参議院-農林水産委員会、外務委…-1号 昭和52年04月30日

昭和五十二年四月三十日(土曜日)
   午後一時開会
    ―――――――――――――
  委員氏名
   農林水産委員
    委員長         橘  直治君
    理 事         青井 政美君
    理 事         鈴木 省吾君
    理 事         粕谷 照美君
    理 事         鶴園 哲夫君
    理 事         原田  立君
                大島 友治君
                長田 裕二君
                梶木 又三君
                後藤 正夫君
                佐多 宗二君
                坂元 親男君
                菅野 儀作君
                塚田十一郎君
                初村滝一郎君
                細川 護熙君
                川村 清一君
                工藤 良平君
                対馬 孝且君
                前川  旦君
                相沢 武彦君
                小笠原貞子君
                塚田 大願君
                和田 春生君
                喜屋武眞榮君
   外務委員
    委員長         寺本 広作君
    理 事         大鷹 淑子君
    理 事         秦野  章君
    理 事         小柳  勇君
                亀井 久興君
                小林 国司君
                高田 浩運君
                林田悠紀夫君
                福井  勇君
                二木 謙吾君
                矢野  登君
                久保  亘君
                田  英夫君
                戸叶  武君
                羽生 三七君
                黒柳  明君
                塩出 啓典君
                立木  洋君
                野坂 参三君
                田渕 哲也君
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
   農林水産委員会
    委員長         橘  直治君
    理 事
                鈴木 省吾君
                粕谷 照美君
                鶴園 哲夫君
    委 員
                長田 裕二君
                梶木 又三君
                後藤 正夫君
                塚田十一郎君
                初村滝一郎君
                相沢 武彦君
                塚田 大願君
                和田 春生君
                喜屋武眞榮君
   外務委員会
    委員長         寺本 広作君
    理 事
                秦野  章君
                小柳  勇君
    委 員
                小林 国司君
                林田悠紀夫君
                福井  勇君
                田  英夫君
                塩出 啓典君
                立木  洋君
                田渕 哲也君
   国務大臣
       外 務 大 臣  鳩山威一郎君
       農 林 大 臣  鈴木 善幸君
   政府委員
       防衛庁長官官房
       防衛審議官    渡邊 伊助君
       防衛庁防衛局長  伊藤 圭一君
       外務省アジア局
       次長       大森 誠一君
       外務省欧亜局長  宮澤  泰君
       外務省条約局長  中島敏次郎君
       農林大臣官房長  澤邊  守君
       農林省構造改善
       局次長      福澤 達一君
       水産庁長官    岡安  誠君
       海上保安庁次長  間   孝君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        服部比左治君
       常任委員会専門
       員        竹中  譲君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○領海法案(内閣提出、衆議院送付)
○漁業水域に関する暫定措置法案(内閣提出、衆
 議院送付)
    ―――――――――――――
  〔農林水産委員長橘直治君委員長席に着く〕

○委員長(橘直治君) ただいまから農林水産委員会、外務委員会連合審査会を開会いたします。
 先例によりまして、私が連合審査会の会議を主宰いたします。
 領海法案及び漁業水域に関する暫定措置法案、以上両案を一括して議題といたします。
 両案についての趣旨説明は、お手元に配付してあります資料により御了承願うことといたします。
 この際、政府側にお願いいたしますが、質疑者の持ち時間は答弁時間を含めた時間でありますので、簡潔適切な御答弁をいただきますようお願いしておきます。
 これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言を願います。

○小柳勇君 農林大臣に質問いたしますが、けさも質問があったと思いますが、ソ連から漁業条約の廃棄通告がなされております。二百海里の水域適用はいま始まったことでありませんのに、きょう、いまの段階でソ連が日本に通告いたしました一番大きな原因は何でしょうか。

○国務大臣(鈴木善幸君) この日ソ漁業条約を廃棄する考えであるということは、三月に私訪ソいたしました当時から、ソ連漁業省の首脳部から示唆を受けておったところでございます。これは、アメリカにおきまして漁業専管水域法を制定した際に、その二百海里内における主権的権利を行使するというようなことから、ICNAF、御承知の北大西洋漁業条約機構、日米加三国の北太平洋漁業条約機構、いずれも脱退を通告をしております。これは、条約にダブるアメリカの二百海里漁業専管水域については、条約から脱退することによってその海域に対するアメリカの主権的権利を行使しようということに出たものと考えております。
 ソ連の場合におきましても、ソ連邦沖合い二百海里、これに幹部会令を適用して主権的権利を行使する、こういうことでございますので、日ソ漁業条約と競合する面があるというようなことでこれを廃棄したい、こういう意向であったわけでございまして、わが方としては十分そのことを織り込み済みと申しますか、前提として諸般の対策を、対応を考えておったところでございます。

○小柳勇君 取り急いで二百海里法と領海十二海里法をいま国会で審議して、二日の日には通過するのでありますが、これが今度の国会で通過して、農林大臣が三日に行かれたその交渉にはどういう効果を持つのであろうか、お聞きいたします。

○国務大臣(鈴木善幸君) 私は、共通の土俵で交渉ができるということをしばしば申し上げてきたわけでございますが、具体的には条約案の各条をそれぞれ審議いたします場合におきましても、交渉がきわめて明確に整理ができる、わが方の二百海里設定、領海法の成立、これによりましてソ連の漁船も近く今度はわが方沖合いにおけるところの操業につきまして、日ソの間で漁業協定を結ばなければならぬわけでございます。しかも、これは二ヵ月の以内に行わなければならない、こういう事態になるわけでございます。そうすると、現在交渉が行われております暫定協定交渉におきましても、日本の水域に入ってくることも頭に置きながら、それと均衡のとれたように、パラレルに問題を処理していくというようなこと等でございまして、大変交渉はしやすくなると、私はそういう認識を持っておるわけでございます。

○小柳勇君 第一問、第二問、重ねて二つひっくるめて農林大臣の答弁を判断いたします。二百海里の問題はいま始まった問題じゃありません。それは後で政府の見解を聞きますし、外務省並びに農林省などの後手後手の外交が今日の事態を招いておると思いますが、いま大臣がおっしゃるように、ソ連がこの日ソ漁業条約を廃棄することはもう前から大体推察できたというなら、もっと早くいろいろな手を打たなきゃならぬと思うんです。農相が出発するぎりぎりになりましてこの法律を可決するそのこと自体、私は日本の国会としてもぶざまでありますし、それ以上に福田内閣、この内閣の責任が重大だと思います。いま言葉じりをとるのじゃありませんけれども、それじゃ、同一の土俵でとおっしゃいました。その対等の土俵でということは、どういうことでございましょうか。

○国務大臣(鈴木善幸君) 端的に申し上げますと、ソ連もソ連邦沿岸沖合い二百海里に漁業専管水域を設定をする、わが方もまた本邦沿岸沖合いに二百海里の漁業水域を設定する、さらにソ連も現在すでにその漁業専管水域の中に十二海里の領海が存在をする、わが方も三海里から十二海里の今度は新領海を設定をする、こういうことでございまして、そういう意味で同じような土俵、基盤の上に交渉ができると、端的に申し上げますとそのようなことでございます。

○小柳勇君 二百海里の漁獲の問題など後で論議いたしますが、いまの土俵とおっしゃいますならば、領海十二海里で五つの海峡はそのままにしておくことはこれは不平等であるし、一歩後退どころか将来大きな禍根を残すと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(鈴木善幸君) その点は、予算委員会等におきましてもしばしば申し上げておるところでございますが、わが国は海洋国家であり、また海運国家であり、さらに近代工業国家として海外から原材料を輸入をし、また自由貿易によって日本の経済の発展を図ってきた、こういう立場から国連海洋法会議におきましても、無害通航よりもより自由な通航制度というものをわが方は一貫して主張しております。また、海洋法会議の議論の方向もそういう方向に収斂されつつあると、こういうようなことからいたしまして、総合的な国益を判断をいたしまして、いわゆるわが国の周辺の国際海峡、いわゆる国際海峡につきましては現状を変更しない、こういうことが国連海洋法会議におけるわが方の主張とも一貫した措置であると、このように考えておるからでございます。

