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大型イタリアン お披露目コンサート プログラムと解説

2001年3月26日 栃木市文化会館大ホール

栃木[蔵の街]音楽祭実行委員会主催

プログラム

W.A.モーツァルト
3台の鍵盤楽器と弦楽のための協奏曲ヘ長調 K.242より 第1楽章 アレグロ
指揮とチェンバロ:渡邊順生 第2チェンバロ:大塚直哉 フォルテピアノ:渡邉 孝
第1バイオリン:川原千真 第2バイオリン:三輪真樹
ビオラ:花崎淳生 チェロ:田崎瑞博 コントラバス:蓮池 仁

G.フレスコバルディ
トッカータ
チェンバロ独奏:大塚直哉

A.スカルラッティ
『すみれ』
ソプラノ:毛塚文恵 チェンバロ:大塚直哉

D.スカルラッティ
3つのソナタ
チェンバロ独奏:渡邉 孝

J.ハイドン
4手のための変奏曲『先生と生徒』
第1チェンバロ=先生:渡邉 孝 第2チェンバロ=生徒:大塚直哉

J.S.バッハ
3台のチェンバロと弦楽のための協奏曲 ニ短調 BWV 1063
[アレグロ] − アラ・シチリアーナ − アレグロ
指揮とチェンバロ:渡邊順生 第2チェンバロ:大塚直哉 フォルテピアノ:渡邉 孝
第1バイオリン:川原千真 第2バイオリン:三輪真樹
ビオラ:花崎淳生 チェロ:田崎瑞博 コントラバス:蓮池 仁



                         解 説

お祝いの気分でまずモーツァルトのほのぼのとした一曲をどうぞ。3台の楽器をソロにした珍しいこの協奏曲は、1776年という作曲の時期や音楽の書き方から3台のチェンバロのために書かれたことはほぼ間違いありません。今日は第1チェンバロを新しいチェンバロ、第2チェンバロは会館に前からあるチェンバロ、そして第3チェンバロはやはり会館所蔵のフォルテピアノで演奏します。

一口にチェンバロといっても作られた国地域によって微妙に形や音、性格が異なっています。文化会館の1台目のチェンバロはフランダース様式です。私が1987年に製作しました。その後13年続いている〔蔵の街〕音楽祭では、たくさんの演奏家や愛好家それに栃木の子供たちがこの楽器で演奏してくれました。その〔蔵の街〕音楽祭がこのたびサントリー地域文化賞をいただき、記念に出来上がったのが新しいイタリア様式のチェンバロです。バロック音楽発祥の地イタリアで 400年前の人々の心をとらえたフレスコバルディのトッカータです。

新チェンバロは上下二段の鍵盤をもっています。上の鍵盤はやや弱い音、下の鍵盤はやや強い音がします。またドグレグジャックという特別なアクション列を使って音を重ね、さらに豊かに響かせることができるようになっています。音楽のなかで、豊かに響かせる場面と、裏にまわって静かに演奏する場面とをはっきりとわけて演奏できるのです。たとえばもともとオーケストラで伴奏するように書かれた曲目をチェンバロだけで伴奏する場合には、二段鍵盤がおおいに威力を発揮します。アレッサンドロ・スカルラッティのオペラからおなじみの名曲『すみれ』を伴奏します。

イタリアのチェンバロはふつう比較的小型で音域の狭い楽器が多いのですが、新チェンバロは音域の広い大型の楽器です。大型のイタリアンチェンバロといえば忘れてならないのがドメニコ・スカルラッティ。ナポリに生まれ、ポルトガル、スペインで活躍、チェンバロソナタをなんと500曲以上も残しています。鍵盤上でのあらゆる可能性を追求していて、派手な名人技とフラメンコをおもわせる強烈な個性できわだっています。しかも最低音のソから最高音のソまで5オクターヴの音域を使い尽くした曲も残していて、これを弾ける大型のイタリアンチェンバロは日本中いや世界中探してもなかなかありません。

音楽祭実行委員会で二台目のチェンバロが欲しかった動機のひとつはリレーコンサート出演者のレッスン用としてです。ハイドン先生とその生徒が2台のチェンバロをはさんで練習します。ここでは新旧2台のチェンバロの音色の違いもお楽しみください。

3台のチェンバロのための協奏曲ニ短調は、父の名人バッハが2人の若い息子たちをしたがえて演奏した曲でしょう。新チェンバロを迎えて引き立て役にまわる古参チェンバロとフォルテピアノの気持ちがお披露目コンサートにぴったりです。普通はもちろんチェンバロ3台を集めて演奏するのですが、そうすると音が混ざり合って、特に第2第3チェンバロの駆け引きなどはほとんど聞きわけられません。でも今日はバッハもびっくり、第3チェンバロのパートを音がまるで違うフォルテピアノで演奏しますからはっきりと聞きとれます。この組合わせは栃木市文化会館以外ではできない演奏です。

                                  〔横田誠三・チェンバロ製作者〕

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