EUの予防原則が裁判所の支持を勝ち取る

欧州環境ニュース(ENDS) 1285, 12/09/02

 

EUの環境保健の政策決定における予防原則適用のための法的枠組みが、2つの重要な判決によって強化され、欧州裁判所(ECJ)の第1審裁判所によって昨日伝えられた。

その連関した判決は、EU当局が予防原則を合法的に適用可能にするために重要な司法上の指針を提供する。これらの判決は、国際的に予防原則の普及を促進しようと取り組むEUの権限をさらに強化することにもなるであろうとEU関係筋は述べている。

これら2つの訴訟は、バージニアマイシン(virginiamycin)・亜鉛バシトラシン (bacitracin zinc)・スピラマイシン(spiramycin)・チロシンフォスフェイト(tylosin phosphate)4つの抗生物質を動物の飼料用添加物として使用することを禁止した、1999年のEU規制から生じた。これらの抗生物質の使用禁止に関する規制は、抗生物質に対する細菌の耐性が人間に移行する可能性があるという理由からであった。(訳注;抗生物質を家畜用飼料に使用すると、これらの抗生物質およびこれに関連した医薬品に対する人体の抵抗力が増すため、その飼料が使用された肉を食べる人間に抗生物質に対する耐性が生じ、いざという場合に抗生物質が効かなくなる可能性がある。)

製薬会社のファイザー・アニマル・ヘルス社とアルファーマ社は、それが完全なリスクアセスメントによるものではなく、「リスクゼロ」の達成を試みたものだと主張し、そのEU規則に異議を唱えた。これらの規制が決定した時点では、バージニアマイシンの製造会社は、ファイザー・アニマル・ヘルス社だけであり、亜鉛バシトラシンの製造会社は、欧州ではアルファーマ社だけであった。

いずれの製造会社の異議も、欧州裁判所の第1審裁判所によって棄却された。裁判所は、予防原則がEU法の下で行使されることが可能な条件を詳細に検討してきた。そして、これらの判決において示された裁判所の指針は、欧州委員会(EC)2000年に公表し、これまでどのように予防原則を適用すべきかが主な論点となっていた予防原則の指針のほとんど全てを再び明言している。

裁判所は、予防的措置はあらゆるリスクを取り除くことを意味するものではないが、適切な状況下では正当化され得ることを再び確認している。そして、リスクがどのように評価されるべきであるかに関する指針を示し、リスク管理者として規制当局は、科学的リスクアセスメントを解釈するために広い範囲があることを再び確認している。

裁判所は、リスクアセスメントは不可欠であり、科学的及び政策的要素の両方を含まねばならないと考えている。専門家による科学委員会は、このことが法律の中で特に要求されなくても常に意見を求められなければならない。

EU当局は、ある条件下でのみ、専門家による科学委員会からの支持がなくても予防的措置を取り入れることができる。この訴訟において裁判所は、「そのような条件は、関連する科学委員会の意見の中に、委員会が見出した推論が含まれており、個々の訴訟における全ての関連する局面に対し、慎重かつ公平に実行される適切な審査を基にしていなければならない。」と結論している。

EU科学委員会は、バージニアマイシンの訴訟では、それを使用禁止にする十分な証拠はなかったと報告した。それにもかかわらず裁判所は、人の健康を保護するためには、使用禁止に対するEU議会の決定は正しいと判断されたと結論している。

亜鉛バシトラシンに関してEU当局は、使用禁止を決断する前に関連する科学委員会からの助言をさらに求めることはなかった。しかしながら裁判所は、他の類似した抗生物質に関する科学的知識が亜鉛バシトラシン対する「水平な扱い」を正当化したと結論している。

これら2つの訴訟において、スウェーデン・デンマーク・フィンランド・英国は、EU議会を支持した。スウェーデンの環境相代理(訳注;現シェル・ラーション(Kjell Larsson)環境相は2月以降がん治療のため休職中)レーナ・ソンメスタード(Lena Sommestad)氏は、予防原則に関するスウェーデン政府の見解への「突破口」となると裁判所の判決を評し、本日、その判決に対する満足感を表明した。そして、アルファーマ社とファイザー・アニマル・ヘルス社は失望感を表明し、さらに控訴するであろうと述べた。

仮訳:東 賢一

<参考資料>

欧州裁判所
http://www.curia.eu.int/

欧州裁判所のプレスリリース
http://www.curia.eu.int/en/cp/aff/cp0271en.htm

ファイザー・アニマル・ヘルス社の訴状と判決 (T-13/99)
http://www.curia.eu.int/jurisp/cgi-bin/form.pl?lang=en&Submit=Submit&docrequire=alldocs&numaff=t-13/99

アルファーマ社の訴状と判決 (T-70/99)
http://www.curia.eu.int/jurisp/cgi-bin/form.pl?lang=en&Submit=Submit&docrequire=alldocs&numaff=t-70/99

2000
2月に発表された欧州委員会(EC)による予防原則のコミュニケーション・ペーパー
http://europa.eu.int/eur-lex/en/com/cnc/2000/com2000_0001en01.pdf.


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