○小柳勇君 それであれば、五月いっぱい待って海洋法会議の結論を待って、海洋法会議でたとえば経済水域になるのか漁業専管水域になるのか、いま世界の趨勢は経済水域という方向に動いておるようでありまするが、そういうものを待ってやっても、いまの日ソ漁業交渉だけの成果を考えるならばそれでいいのではないか。私は、対等、平等の立場というのは、たとえば宗谷海峡は二十海里あるのに、ソ連は十二海里を主張し、日本は三海里を主張する。中間線をとっても、たとえば二海里だけは常識上は、法律上は後で聞きますけれども、損するんではないか、日本の漁民は。これは一つ小さい例ですよ。後で聞きますが、これは内閣のちゃんとした言明を得ておきたいんですけれども。対等、平等と言うならば、十二海里及び二百海里というものを日本の列島周辺に全部対等にやって、そしてそれは中国とか韓国とか、あるいは朝鮮民主主義人民共和国などの問題があるならば、あるいはまたマラッカ海峡などの問題があるならば、まずそういう外交交渉を終わってやってもよかったのではないか。日本の将来を考えるならばその方がベターではないか、そう考えるんですけど、もう一度農相の見解を聞きます。

○国務大臣(鈴木善幸君) その点は、小柳先生と私どもの意見が食い違うといいますか、かみ合わない点であろうかと思うのでございます。私どもは、日本の沿岸における漁業の諸情勢、そういうことから、できるだけ早くこれに対応する措置をとらなければならない、そして海洋法会議の結論が出るまでの間、当分の間そういうことをやってまいる、こういう考えでございまして、小柳先生の御質問の趣旨が、まず海洋法会議の方向がそういうことであるならばそれを待った方がいいではないか、あるいは領海も全部、国際海峡に属する部分でも十二海里にしておいて、海洋法会議でそういう結論が出た場合にはそのとき手直ししてもいいのではないか、順序がこう違うわけでございますけれども、私どもは先ほども申し上げたような趣旨で対応してまいりたい、こういうことでございます。

○小柳勇君 私も、いま緊急に二法を国会で上げることに反対ではありません。一つの方法だと思います。農相がこれから交渉されるバック、力をつくるために、それは日本の国論を統一するという意味で非常にベターだと思います。したがって反対ではありませんが、たとえば中国なりあるいは北鮮なり、そういうところとの外交折衝をどのくらいやられたのかも、いまから聞きますけれども、私はまだ疑問です。
 もう一つは、農相が出発される直前になりまして日ソ漁業条約を廃棄する通告をやった。もちろん、外交のテクニックもありましょう。ありましょうが、この二法を国会で通すことがプラスではないのではないかという疑問もけさ持ったわけです。私どもは、今日まで二法を国会で可決して、農相を、ちゃんとやってくださいよと言って送り出すことが日本の国是としてプラスだと思って今日までやっています。この法律を可決するためにやっています。ただ、けさこういう通告を受けまして、かえって逆の効果を招いておるのではないか。とするならば、五月いっぱい待てば海洋法会議の方向もわかるし、特に私は後で触れますが、経済水域、排他的経済水域の問題など、もう少し積極的に考えておかなければ、海底資源の問題など将来また後手外交になるのではないかということを心配しますものですから、こういう質問をしておるわけです。
 そこで、具体的にひとつ、さっき口にいたしましたから、宗谷海峡二十海里のうちにソ連は十二海里です、日本は三海里でこの場を行こうとしておるが、中間線をとって二海里、その間の漁民の漁獲に対しては、それに対しては何らソ連から干渉されることはないと言明できますか。

○国務大臣(鈴木善幸君) 今回わが国が領海の幅員を三海里から十二海里にした、また、その領海の外に百八十八海里の漁業水域を設定した、そのことがソ側を刺激をし態度を硬化さしたのではないか、こういう御質問。私は、この点は、三月に参りましたとき、すでにイシコフ大臣との合意書簡でも明らかなように、わが方も近く新しい海洋時代に入ってソ連と同じようなぐあいに漁業専管水域もやろうと考えているということを、明確に私、話をしまして、書簡の中にもテークノートしておるわけでございます。したがいまして、全然そういうことも言わないで、やみ討ちのように突如として日本がやった、こういうことではございません。十分その事情はソ側にも話をし、向こうも織り込み済みのことであったと、このように考えておるわけでございます。決して今回の海洋二法が国会で成立しそうになったからといって、それに反発して云々というぐあいには私は受け取っておりませんし、先ほどアメリカの二百海里法に関連して、ICNAF並びに北太平洋漁業条約からアメリカが脱退をしたという趣旨と同じ線上のものであると、こういうぐあいに私、理解をしておるところでございます。
 なお、宗谷海峡の問題につきましては、線引きにかかわる問題でございますから、政府委員から答弁をさせます。

○政府委員(岡安誠君) 御指摘の宗谷海峡につきましては、これは二十四海里以内しか距離がございませんので、中間線ということに私どもは考えております。これは領海条約十二条によりましても、これは両者が同じような領海をとる場合のほか、両国が異なった幅の領海をとる場合にもこれは適用があるということになっておりますし、ソ連邦におきましても、従来からそのような場合には中間線でやるというような方針と私どもは了解いたしておりますので、宗谷海峡につきましては、わが国が三海里に領海をとどめるという場合におきましても、中間線までがソ連邦の領海であるというふうに了解をいたしております。
 それから、特定海域につきましては、これはわが国の方針といたしましてこういう特定海域を設定をし、その部分につきましては公海部分を残すということに決めるわけでございますので、これは当然中間線よりわが国への沿岸までのところにおいて特定海域を設定をするというのが至当でございまして、ソ連邦にわが国の方針を押しつけるといいますか、わが国の方針のような海域をソ連邦の領海の中に設けてもらうというようなことにはまいらないというふうに考えております。

○小柳勇君 私は具体的に質問しているわけですね。だから、真ん中の中間線よりも二海里ソ連の領海だと言われたら、日本の漁船はそこへ行ったら拿捕されはしませんか。拿捕されませんとおっしゃれば、それでいいですがね。

○政府委員(岡安誠君) 先ほど申し上げましたとおり、ソ連邦といたしましては、宗谷海峡のように二十四海里より、他国との間の海峡が狭い場合におきましては、十二海里まで領海を延長しないで中間線で領海をとどめるという方針でございますので、宗谷海峡におきまして、中間線のところまではソ連邦の領海ではないと私ども了解しておりますので、中間線までのところにおきましては、拿捕されることはないものというふうに私どもは考えております。

○小柳勇君 ないものと考えられておりますと。じゃ、もう少し、これは外務大臣、この法案をつくるために、たとえばソ連及び朝鮮民主主義人民共和国、中国にはどの程度の外交折衝をやられておりますか。それを言いたいのは、たとえば領土であれば、朝鮮半島で三十八度線を十キロ北へ行っても南へ行っても大変だと思う、領土問題は。ところが海の境界は、子供の陣取り合戦みたいに、きのうまでは三海里だったのがきょうは十二海里宣言、また経済水域二百海里宣言でちゃんともう陣取りができる。そういうことであるならば、三百海里宣言しておけば三百海里に経済水域が伸びていく。そういうものを勝手に、もちろんいままでの海洋法会議の結論が出てないから、まだ草案程度で決まってない、そこのところにも問題あります。ありますけれども、この一国が、日本という国が、これだけ法律をつくって国会で可決する、批准する、決定する以上は、少なくとも何らかの外交折衝はあるべきだと思うし、したがっていまの宗谷海峡の問題を含んでいま隣国に対してはどの程度の外交折衝をやられたか。もちろん、アメリカもカナダもありますが、接せられたかお聞きいたします。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 領海法並びに二百海里の水域法につきまして、日本の隣接する各国には外交ルートを通じまして説明をいたしたわけでございます。ただ、北朝鮮に対しましては外交がございませんので、そのようなことはいたしておらないところでございます。特に中国と韓国につきましては、当方としてもこの二百海里水域を直ちに引かないという考え方を持っておりますので、その点を含めて説明をしてあるのでございます。相互主義をもちまして臨むということでございまして、先方が二百海里水域を引かない以上は、こちらの方も引くということは考えておらないということを申し述べてあります。それに対しまして、中国並びに韓国の正式の回答というものは参っておりません。おりませんが、日本がどのような内容の法制をしくかということにつきまして見守っておると、こういう段階と承知いたしておるところでございます。

