EU 予防原則適用のガイドライン

委員会は「予防原則に関するコミュニケーション」文書を採択した。

ブラッセル 2 February、2000

「欧州委員会は本日「予防原則の導入に関するコミュニケーション」文書を採択した。 この文書の目的は、どのように予防原則を適用するつもりなのか、また、その適用におけ るどのようなガイドラインを作成するつもりであるか、について、この問題に関心を持つ すべての人に知らせることである。この目的はまた、EUと国際レベルの組織の双方におい て、現在進行中のこの問題の議論にインプット(データ)を提供するものである。予防原則 はリスク分析のリスクマネージメントと関係しているのと同様に、リスク分析の体系的な アプローチの一部分を構成していることを強調している。それは、科学的な根拠が不十分、 あるいは結論の出ていない、あるいは不確実、であったりする場合が含まれる。また、予 備的な科学的証拠によって、環境、人類、動物あるいは植物の健康に潜在的に危険な影響 が考えられ、EUによって選択されている高い水準の保護に合致しないかもしれない、とい うこと示す妥当な理由の兆候がある場合も含まれる。本日のこの文書は、最近採択された、 Food Safety の白書と、今週末モントリオールで合意に達した、Bio-Safetyに関するカ ルタゴナプロトコルを補足するものである。」

この文書はまた、予防原則の下に採択されるかもしれない対策(measures)にもまた」 修正を与える。アクション(行動)が必要であると考えられた場合、対策の適用においては、 選択されている保護の水準と同等であるべきであるし、また、既に採択されている同様の 対策との整合性を採るべきである。対策はまた、アクションを起こした場合と起こさない場 合の便益と費用の試算に基づくべきである。また、新しい科学的データに照らしたレビュー を必要とすべきである。科学的データがまだ不完全、不正確あるいは、結論が導かれていな い場合、あるいはリスクが社会に受け入れられるにはあまりに高すぎる、と考えられる間 は、留保(maintain)されるべきである。最終的には、それらの対策は、責任者あるいは 立証責任者に対し、包括的なリスクアセスメントに必要な科学的証拠の算出を命ずるかも 知れない。これらのガイドラインは、予防原則が保護主義的な隠れ蓑として利用されないよ うに、予防原則に対する不用意な暴力を監視する。

本日の文書が委員会のErkki Liikanen、Enterprise and Information Society コミッ ショナーのDavid Byrne氏、健康と消費者保護コミッショナーのMargot Wallstrom、お よび環境コミッショナーによって述べられた。それは、EU議会10月5日のRomano  Prodi's氏のスピーチのフォローアップである。

充分な科学的根拠によって、決定や未決定がサポートされていなかったり、このような 決定の妥当性が疑問であったりしたため、最近の多数の出来事が世論の信頼や消費者を傷 つけたことを、この文章は思い出させた。 

委員会は、中でも環境と人、動物および植物の健康分野における高水準の保護を行なう ことを継続的に努力してきた。ある科学的基盤に基づいて、この高水準の保護を行なうこと 目的とした決定が、委員会のポリシーである。しかし、潜在的なハザードが環境あるいは人、 動物あるいは植物の健康に影響するかもしれない、という根拠ある理由がある場合や、同 様に科学的な情報の欠如しているため詳細な科学的評価が行なえない時、予防原則はいく つかのフィールドでリスクマネージメント戦略を政策的に受け入れてきた。

予防原則が、環境分野以外ではEC条約の中では公的に取上げられていないにもかかわら ず、委員会はこの原則が環境分野におけるよりも更に広がりを持っており、人と動植物の 健康もカバーしていると、考えている。

この文書は予防原則が科学の政治化でもなければ、ゼロリスクの受諾でもなく、科学が 明白な解答を与えることが不可能なときに、行動の基礎を提供してくれるものであること を明確にした。文書は、また、EUにとって何が享受可能なリスクレベルなのか、を決定す ることが政治的責任であることも明確にした。それは科学的不確実性に直面したときの行 動の論理性にも構造的なフレームワークを提供し、また、予防原則は科学的な根拠を無視 したり、保護主義的な決定の採用を裁くものでもないことを示している。

