このページは、以下の書籍からの抜粋です。
  日ソ基本文書・資料集 茂田宏 他編 世界の動き社 1988/11


連合軍一般指令作成過程での受け持ち地域に関するトルーマンとスターリンのやりとり
(一九四五年八月)


(イ)J.V・スターリン首相発、H・トルーマン大統領宛親展密書
 「一般指令第一号」が入った貴信受領しました。指令の趣旨に反対することはありません。遼東半島が満州の不可分な一部であるものと了解します。しかしながら、以下のように「一般指令第一号」を修正することを提案します。
 一、日本軍がソ連軍に明け渡す区域に千島全土を含めること。これは、ヤルタにおける三ケ国の決定によりソ連邦の所有に移管されるべきものです。
 二、日本軍がソ連軍に明け渡す区域に樺太・北海道間に位置する宗谷海峡に北で接する北海道の北半分を含めること。北海道の北半分と南半分との境界線は、島の東岸の釧路市から西岸の留萌までを通る線とする。尚、この両市は、島の北半分に含む。
 この最後の点は、ソ連の世論にとって特別重要なものであります。周知の如く、一九一九年、二一年に日本は、ソ連極東のすべてを占領しました。もしも、ソ連軍が日本固有の領土に少しも占領地を持たなければ、ソ連の世論はひどく腹を立てるでありましょう。上に述べた穏当な提案が反対されないことを切望しています。
(一九四五年八月十六日)


(ロ)トルーマン大統領発スターリン大元帥宛通信(最高機密)
 八月十六日付の通信への返答として、「一般指令第一号」を、千島列島の全てをソ連極東軍総指令官に明け渡す領域に含むよう、修正することに同意します。しかし、アメリカ政府は千島列島に、できれば中央のグループの一つに、軍事・商業目的の陸・水上機用の航空基地の権利を望んでいることを理解して頂きたいと思います。あなたがそのような取り決めに賛成すると知らせていただければ幸いです。その位置や他の詳細は、我々両政府の特別代表をこの目的のために任命することで、解決するということです。北海道島の日本軍のソ連軍への降伏についてのあなたの提案に関しては、日本固有の全島(北海道、本州、四国、九州)の日本軍はマッカーサー将軍に降伏するというのが私の意図であり、かつその為の手配がなされています。マッカーサー将軍は、彼が連合国の降伏項目の実現に占領する必要があると考える日本本土を暫時的に占領するため、象徴的な連合国軍を使うでしょうが、それにはもちろんソ連軍も含まれます。
(一九四五年八月十八日受信)



(ハ)スターリン首相発トルーマン大統領宛親展密書
 八月十八日の通信が手許に届きました。貴方の書信は日本軍のソ連軍への明け渡し区域に北海道の北半分を含むというソ連邦の要望に応じることを拒否するものと受けとります。私と同僚にとって、貴方の返答がこうであったことは意外であると言わざるを得ません。
 ヤルタ協定に従い、ソ連邦の領有になるべき千島列島の一島に常設の航空基地をつくるというあなたの要求に関しては、私は以下のことを述べるのが私の務めだと考えます。第一にベルリンでもクリミアでも、三国間協定で、その様な計画は考えられていませんでしたし、またそこで採用されたいかなる決議にもそぐわないということを、指摘しなければなりません。第二に、この様な要望は通常敗戦国もしくは領土の一部を防衛できないため適当な基地を同盟国に提供する準備があると表明する同盟国に対して出されるものです。私はソ連邦をいずれかの範ちゅうに入れることができるとは思いません。第三には、あなたの書信には常設基地提供の要求の理由がありませんので、率直に言って、私も同僚も、このソ連邦に対する要求が生じ得た情況を把握しかねます。
(一九四五年八月二十二日)


(ニ)トルーマン大統領発スターリン大元帥宛通信(親展かつ最高機密)
 一九四五年八月二十二日付の書信に対する答えとして、千島列島の基地に関する限り、私の考えでは日本占領期間中の千島列島中央部の着陸権の行使は、日本の降伏条項履行に関して我々がとる共同の行動に重要な貢献をするでしょう。何故ならそのことは日本占領期間中の緊急時に利用する為のアメリカとの航空航路がもう一つできることになるからです。
 私は史に、商業目的の為の着陸設備の問題を提示することに、何のためらいも感じませんでした。あなたは明らかに私の書信を誤解したのです。なぜならあなたはこれを、敗戦国もしくは自国領土の一部を防衛できない国に通常出される要求だといっているからです。私はソビエト共和国の領土について何か述べているのではありません。私が言っていたのは日本の領土、千島列島のことで、これに対する措置は平和調停のうちにとられなければなりません。私の得た情報では、私の前任者は平和調停において、この列島のソ連の取得を支持することに同意しました。あなたが私にその協定の承認をたのんだのを、私は侮辱だとは考えませんでした。あなたが千島列島全島の永久的所有についてのあなたの希望を私が支持することを期待するのに、この列島のたった一つの着陸権の要求を考慮することを私が要請したときに、何故あなたがこれを侮辱だとお考えになるのか私には理解できません。私が思うにこの問題の討議の要請は、両国政府と我々個人問の密接で親しい関係からしても、なおさら理にかなったものです。私としてはこの問題については早々に協議するのがいいと思いますが、あなたが現在、協議したくないとおっしゃるのならば、敢えて固執するものではありません。



(ホ)スターリン首相発大統領宛通信トルーマン(親展密書)
 八月二十七日付のあなたの手紙を手中にしました。我々の通信文に入り込んだ誤解が解けたことを嬉しく思います。あなたの提案に腹を立てていたのでは決してありませんが、現在はっきりしたように、あなたを誤解した為に、驚ろいたのです。
 もちろん、日本占領期間中の緊急事態の為に千島列島の一つにある我々の飛行場の着陸権をアメリカに提供するというあなたの提案に同意します。また千島列島の一つのソ連の飛行場の着陸設備を商業機に提供することにも同意します。この件につきましては、ソビエト政府は、アリューシャン列島の一つのアメリカの飛行場にソビエトの商業機が着陸する権利についてのアメリカの相互主義を期待しています。実際に現在のカナダ経由のシベリアからアメリカヘの航路は、距離が長いため、満足すべきとはいえません。我々は、千島列島からシアトルヘの中継地点としてアリューシャン列島を経由する、より短い航路を要望します。
(一九四五年八月三十日)


(第二次大戦中のソ米英首脳の間の秘密往復書簡第2巻。モスクワ、ソ連外務省編の英文テキストより訳出)


注)ここでは、「一般指令第一号」となっているが、通常これは、「一般命令第一号」と言う。正しくは、「一九四五年9月二日付指令第一号、一般命令第一号」。
 1945年9月2日講和と同時に出された連合軍の最初の指令のことです。








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