○小柳勇君 情報でありますが、韓国は七月ごろには二百海里経済水域宣言をやるというような情報もあるんでありますが、この外交折衝の過程でそんな話はございませんか。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 韓国は、日本が二百海里という制度をしいた場合におきまして、韓国政府がどのような対処をすべきかにつきまして検討をしておるということでございまして、まだ具体的なスケジュールというようなものは承知をいたしておりません。

○小柳勇君 そういたしますと、たとえば中国、たとえば韓国が、この日本が今度やりましたように突如として二百海里経済水域の宣言をしても、外交的には何ら苦情と言いましょうか、返す言葉はないと、これは一方的に宣言してやむを得ませんということになりますね。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 現在二百海里をまだ施行しておらない、宣言をいたしておらない国がございますが、一つは、やはり国連の海洋法会議の結論待ちの姿勢ということが一つあろうと思います。しかし、ことしの五月の会期におきまして、この問題につきましてあるいは全体の結論が持ち越しになるような場合におきまして、各国がどのような態度をとるかということは予測がつかないところではないか。海洋法会議の結論が非常に遷延をするということが明らかになった場合に、各国がどのような態度をとるかということは、日本としても待ち切れないという面があったわけでございますから、そういう国が出てくるのではないか。たとえばオーストラリア、ニュージーランド等の国におきましては、やはり海洋法会議の結論を、あるいは推移を見守っておるというような態度と承っております。

○小柳勇君 海洋法会議の見通し、いま聞きましてもはっきりした見通しはできないかとも存じますが、これはどちらの大臣でも構いませんがね、これからの海洋法会議、特に五月からの海洋法会議で、排他的な経済水域あるいは専管漁業水域、傾向としてはどういう方向が強いのであるか。いま日本は、日ソ漁業交渉を中心にして漁業専管水域を決めると。もしも海洋法会議の方で、趨勢として排他的な経済水域が世界の大勢であった場合に、また追っかけて日本が今回のようなぶざまなことをやらなければならぬ。したがって、外務大臣にお聞きいたしますが、海洋法会議のこれからの趨勢についてどういう判断をしておられますか。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 詳細はあるいは政府委員からお聞き取りいただきたいと思いますが、海洋法会議の一つの問題点というのは、やはり海洋国家といいますか、沿岸を海に面した国家、また大国にそういった国が多いわけでございますけれども、そういった国が、経済的な権限と申しますか、これを非常に拡張した場合に、発展途上国の多くの国々、この国々が何らかの自分たちの権限を主張したい、このことが一次産品等と絡みまして、海底資源と申しますか、深海海底の開発による利益を自分たちにも分けろ、分けるべきであるという思想が強まっておる。この海底開発による利益というものに対して、これをどう決着をつけたらいいかということがいま大変むずかしい問題でありますけれども、これを解決をしないと、発展途上の国々がおさまらないというのが現状であろうと思います。
 そういう意味で、沿岸国がどれだけの権限を海洋法会議の席上におきまして貫くかということと関連をしてくると思うのでございまして、そういう意味で、ただいまのところ二百海里経済水域という方向に集約しつつあるように伺っておりますけれども、この問題は、やはり開発途上国の利益をも考えた上での結論が出るのではないかというふうに考えておるところでありますが、なかなかむずかしい問題を含んでおると思います。

○小柳勇君 じゃ、事務当局からも少しいまの問題を聞きますよ。
 たとえば漁業問題だけじゃなくて、大陸だなの問題とか、あるいは深海海底の開発、あるいは国際海峡とか群島水域、あるいは科学調査、海洋関係の保全など、問題はたくさんありますね。まあ余り勉強も十分でありませんが、現在の国際的な趨勢は、専管漁業水域でなくて経済水域の方向に大勢が向いておると、そう聞いておるわけです。そういうものを考えますと、われわれがここで無理して漁業専管水域の法律をいまつくっておりまするが、そういうものはまた後手後手の外交になりはせぬかと、そういうことを聞いているわけです。事務当局から聞きましょう。

○政府委員(中島敏次郎君) お答え申し上げます。
 ただいま先生御指摘のとおり、国連の海洋法会議におきまして議論になっておりますところは、まさに二百海里に及ぶ排他的経済水域の問題でございます。これは御承知のように、第三次国連海洋法会議を開くという話になりまして、国連の委員会で準備作業を行うことになりましたときに、二百海里の排他的経済水域という観念が提案されまして、その二百海里の排他的経済水域とはいかなる水域となすべきであるかということについての論議がいままで行われておって、なお先ほど外務大臣からお話がありましたように、その観念自体についていろいろの論議があり、まだ固まっていないというのが実態でございます。したがいまして、結論から申しますと、先生のおっしゃられるとおり、国連の海洋法会議が成功裏に終わりますれば、この二百海里の排他的経済水域というものの観念が確立するということになるわけでございますが、その観念自体についていまだ論議が十分に尽くされていないというのが実態でございます。
 で、他方、さらに敷衍さしていただければ、この経済水域そのものは、その二百海里内におけるところの漁業資源に対する管轄権をも含んでおるわけでございます。その漁業資源に対する管轄権の部分が、この数年来いわば独立して一つのいわゆる二百海里の漁業水域という形で各国の慣行が積み重なり、いまや国際法の規範として確立しつつあると、こういう実態でございます。

○小柳勇君 いまおっしゃったように、私もそう思いますものですから、また後手後手に、この法律をせっかくつくりましても、海洋法会議が終わったらまた改正していかなければ世界の趨勢に追いついていかぬと、そんな気がするわけです。
 そこで農林大臣に、初めの問題に返りまして、共同の土俵とおっしゃいます。したがって、農相の頭の中には、北方四島の枠に線引きしまして、その内、外の話をしようと思われておると思うんですけれども、そこで、閣議ではこの共同規制、ソ連もやっていますから、日本も四島を線引きしまして、それが一緒に重なりまして共同規制水域になりますよと、そう閣議決定されましたか。

○国務大臣(鈴木善幸君) その点は、わが国の漁業水域法はわが国領土全体、本邦の沿岸沖合いに二百海里の漁業水域が設定をされるわけでございます。ソ連は、現在北方四島を占有をしておるという現実の上に考えておるようでございます。この問題を、どういうぐあいに双方の立場を損なわないように処理するかと、これはこれからの交渉の微妙な問題でございまして、閣議でもまだ決めておりませんが、わが方の漁業水域は明確に本邦の沿岸基線から二百海里沖合いと、これは法律で、国会でそういう意思決定をお願いするわけでございますから、この点は明確になっておるわけでございます。

○小柳勇君 共同規制水域の問題は、私この前予算委員会で申し上げて、わが党はいち早くそれに決めておるわけでありまして、でき得べくんば、閣議でもちゃんとそういう腹を決めていかれませんと、法律では決めましたけれども、さっきの話と同じで陣取り合戦でございまして、国会もこれだけ苦労してこの法律を二つ決めてるんですから、福田内閣ももう少しちゃんと腹を決めてそのくらいのことは閣議で決めて、もちろんもう決めておられるかもしれませんと思うんですけれども、ちゃんといかれませんと困るわけです。
 それから海上保安庁長官、これだけ大きく線引き宣言をいたしますが、海上保安の関係、いかがですか。