この文書の中で確立された公平なガイドラインは、この点における政治的な決定を行な うための有用なツールを将来において提供するであろう。また、理性を失った恐怖や認識 に基づいた決定ではない、科学が完全にリスク評価を可能にできないときに、合法的な決 定の採用に貢献するであろう。
このように、この文書のひとつの目的は、予防原則が適用されることを可能にする状況、 およびこの観点から採択される幅広い対策を決定することを可能にする状況、を明らかに 描き出すことである。それゆえ、この文書は、EUやどこかほかのところに住んでいる消費 者と経営管理者に対して、高レベルの保護やその期待と同じ程度に、域内市場が適正に機 能を果たすことを保証する一助になるであろう。

付録
委員会からのコミュニケーション
予防原則ついて
要約
1. いつおよびどのように予防原則を用いるかと言う問題は、EUおよび国際社会で多 くの議論を巻き起こし、ごちゃ混ぜになった見方や、時には矛盾した見解が生じた。こ のように、政策決定者達は、環境、人、動物あるいは植物の健康への有害な影響のリ スク削減の必要性と、個人、企業および組織の自由と権利のバランスのジレンマに常 に直面している。それゆえ、バランスのとれた差別のない、透明でかつ首尾一貫したア クションがとられるために、適切なバランスを見つけ出すことができれば、詳細にま でおよぶ科学的でかつ客観的な情報を備えた政策決定の構造的なプロセスが可能とな る。

2. コミュニケーションの4要素の目的

・ 予防原則を利用する手順に関する委員会のアウトラインを示すこと
・ 予防原則を適用するための委員会のガイドラインを制定すること
・ 科学がまだ充分評価できていないリスクを、どのようにアセスし、通知し、管理し、 そして情報交換するかということに関する共通の認識を確立し、
・ 保護主義の誤った形として、予防原則に根拠もなく頼ることを避ける
・それは、また、EU社会と国際社会の両方において、この問題について進行中の議論 にデータ(インプット)を提供することを求める。

3. 予防原則は条約の中では定義されていない。その条約はただ1回のみ、環境を保護 するために予防原則を規定している。しかし、実際には、その範囲は更に広く、また、 環境、人、動物および植物の健康への潜在的に危険な影響が、その社会のために選択 された高レベルの保護と矛盾するかもしれない、という妥当な根拠があるという評価 が、予備的にも、客観的にもおよび科学的にも与えられた場合は、一層、規定する範 囲は広い。

この委員会は、他のWTOメンバーのように、この社会が、特に環境、人、動物および 植物の健康の保護水準−それは適切な保護に見える保護ではあるが−そのレベルを確立 する権利がある、と考えている。予防原則の適用は、その鍵となる政治思想の基本的な 教義であり、この目的のためになされた選択は、この予防原則がどのように適用される べきか、ということを国際的に擁護する見解に影響を与え続けるだろう。

4. 予防原則は、三つの要素を含んでいるリスク分析への確立されたアプローチの中 で考えられるべきである。それはリスクアセスメント、リスクマネージメント、および リスクコミュニケーションである。予防原則はとくにマネージメントに関連している。

予防原則は本質的には、政策決定者によってリスクマネージメントの中で用いられる べきものであって、科学者が科学的データのアセスメントの中で用いている”警告 (caution)”と混同すべきではない。

予防原則に訴えるのは、一つの現象、一つの製造物、あるいは一つの過程から導かれた潜 在的に危険な影響が明らかにされたとき、また、科学的な評価が、科学的に充分な確実性 によってリスクと決定されることが許されないとき、ということを前提にしている。

予防原則に基づいたアプローチの実行は、可能な限り完璧な科学的評価とともにスタート すべきであるし、また、可能な場合は個々の段階において科学的不確実性の程度を明らか にしながらスタートすべきである。

5.政策決定者は、入手した科学的情報の評価の結果に連動している不確実性の程度を知 る必要がある。何が社会に”受け入れられるべき”リスクレベルなのか、を判断することは 極めて”政治的な”責任である。政策決定者は受け入れられたリスク、科学的不確実性およ び誰もが関心を持っていること、に対峙しており、彼らは、解答を見出す義務を担ってい る。それゆえ、これらの要因は考慮に入れられなくてはならない。

