純冷
   却 による結晶化よりも大きい。
 (c)多形の出現挙動は単純冷却と融液媒介結晶化で異なる。

さらに、3種類のTAGの結晶化挙動を、CBの結晶化挙動と関連させて考察し
CBのテンパリング過程では融液媒介結晶化による安定多形の結晶核の生成が起
こっているものと結論された。
 さらに、これら3種類のTAGの2成分系、3成分系における相挙動を検討し
融解挙動の解析からCBを改質するに最適なTAGの成分組成を吟味した。

 研究の後半では、OSOとSOSの2成分系における結晶化挙動・相挙動を
調べ、OSOをCBへ導入した系の物性変化を検討し、OSOを利用した新たな
物性を有するチョコレート油脂の開発に応用した。
 はじめに、OSOとSOSの混合系における結晶化挙動を検討し、OSOと
SOSとは、その混合比が1:1のときにCompound結晶を生成し、これ以外の
混合割合ではCompoundとSOS、またはOSOとが共晶を形成することを明
らかとした。共晶状態においてCompoundとSOSまたはOSOが独立に多形
転移を起こすことを示した。これらの結果から、SOSとOSOの混合系にお
ける相図を作成した。Compound結晶の構造モデルとして飽和・不飽和アシル
基間の幾何学的相互作用により、SOSとOSO中のステアロイル鎖とオレオ
イル鎖とが分離し、2分子型ラメラを形成する機構を考察した。

 次に、SOS/OSO系で生成するCompoundについて、その多形現象、
結晶化速度を解析した。Compoundには、α型とBeta-c型の2種類の多形が
同定され、融液らの結晶化では、Beta-c型が非常に大きな速度で析出し、その
単結晶のモルフォロジーが通常のTAGのβ型と一致することが認められた。 
また、SOS/OSO系で生成したCompoundは、POP/OSO系、POS/
OSO系でも認められ、SOS/OSOのCompoundと類似した結晶構造である
ことが確認された。

  最後に、OSOをCBと混合した際の結晶化挙動および生成した結晶の耐熱変
形性について、油脂系・チョコレート系において検討した。
CB中のPOP+POS+SOS含量と等量のOSOをCBに混合するとComp-
oundが生成されることを明らかとした。これはCBの主成分がPOP、POS、
SOS(>80%)であるためにSOS/OSO系の場合と同様の現象が起こっ
たものと考えられた。このようにして得られた結晶の耐熱変形性を調べた結果、
融点は高いにもかかわらず、可塑性の非常に大きな結晶であることが認められた。
この現象は、OSOを混合して調製されたダークチョコレートにおいても観測
された。しかし純粋なSOS/OSO系では可塑性の増大が認められなかった
ことから、このような可塑性の変化は、CB中に存在する液状油画分によって
もたらされるものと推測し、液状油がCompound結晶に対しどのような影響を
与えるかについて分子論的に考察した。また、この特異な可塑性はさまざまな
機能性をもつチョコレート油脂の開発につながることを明らかにした。

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