○政府委員(間孝君) 領海の拡大あるいは漁業の二百海里水域の設定という、こういう新しい事態を迎えまして、海上保安庁といたしましてはその任務の範囲が従来から比べまして飛躍的に大きくなるわけでございますので、当然これに対応した体制の整備強化ということが必要であるわけでございます。現在海上保安庁は、巡視船艇が三百十隻、航空機三十四機をもって沿岸海域の監視、取り締まり、あるいは海難救助等に当たっておるわけでございますが、これを今後どういうふうに整備しあるいは強化するか、この辺につきましては、目下その検討を実は進めておるところでございますが、すでに海上保安庁では本年度の予算で大型のヘリコプター搭載の巡視船一隻と、それから大型の飛行機一機、高速巡視艇二隻、ヘリコプター一機といったような体制の強化をもうすでに予算上に計上されまして、今年度からその体制の強化に取り組んでおるわけでございますが、実はこの計画自体が、この二百海里の漁業水域につきましては将来の方向としては考えておりましたけれども、こういう差し迫った問題になるということまでは私ども予想しておりませんでした。そこで、こういう新しい事態に対処いたしますために、目下この計画の再検討を実は行っておるところでございます。

○小柳勇君 もう計画の再検討どころじゃないですよ。もう何倍、何十倍の保安の領域が広くなるんですから、早急にやってもらいたいと思います。
 最後は、いままでの日本の漁業は遠海漁業に精力を尽くしてきました。私も南アフリカ、一番南端に行きましてね、日本の大洋漁業の船があそこに大きな船がちゃんともう停泊していまして、船員は二年交代でかわっています。とにかく、南アフリカで日本の漁業をやっているわけですね。そんなものを見ておりまして、いまそのために後手後手の外交をやってきているわけですね。もう領海三海里でがんばってきているわけだ。しかし、もうそれは通せないところになりました。だから、先般九州の漁業連合会の会長諸君が全部押しかけてきまして、二百海里水域設定、その根源にあるものは、いままで沿岸漁業、近海の漁業を余りにも無視してきた日本の漁業政策の失敗であると、こう言っている。で、もっと日本の近海、沿岸に養殖漁業などをやるべきではないかと、こういうことを切々と訴えてきました。でないと、たん白資源が足らなくなる。
 その具体例として、これは長崎の県知事は理想を持ってやっていますから、この場で厳しく反対として質問することについても若干私は問題を感じますけれども、諫早湾を締め切りましてね、そしてあそこに牧場あるいは淡水湖をつくるわけです。そのために熊本県、佐賀県及び福岡県の漁業、ノリや魚介類はほとんど、約五百億ぐらいの損害になると。で、その問題を持ってきまして、この際これをひとつ変更してもらえぬかと。もう十億円調査費がついているようです。大蔵省がびっくりしておりましてね、そんな意見があるならもっと早く言ってもらいたいと言われたようでありまするが、このように遠洋漁業に対する大きな問題があるときに、日本の沿岸養殖漁業なり、あるいは沿岸漁業、近海の漁業などにもつと力と金を尽くすべきだと思うが、そういう時期にこの諫早の、これは最後の干拓だと言っておるようでありまするが、あの諫早湾を全部堤防で締め切って、そして干陸面積六千ヘクタール、造成面積が五千五百七十三ヘクタール、淡水湖面積が三千五百七十六ヘクタール、したがって一万ヘクタールぐらいの海をなくするわけだ。あすこに貝とかノリとかの種が全部育成して、そして有明海全般の魚介類の稚育場になると、そういうのがいま壊滅されようとしておる、これを考え直さないかと言ってきました。私もこの際、やっぱりこういう時期であるからうんと考えなきゃならぬと。数日前の話でありますから、まだ長崎の県知事に会っていません。県知事からもよく話を聞きたいと思いますけれども、県知事は政治生命をかけてもやらなきゃと言っているようでありまするが、農林大臣の見解を聞いておきたいんです。

○国務大臣(鈴木善幸君) この諫早湾の干拓の問題は、大分長い前から取り上げられた問題でございます。この背後には、農地を造成をするというほかに、生活用水あるいは工業用水、地域全体の開発発展の上から必要であると、こういうようなことで取り上げられてきた問題でございます。農林省もそういう計画をいかにして具体化するかということで、これに協力の立場をとってきたわけでございます。
 しかし、いま小柳先生から御指摘になりますように、今日の漁業情勢も変わってきておる。また、関係漁民の考えとしてはそういう漁場を失いたくないと、またこの干拓の工事に入った場合に土砂が流れる、あるいは漁場がそのために壊滅をするというような影響等についても十分な調査ができてないではないかというようなことも、十分私承知をいたしております。そこで、長崎県の久保知事に対しましても、調査を十分にし関係漁民との間のお話し合いも十分にして、そして関係者、地域の方々が全部こういうことを措置するならば賛成であると、そういう了解がはっきり出なければ、調査費を今年度取りましたけれども、実行に移すわけにはまいりませんと、ぜひ地元のひとつ調整をやってほしいということを申し上げてあるわけでございます。また、漁連並びに関係漁民に対しましても、その事情をはっきり知事さんにもそう申し上げておる、であるから、強行してやるなどということは一切やるつもりはないということを、明確に私申し上げておるところでございます。

○小柳勇君 御苦労ですが、交渉の成功を期待して質問を終わります。

○秦野章君 時間がありませんので、私は考え方といいますか、基本的な問題について若干お尋ねしたいと思いますが、まず漁業水域に関する暫定措置法、この暫定措置法というこの暫定という意味はどういう意味でございますか。

○国務大臣(鈴木善幸君) わが方としては、基本的に海洋を分割し資源を独占支配をすると、排他的なやり方をやるということにつきましては、遠洋漁業国家の立場からいたしましても進んでやるべきでないという基本的な考え方をとってきたわけでございます。しかし、御承知のように現実に二百海里時代、厳しい情勢下に置かれております。外国漁船の日本近海における操業、いろんな事情もございまして、わが方としては海洋法会議の結論が出るまでの暫定的な措置と、こういう趣旨でございます。
  〔委員長退席、農林水産委員会理事鈴木省吾君着席〕

○秦野章君 アメリカの草案もソ連の草案も、草案と言うか、今度の二百海里宣言ですね。いずれも海洋法の制定を待つまでのものと、こう書いてあるんですよね。日本のだけは暫定と、こうなっている。私の感じでは、暫定というのはとにかく暫定ですわな、表に出た意味は。大臣のおっしゃるように、海洋法ということを念頭に置いていらっしゃるんだろうと思うけれども、いやしくも一つの法律をつくる場合に、私はその法律の理念と言うか、基礎になる考え方というものは非常に大事だと思うんです。ソ連が二百海里だからこっちも二百海里だという対応、単なる経済的対応、あるいは国益の対応だけじゃなくて、その根本には、われわれは世界の海の秩序を将来かくありたいという念願があるならば、物の考え方があるならば、当然その理念というものをこの法律にうたうべきであると。これはアメリカもソ連もうたっているではないかと。だから私は、暫定措置法というのは、暫定には違いないけれども、なぜ暫定かという理念がソ連とアメリカにあって日本にないということが大変さみしい。むしろこれは私は改正した方がいいと、こう思うんですよ。そのことは非常に大事だと。
 何となれば、これからの日本の外交というものが理念なくしてはできないであろうと、まあ外交の歴史を見れば若干のおどしとか脅迫とか、力を背景に外交が行われてきたということは今日までの歴史ではございます。しかし、日本はその道を捨てたんです。何で行くのかといったら、物の考え方、理念、理想と、それを追求しそれを追っかけていく、そのことにまた国民の世論のバックアップを得、そしてまたそれが世界の多くの人々の共感を得ると、そういうことしか私はないだろうと思う。そういう意味において、いささかこの暫定措置というのは、いかにも向こうが来たからこっちがこう出ていったという、そういう二国間の経済的国益の単純な対応でしかないという印象を受けることが大変さみしいんですが、大臣いかがでございましょう。

○国務大臣(鈴木善幸君) 秦野さん御承知のように、わが国が絶えずとってまいりましたのは、国連海洋法会議において国際的なコンセンサスが生まれること、これを念願をして今日まで来たわけでございます。アメリカ並びにソ連が理念をうたっておるかもしれませんけれども、この世界のリーダーであるソ連、アメリカ、これが海洋法会議の結論を待たないで先んじてああいうことをやったということは、理念をどううたおうと、私どもは非常にその点は遺憾だと実は思っておるわけでございます。わが方は、いま申し上げたようなことをくどくど私どもも申し上げませんけれども、私どもの国の方針としては海洋法会議のあの精神、ああいうことを踏まえて今後新しい海洋秩序をつくることにやっていこうと、そういう考えでございます。