いくつかのケースの場合、正しい解答は行動することではないかもしれないし、少なく とも、法的手段と結びつかないかもしれない。先制は範囲が広く、法的手段から研究プロ ジェクトまでにおよぶ行動の中から得られることも含まれるし、勧告の中に得られる場合 も含まれる。

政策決定手順は透明なものでなくてはならないし、可能な限り速やかに、また、可能な 限り納得のいくように、関連するすべての組織を広く対象にするべきである。

6.アクションが必要であると考えられた場合、予防原則に基づいた対策がとられるべき である、なかでも、
@ 選択された保護レベルとうまくバランスする(proportion to)こと
Aそれらの適用に際して、差別的あってはならない(non-discrimination)こと
B過去に採用された同様の対策と矛盾(consistency)しないこと
Cアクションを行なった場合と行なわなかった場合の潜在的な便益と費用の試算
(Examining cost and benefits)に基づくこと(適正でかつ実行可能な経済学的費用便益 分析を含む)
D 新しい科学的データに照らしたレビュー(Subject to review)を条件とすること
E さらに包括的なリスクアセスメントのために必要とする科学的証拠を作成すること
(Assigning responsibility for producing scientific evidence)を責任者に任命 すること可能にすること

詳細には、
@ proportionalityは選ばれた保護のレベルに、対策を合わせることを意味している。リ スクはまれにゼロまで削減することが可能である、しかし、不備なリスクアセスメン トはリスク管理者に開かれているオプションの範囲を大きく減少させるかもしれない。 全面禁止はすべての場合で、潜在的なリスクとのバランスのよい対応とはなりえない ようである。しかし、ある場合には、被ったリスクのただ一つの可能な対応である。

A Non-discrimination は以下のことを意味している。そうすべき客観的根拠なしに、比 較可能な状況は別々に扱われるべきではないし、異なった状況は同じ方法で取り扱わ れるべきではない。

B Consistencyは、すべての科学的データを入手し得る同様の領域の中で、既に採用され た対策と比較可能な範囲と種類でなくてはならない、ということを意味している。

CExamining cost and benefits (費用と便益の試算)は、短期および長期の双方にわた って、アクションを行なった場合と行なわない場合についてこの社会のすべてのコス トを比較するということの意味を含めている。これは単純に経済的な費用便益分析の 問題ではない:
この範囲は非常に広く、可能なオプションの効率やそれらの一般人に容易に受け入れ られること、のような、経済的以外の考慮も含んでいる。費用と便益の試算を行なう にあたって、健康の保護は経済的考慮より優位にあるという判例および一般原則を、 計算は採用すべきである。

D Subject to review (レビューを必要とする)は、科学的なデータに照らしてあるべき で、予防原則に基づいた対策を意味している。それは科学的情報が不完全であったり、 結論に達し得なかったりする限り、また、そのリスクは、保護の選択されたレベルを 考慮に入れてその社会に受け入れられるにはまだ高すぎると考えられている間は、レ ビューの必要性は留保し続けられなくてはならない。対策は科学的な進歩に照らして 定期的にレビューされるべきであり、また、必要に応じて修正されるべきである。

E Assigning responsibility for producing scientific evidence (科学的証拠の作成 を責任者に任命すること)は、すでにこれらの対策の当然の結果である。有害であると 考えられた製品の事前取引許可の要求をされた国は、それらが安全であると宣伝する 科学的な仕事をビジネスが行なうまで、また行なわない限り、それらの製品を危険で あると扱うことによって、傷害を生じる負荷を事前に取り消している。<P> 事前の取引許可手続きがない場合、ユーザーや当局に対して、製品やプロセスの危 険性やリスクのレベルを宣伝することが起こるかもしれない。このような場合、特に 予防的な対策が生産者、製造業者、あるいは輸入業者の立証責任に、取って代わられ るかもしれないが、これは一般的なルールにはならないだろう。

(文責 大竹;これは仮訳である;原文は「外部のサイトへのリンク」を参照のこと)


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