○秦野章君 米ソ両国が海洋法を待たずにやったと、だから日本もやっていくんだと、それはそのとおりになっておるわけですけれども、後からついていく場合には一層理念が必要だと、私はそう思う。それなくして闘いはできない。外交も一つの闘いの側面があるわけです。力でない闘い、理論の闘い、理念の闘い、そういう意味において、私はいまの農林大臣の説明にはいささか不満でございますが、いまさらこれを修正する言うても無理でしょうからそれ以上申し上げませんが、さて、さっき条約局長だったかな、答弁で、二百海里の方向で決まれば成功裏に海洋法会議が決まると、そういうことをおっしゃっておったし、いままでの国会の答弁でもそういうような方向が言われておりますけれども、この海洋法会議では、とにかく昨年の夏までの経過では、少なくとも内陸国、それから地理的不利国の問題が未解決になって全然そのままになっている。深海の開発の問題でぶつかって停とんしているというわけですね。内陸国や地理的不利国の問題が未解決なんだけれども、これを解決していく方向の中で二百海里問題に全然影響ないのであろうか。確かに二百海里の宣言は次々にふえて、いまや五十近くになったんでしょう。しかし、世界は百五十国あるでしょう。一体、その二百海里の方向で行くことが海洋法会議の成功裏の解決であるというふうに即断することは、私はまだ問題があろうという感じがする。何となれば、やっぱり経済大国と言うか、漁業大国と言うか、そういうものが先行して、ケニアから始まったとはいうものの、アメリカから始まって、EC、ソ連が来て、日本が来たというかっこうで、大変二百海里問題が大きな問題になり、各国もそういう方向に行っていますけれども、日本の外交の将来というものを考えたときには、そういうような言うならば経済エゴイズムの方向にだけ走っているという、そういう傾斜面の方向で、それをそのまま成功裏に受け取っていくという発想で日本の外交がいいのであろうかという疑問を私は持つのでございます。その点、外務大臣どうでしょうな。

○政府委員(中島敏次郎君) お答え申し上げます。
 初めに、ちょっとお断りさせていただきたいと存じますのは、私が先ほど申し上げましたのは、海洋法会議が成功裏に終わるということは、排他的経済水域の概念も確立しておるということであるという意味で申し上げまして、経済的水域の問題が片づけば海洋法会議が成功するという逆の意味ではございませんで、経済的水域の問題以外にいろいろな問題があるという意味でございます。
 経済的水域の問題に限りますと、ただいま先生から御指摘がありましたように、それからまた私が先ほど申し上げましたように、経済水域とはいかなるものであるかということ自体についていまだ論議が尽くされていないわけでございまして、大変な論議がむしろ行われているわけでございまして、そのうちの重要な論議の一つは、いま先生の御指摘のような、発展途上国の権益をいかにして経済水域の中で守るか、または不当に発展途上国の権限が拡大されないかと。それからさらに、具体的には内陸国、経済的不利国というのは発展途上国が多うございますけれども、そのような国国がその経済水域に対していかなる権限を持つべきであるかという点が重要な争点の一つであるわけでございまして、それらの点が片づかなければ経済水域の問題は片づかないということでございまして、そういう意味では、果たして先生の御指摘の点と直接触れるかどうか存じませんが、南北問題の様相というものもこの経済水域の問題の中にあるわけでございます。いずれにせよ、それらのいろいろな論議がいまなお尽くされておりませんので、これが論議が終結し固まるまでにはまだしばらくの時間を要するということでございまして、先ほど申し上げましたのは、その経済水域の観念の確立を待つということでは、いますでに到来しておるいわゆる二百海里時代へのわが国の対応がおくれるのではないかと、そういう意味で私は先ほど申し上げたわけでございます。

○秦野章君 海洋法会議の例の議長の草案が出ているわけですね。これは議長の試案で、これをたたき台にこれからやっていこうというわけだから、別にこれにそんなに、一〇〇%こういうものができると考える必要は毛頭ないだろう。論議を尽くすべきは論議を尽くして、どういう角度でこの草案を固めていくかという問題について、私は日本の外交が非常に大きな役割りを演じなきゃならぬ、そういう立場にあろうかと思うんですね。
 そこで一つお伺いしますが、深海の資源については人類共同の財産とはっきり言っているわけですね。魚類については、人類共同の財産ではないとは言っていない。しかし、その辺の解釈をどういうふうにしていますか。たとえばわかりいいように言うと二百海里の中の魚、これはたとえば経済水域として宣言すれば、その魚は所有権がこっちのものであって人類共同の財産じゃなくなっちゃっているんだ、なくなるんだというふうに言って言い切れるのかどうか、私はちょっと言い切れない感じがするんだが、どうですか。

○政府委員(中島敏次郎君) 改訂非公式単一早案に即してお答え申し上げれば、非公式単一草案は、天然資源という形でいわば鉱物資源をも含みまして、これは当然に上部水域の漁業資源も含むわけでございますが、それらの探査、開発、保存及び管理のための主権的権利を沿岸国が有するというたてまえになっております。したがいまして、それは人類共通の財産と言うよりは、むしろ沿岸国が管轄権を行使すべき資源ということになります。その意味で、深海海底の資源とは性格が異なるということでございます。

○秦野章君 いまの草案の中の「漁業資源の利用の配分」という第五十一条に、とることだけじゃなくて最適利用を促進しなくちゃならぬという条文があるんですよね。最適利用を促進する、その最適利用というのは、まだコンセンサスは得ないけれども、その国だけのものだということではなくて、これは時間がないから条文を読みませんけれども、その次の(ロ)の方を読めば、明らかに発展途上国その他よその国の問題も考慮しなきゃならぬということも書いてあるから、余りその辺のところを、私は鈴木農林大臣が行かれてその成功を祈ることに間違いはないんだけれども、これは海洋法の問題として、われわれが一方においてどうしても理想をにらんでいかなきゃならぬものだからお尋ねするんだけれども、そう簡単に割り切らぬ方がいいだろうと、こう私は思うのですよ。そして、何と言っても海洋法のコンセンサスを得るという努力をするということが、暫定と書いてあるけれども、本当はその理念というものはやっぱり大切にせにゃならぬだろう。いずれにしても、海の泳いでいる魚は、水域があっても普通の所有権とは違う。無私物だし、それから回遊性のある魚もずいぶんあるわけだから、そういまの答弁のようにぴしゃっと主権的支配、こう言い切れるかどうか。しかも、今度の草案を見ると、主権的支配という文句はないんだよ、これ。管轄権ということになっている。管轄権と主権的支配はどこが違うのかな。

○政府委員(中島敏次郎君) お答え申し上げます。
 国連の単一草案において、主権的権利という言葉を使っておりますことの実体的な意味は、必ずしも明確でない点がありまして、今後まだ詰めらるべき面があるのではないかというふうに考えておりますが、いずれにせよ、私どもは沿岸国がその二百海里の漁業資源に対して持つその管理保存のために必要な権限を管轄権と称しているわけでございまして、この主権的権利という言葉も、そのような意味の管轄権を本質としているものだというふうに考えております。

○秦野章君 普通、われわれの勉強が足らぬことかもしれぬけれども、主権的支配があってそして管轄がある。たとえば税務署なら統治権があって、ここからここは向こうの税務署、こっちの税務署と、主権的支配と管轄はちょっと違うような気がするんですね。まあそういう問題は抜きにして、これから海洋法会議でもってそういう問題も練っていくんだろうと思いますけれども、海洋法会議の中にある条文、海洋法のことを申し上げ過ぎたからなんですけれども、ついでだから申し上げますが、島の問題について海洋法百二十八条はこういうことを言っているんですよ。「島についても領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚の規定が適用されるが、人が生活しえないか、又はそれ自身経済活動が行えない岩は」――島じゃなくて「岩は、それ自身の排他的経済水域又は大陸棚を持たない。」と、こういう規定があるんです、これも草案ですけれども。それで、韓国が二百海里という問題になったとき、竹島が問題になるのですよね。あるいは中国の問題も出てくるのかどうかわかりませんけれども、人が住んでいないところとか、あるいはそれ自身が経済活動が行えないような岩は、これは排他的経済水域も大陸だなも持たないというこの規定は、規定と言うかこの草案というものはなかなかよくできていると思うんですけれども、韓国が、いろいろ新聞に伝えられると、二百海里問題を言っておりますが、竹島が一番日本の問題では関心を国民が持っていますよね。きょう私の同僚の亀井さんが竹島、竹島と言っていましたが、まあ無理はない、島根県のすぐそばですからね。こういう草案というものは十分注意を喚起しておく必要があると思うのですが、どうですか。

○政府委員(中島敏次郎君) ただいま先生より御指摘のような条項が、単一草案にありますことは事実でございます。
 そこで、私どもは、海洋法会議の場においては、一般的たてまえといたしましては、経済水域または大陸だなを持つべきものとして、島なり岩なりを大小その他性質によって区別すべきでない、すべてのものが同じ扱いを受けるべきであるという考え方に立って海洋法会議に臨んでおりまして、できれば、この条項はむしろ削除すべきであるという考え方を持っております。ただ問題は、この条項自身も、いま先生が御指摘のように、人間の生活を維持することのできないということの意味がいかなるものであるかという点については、なお論議が必要な面がございまして、この辺の論議の帰趨をも見守っていきたいという気持ちを持っております。

○秦野章君 国際海峡という概念はどういう概念でしょうね。

○政府委員(中島敏次郎君) 海洋法会議におきます論議といたしましては、領海を十二海里まで認めるということとの関連で、領海が十二海里になりましたときに公海部分が消滅するか、または航行に必要な公海部分が残らないというような海峡であって、公海と公海を結び国際交通の要衝であるような海峡という考え方でおります。

○秦野章君 津軽海峡は国際海峡になっていますね。

○政府委員(中島敏次郎君) そのとおりでございます。

○秦野章君 国際海峡というのは、どうも国際法上の定義というのはいまおっしゃったようなことだと思うんだけれども、外国船が通らなくちゃいかぬのでしょう。あるいは、たとえば両方とも同じ国の北海道と青森県と、そしてそこに領海が出てきて、その領海のところを外国船が通るという発想が背景にあるわけですわな。

○政府委員(中島敏次郎君) そのとおりでございます。国際航行に使用されるということでございます。

○秦野章君 津軽海峡はどんな船が通っていますか、外国船は。どのくらい通っていますかね。

○政府委員(間孝君) 津軽海峡は、地理的な位置から申しまして、ソ連のたとえばナホトカから出ましてアメリカ合衆国の方へ行くような船、あるいは韓国あるいは中国の港から出て日本海を通ってアメリカの方へ行く船、こういった船が通っておりまして、その通航の実績は、私どもが最近この二月と三月に二回この通航の実態調査をいたしましたその結果でございますが、第一回の調査では約二・五隻、第二回の調査では十・五隻、これはいずれも一日の平均の通航隻数でございます。

○秦野章君 海洋法の会議がまた五月から始まるわけでございますけれども、いままで申し上げたいろんな問題がとても一遍に片づくなどという問題ではなかろうという、そういう予想がされるわけですね。ワンパッケージではむろんむずかしいだろうが、ある程度つまみ食い式にこの部分だけはでき上がるというようなこともあるかもしれませんわね、これは努力いかんだと思うんですが。
 それで、国連の機能というものが、国連ができたときの理想どおりに動いてないと言ってもいいだろうと思います。田舎の信用組合以下だと言って大臣やめた人があったけれども、私もどうもやっぱり国連の機能というものが田舎の信用組合よりいいか悪いかわからぬような、定かでないような感じがするんだけれども、何か突破口を開いて、国連の機能というものをちゃんと世界のコンセンサスを得て、そして平和への貢献を高めるという問題では海洋法というものは一つの突破口にならぬであろうかという感じがするんですよ。そういうことはさっき政府委員もおっしゃったように、南北問題も含んでいるし、大国だけの問題じゃない。そこらの問題をうまくコンセンサスを得て、いままででき上がったものは全部でき上げたところのものだという発想だけじゃなく、新しいコンセンサスを得る、そういう理想にやっぱりチャレンジしていかないというと、何か分捕り合戦のような悪しきナショナリズムの台頭みたいな感じが今度の漁業問題なんかでもしないではない。こういう教訓が一つあると思うし、ぜひひとつ外務省は、この海洋法のいい意味における成功あるいは国連機能の再生のために、いま機構の問題を見ても、どうやら余り大きな――大きなと言うか盤石でもないようだし、どうかひとつこの問題を国連機能再生の突破口にできぬだろうか、いろいろなことがあるんだけれども、そのぐらいの意欲を持ってほしいと思うんですよ。そういう意欲を持つならこれは暫定法にならないんだ、ちゃんとここに出てくるわけだよ、私そう思いますよ。これはやっぱり農林省ペースで行くとこうなっちゃう。農林省ペースも大事ですよ。しかし、何よりも漁業問題であって、実はまた大変な外交問題なんですという考え方がしますので、これはひとつ外務大臣の決意のところを伺っておきたいと思います。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 先ほどからお話を伺っておりまして、外交が理念を持たなければいかぬではないか、まことにごもっともなお話と伺っていたわけでございます。
 海洋法会議につきまして、これはわが国自身が国益上も大変な関心があるわけでありますけれども、やはり世界政治の観点から国連の場で行われるものでございますから、そこにはっきり日本の理念を打ち出したい、打ち出すべきである、こういうお考えでまことにごもっともなお考えでありますし、私どももいま拝聴していたわけでございます。御趣旨に沿うような方向で海洋法会議の場におきましても、ただ日本の国益だけということよりも、もっと広い南北問題も含めたこれからのあるべき国際政治、これを追求するということをやはり大きな目的として考えたい、このように考えるところでございます。

○秦野章君 農林大臣、また大変むずかしい仕事に訪ソされるわけでございますが、大変自民党の中でも誠意にあふれた政治家として私は鈴木農林大臣の誠意は、国境を越えて成功に導く一つのファクターになるのではないかと、こう祈りに祈っているような次第でございます。御健闘を切にお祈りするわけでございますが、それに関連して――関連というわけじゃございませんが、日ソの外交というもの、これはやっぱり日本は善隣外交で行くしかないし、また大国のやや谷間にはさまって、へたをすると大国の世界戦略の道具になりかねぬような面もないではない。日本の独立を維持するということは、大変むずかしい問題だと思うのでございます。この前、私、議員総会の発言がプラウダでたたかれて、ごちゃごちゃ言いよるんですけれども、これは日本もその努力をするし、実は相手方も理解をしてもらわなきゃいかぬと思うのですよね。
 時事世論調査というのはよく総理府が委託する世論調査だけれども、過去十七年間にわたって、きらいな国、好きな国というものの統計でいつもトップなんだ、ソ連が。これは何も一部の反ソ宣伝家が宣伝したからこうなるんだという――言論の自由の国だし教育レベルも上がっている国ですから、そういうことでもないだろうと思うんですね。その中で注目すべきなのは、一九七〇年に日航機がソ連へ飛んだときには、やっぱりきらいな国はトップだったけれども、きらいな程度がダウンしているんですよね。それから札幌オリンピックのときもそうなんだ。そこで、やっぱりこういうことはお互いに努力して人事の交流といいますか、交流面で、時間がないから私一方的にしゃべっちゃうけれども、日ソ間の往来を見るというと、日本からずいぶん旅行するけれども向こうから余り来ないんです。五十年の統計では、訪ソした日本人は約一万七千人、向こうから来た人は五千人ですね。これはやっぱり国境を薄くするということは、悪しきナショナリズムを克服する一つの具体的な方法、国境を薄くするということは人が交流するということであると。お互いにお互いを見合うということがあると思うんですね。そういう意味においては、交流の問題も私は非常に大事ではなかろうかと思うのです。
 時事の世論調査だけじゃ、ちょっとなんですから、いま一つ言いますと、仲よくすべき国は日本はどこか、どこと一番仲よくしたらいいかという、朝日新聞が五十一年の十月二十三日に統計をとっている。それによりますと、アメリカとは四二%、これは圧倒的にトップなんです。中国が一六%で、ソ連は三%なんですよ。これは何もつくったもんじゃなくて、これはやっぱりそういう統計が出ているわけです。私は、こういうものを基礎にして善隣友好でわれわれは進むほかはないが、ソ連の偉い人も、やっぱりアジアに平和外交を進めていこうとするならば、その辺のところも考えていかないと、善隣友好といかに努力してもやっぱりみんなが努力するという問題ではないのかと、そういうことを痛感したからそのことを申し上げ、なおかつそれにつけ加えたところが、向こうでお気に召さなかったかもしれませんが、アジア諸国民の中にも日本のような国民感情を持っている国が多いだろうと、これは私も大体この推測は間違ってないんじゃないかと、こう思うんですがね。
 毛沢東なんかの発言を見ても、私はやっぱり平和がなくちゃ人類の幸福はありませんから、そういうことのために特に大国がエゴイズムは控える、日本を含めての反省でございます。決して相手の国だけのことを言うべきじゃない。アメリカもそうであります。そもそもアメリカが二百海里を発足したときに、あの太平洋岸の漁民を背景にした国会議員が要するに国会に電報を打って、早く二百海里を引け引けと言ったら、フォードはこれを押さえようとしたでしょう。したけど、選挙があったからかどうか知らぬが、とうとう拒否権も使わなかった。あれが発端ですよ、これ。やっぱり大国主義というのはまずいんですよね。私は紛争というものを、小さな紛争はともかくも、大きな紛争になったらこれは大変ですから、どうかそういうようなこともお含みいただいて、農林大臣の御健闘を心から私は御期待し、また成功をお祈りして、私の質問を終わりたいと思います。

○塩出啓典君 非常に時間がございませんので、答弁も簡潔にお願いしたいと思いますが、今回わが国が急に十二海里あるいは二百海里を設定しなければならない、こういうことについて、わが国の漁業外交が非常に先見の明がなく行き当たりばったりではないかと、こういうような意見があるわけであります。しかし、一方から考えれば、国連海洋法会議においてアメラシンゲ議長あるいはズレタ事務総長も、結論が出るまでは各国が余り勝手に先走りしないように、そういうことも要望をしておるわけでありまして、そういう点で農林大臣としては、わが国の漁業外交においてどういう点を反省をしているのか。ただ二百海里、十二海里をもっと早くやっておけばよかったということだけの反省では私はないんじゃないかと思うが、その点はどうでしょうか。

○国務大臣(鈴木善幸君) 結果論として、この二百海里時代に対するわが国の対応がおくれたということにつきましては、率直に私どもも反省をいたしておるところでございます。しかし、先ほど来当委員会でいろいろ御意見が出ておりますように、この漁業資源、水産資源というのは人類全体のために保存をされまた有効に利用されるべきものだと、このように私は考えております。いま二百海里というようなことで分割をし、それを管轄権を及ぼす、主権的権利を行使すると、こういう時代にとうとうとして動いておりますけれども、そういう中におきましても、私どもは自分もとらなければ人にもとらせないというようなことは、世界全体の食糧問題解決の面から言うとそれはとらざるところであると。わが国は開発途上国その他に対しましては、技術協力あるいは経済協力等を通じましてできるだけ沿岸国の漁業を振興させ、その地域の食糧の充足を図り、その余ったところでわが国に関心のあるものはこれを輸入をすると、そういうようなことで、二百海里時代ではありますけれどもそういうことでいかなければいかぬのではないかと、このように考えておる次第であります。

○塩出啓典君 私は、先ほど農林大臣言われたように、やはり人類という立場に立って海の資源を活用していかなくちゃならぬ。ところが、わが国が今日までとってきたあり方というものは、必ずしもそうではなかったと思うんですね。国連海洋法会議の第一次の会議のときに、一九五八年でありますが、漁業及び公海の生物資源の保存と、こういう国際条約ができたわけでありますが、わが国はやはり遠洋漁業というものがその沿岸国によって制限されることは困るという立場から、そういうことに反対をしてきたわけであります。そしてまた、今回アメリカが二百海里宣言をしたその裏には、先ほどお話がありましたように、米国沿岸において余りにも魚をたくさん日本やソ連がとると、そういうようなところから向こうの漁民も非常に心配があったわけでありまして、最近日本の漁業がとっている魚がだんだん、だんだん小さくなってきておる。そういう点で、日本の姿勢としては、やはり漁業資源というものは人類共通の財産であると。したがって、そういう点、技術の進んだ日本がよけいとればいいというのではなしに、お互いにやはり人類共存の立場に立っていかなくちゃならない、こういう理念がわが国はやや乏しかったんではないかと、私はそういう点をまず反省すべきではないかと思うんです。その点率直に認めるかどうか、簡単で結構なんですけれども。

○国務大臣(鈴木善幸君) 私は、過去における日本の遠洋漁業はそういう批判を受けるに十分な欠点があった点も率直に反省すべきだと、そこから再出発をしなければいけないと、このように考えております。

○塩出啓典君 そこで、これは外務大臣にお尋ねしたいわけでありますが、国連海洋法会議において結論を出していかなければならない。しかし、二百海里については先ほどもお話がありましたように、いわゆる内陸国あるいは地理的不利国というものは五十ヵ国以上あるように聞いておるわけでありますが、そういう中でわが国が今回アメリカあるいはソ連の処置に対抗するために、海洋法会議の結論を待たずにこういう処置に出ることはやむを得ないとは思いますけれども、また一方においては、国連の場における日本の発言権というものをちょっとマイナスするんじゃないか。場合によってはオーストラリアやあるいはニュージーランドのように、やはり国連海洋法会議の結論を待つまでは断じてそういう処置はとらないと、二百海里はとらないと、そういう立場で大国の横暴を是正をしていくと、こういう行き方もあると思うんですが、今回はそういうことよりも、むしろわが国を守るという非常に近視眼的な立場からこういう処置をとらざるを得なかったわけであります。そのあたりにわれわれも一つのジレンマを感ずるわけでありますが、外務大臣は率直に言って今後国連の場においてそういう点がマイナスにならないかどうか、その点どうなんでしょうか。

○国務大臣(鳩山威一郎君) わが国といたしましては、特に二百海里の問題につきまして、国連海洋法の結論が出ることを待ってわが国としても対処振りを考えたいと、このような態度で来たことは御承知のとおりでございます。
 今回取り急いでやりましたということは、まさにアメリカ、カナダ、ソビエト、このように沿岸国がみんなこの二百海里を施行するということになりまして、このまま放置しておいたのでは日本の沿岸あるいは周辺海域の管理が荒らされるおそれがあると、このようなことが急速に高まった結果でございまして、まことにやむを得ざることであるというふうに考えておる次第でございます。来るべき海洋法会議におきまして、日本といたしましてもなるべく早くこの問題の決着がつくように努力をいたしたいと、こう考えております。

○塩出啓典君 五月からの海洋法会議は、いろんな人の意見では合意に達することは非常に困難ではないかと、こういう見方が非常に強いわけでありますが、外務省としてはどう考えているのか。また、やはり海洋法全体の一括採択ではなしに、やはり領海十二海里の問題とか、あるいは二百海里の漁業に関する問題とか、このように合意のできる点からやっぱりまとめていくと、こういうことも一つの考え方ではないかと思うわけであります。いままで海洋法会議も第三次を審議してもう三年以上になるわけで、いつまで長引くのも非常に困るわけでありまして、いままではそういう分離採択というような声は余り、幾らかは出ておったように聞いておるわけでありますが、わが国としては結論が出ない場合にはやはり分離採択をもして、話のまとまるものからちゃんとやっぱり基準をつくっていく、こういうことを考えるべきじゃないかと思うんでありますが、その点はどうですか。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 先ほども申し上げましたところでございますけれども、ただいまのところ開発途上国が非常に関心を持っておりますのは深海海底資源の問題でございますので、このいわば日本と同じような立場にある国々といたしまして、これは早く海洋法会議の結論がつくことを待ち望んでおるわけでございますけれども、果たしてこの分離採択ということができるかどうか、これはやはりなかなか予断を許さないところではないかというふうに思います。そのようなことで、一体今回の会期で果たして決着がつくであろうかという点につきましても、これはなかなか予断ができないような現状でございます。しかし、わが国といたしましても、深海海底資源の問題に何とかこれの解決のために真剣に取り組まなきゃいけないということの動きが最近急速に出ておりますので、わが国としての立場も決意を迫られておる。わが国としても協力すべきところは協力をいたしても、この全体の話がまとまるような努力をいたすべきものというふうに考えております。

○塩出啓典君 だから、分離採択を主張する考えはない、こういうお答えですね。そうですね。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 分離採択が果たして問題をよけいこじらせるようなことにならないかというような感じを持っておりまして、やはり全体としてのまとまる方に努力をいたすべきではないかというふうに考えておるところでございます。

○塩出啓典君 それから、いわゆる国際海洋法会議における非公式単一交渉草案の改訂版でございますか、これにおいては国際海峡についていろいろ述べておりますが、大体わが国の考えとしてはこの草案には賛成の方向であるのかどうか、この点条約局長でもいいんですが、簡単に。

○政府委員(中島敏次郎君) 先生御指摘のとおり、
  〔委員長代理鈴木省吾君退席、委員長着席〕
非公式単一草案は、国際海峡の通航制度について、一般の無害通航よりももっと自由な通航制度という考え方でできております。その限りにおきまして、わが国といたしましても考え方としてはこれを十分サポートし得る、支持し得るということでございます。問題は、その通過通航制度の中身につきまして、いまだ十分な論議が尽くされていないので、この点の確立を期するということでございます。

○塩出啓典君 わが国がやはりたとえばマラッカ海峡等を例にとりましてもより自由な通航を主張する、こういう立場はわかるわけでありますが、私はこの単一草案の改訂版を見まして、そういう立場に立ってなおかつ、ある程度主権国の、沿岸国の主権というものも認める範囲もあると思うんですがね。たとえば領海十二海里、将来国際海洋法会議の結論をもって特定海峡をなくした場合、日本の国が核兵器を積載する船はこれは通すわけにはいかない、こういう主張をすることはいまの草案ではできるのかどうか、あるいは現段階においてはそこまではっきりしていないのかどうか、その点どうなんでしょうか。

○政府委員(中島敏次郎君) お答え申し上げます。
 ただいまの草案の状況によれば、国際海峡における船舶、航空機の通航に関して、たとえば沿岸国が制定し得る法令を限定的に列挙いたしております。この法例の内容は、一般的に申しますれば航行安全のための法令とか、それから汚染の防止とか、それから関税、衛生規則その他の技術的事項に関して法令を制定し得るというたてまえになっております。一般的には船舶、航空機は継続して、かつ迅速に通航する限りは、自由に通航し得るというたてまえになっておる次第でございます。その場合の通航権につきましては、船舶の種類を区別して規定をしておるということは一切ないという状況でございます。

○塩出啓典君 わが国は世界唯一の被爆国であり、世界に核兵器をなくするという世論をつくるために、そのリーダーシップをとっていく責任があると思います。今度のカーター大統領も核兵器をなくしていこう、こういう方針のようであり、また今度の国連に、わが国も核実験を停止するという提案をするように聞いておるわけでありますが、核兵器をなくするというそういう方向から言えば、わが国の領海内に国際海峡といえども核兵器は通さない、こういうことは私は世界にも通る論理ではないかと思いますし、そういう方向で国際海洋法会議においても、またその後においてもわが国は努力をする気持ちがあるのかどうか、これだけ外務大臣に伺っておきます。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 国連におきまして来年軍縮特別総会が開かれることが決まっておりますし、軍縮面におきまして、日本といたしましては唯一の核被爆国であるという立場から、核実験の包括的あるいは全面的な禁止ということ、これは面当ぜひとも実現をいたしたいことでありますし、先々の理想といたしましては、核兵器の廃絶というところまで日本といたしましても声を大きくして主張いたしたい、こう思うところでございます。
 現実の海洋法の段階におきまして、核を有する特定の国が、海峡通過につきまして非常な関心を持っておるということは事実だろうと思います。否定できないところであろうと思いますが、私どもといたしましては、現在日本の国益といたしましては、やはり海峡のより自由な通航ということを主張いたしておるわけでございまして、この両者はやはり分けて考えるべきであるというふうに考えているところでございます。いずれにいたしましても、わが国は唯一の被爆国でありますから、非核三原則というものは厳守してまいりたいというふうに考えておるとろこでございます。

○塩出啓典君 そうすると、タンカーの通航をまず優先をさせる、だからそのために日本の十二海里に、領海内に核兵器の搭載の船が通らないようにすることよりもそちらの方を優先させる、そういうお考えのようでありますが、これはわれわれとしては両方、タンカーの自由な航行を実現するとともに、なおかつ日本の核兵器に対する国際海峡を通過させないという、こういう問題も両立できると私たち考えておりますし、その点を強く要望しておきます。これは、また次に論議をいたします。
 それから最後に外務大臣にお尋ねをいたしますが、日ソ漁業操業協定を五十年に締結いたしましてそれから被害件数もわずか減ったようでありますが、ミグ25事件以来非常にまたふえていると聞いているわけでありますが、これはやはり事実であるのかどうか、そしてまたこれはソ連側の意図的な事件であると判断しているのか、その点どうでしょうか。これは農林省でしょうかね。外務省でも結構ですよ。

○政府委員(岡安誠君) 御指摘のとおり、昭和五十年の十月に日ソ漁業操業協定が発効して以来、その後の一年間は大体その前の一年間に比しまして三分の一ぐらいに事故が減ったわけでございますが、その後順次ふえてまいりまして、最近といいますか、昨年の暮れからことしの初めにかけまして非常に事故がふえております。その原因が何にあるかということは非常にむずかしい話でございますけれども、私ども実際、最近の被害の増加状況には心を痛めておるわけでございまして、抗議をすると同時に、協定が締結されておりますので、今後厳重にこの協定を守るようにソ連の方にも要請をいたしておるというのが現状でございます。

○塩出啓典君 ミグ25事件以来非常にふえているわけでありますが、それが意図的なものであるかということはよくわからないと、これは確かに向こうに聞いてみないとわからないわけですけれども、そしてもう時間が参りましたが、この日ソ漁業操業協定のいわゆるこれは公海水域に適用されることになっているわけでありますが、二百海里を宣言した場合に二百海里内は公海ではないと思うんでありますが、そうすると、この日ソ漁業操業協定というものは二百海里外に適用されるようになってくる。しかしまた、この日ソ漁業操業協定というものは、やはり国内法よりも、二国間の協定でございますのでそちらの方が優先をする。そうすると、これは六ヵ月間は一方が廃棄しても続くことになるわけなんですが、そのあたりの関係はどのように考えておるのか、六ヵ月間は日ソ漁業操業協定が続いて、それから後の今度は新しい二百海里時代の操業協定を新しく締結をするような話も聞いておるわけでありますが、その点の御見解を承って質問を終わります。

○政府委員(中島敏次郎君) 日ソの操業協定は、先生御指摘のとおり公海において適用さるべき協定でございます。他方、今回わが国が二百海里の漁業水域を設定する場合に、その二百海里の水域はいかなる法的ステータスを持つかという点があるわけでございますが、この点は従来も御答弁申し上げましたように、わが国といたしましては公海の上に漁業管轄権を行使し得る水域ができる。その限りで昔ながらの公海の法的な地位と申しますか、公海自由の原則が変質しつつあるというふうに考えるわけでございます。
 他方、日ソの操業協定は、いずれにせよ、ソ連の漁船とわが国の近海沿岸漁船が混在して操業いたします場合の紛争の処理及び現実に損害が生じました場合の請求権の処理を定めた協定でございまして、ソ連の漁船がいかなる法律的原因に基づいてそこで操業しているかという点はこの協定の本質ではなくて、いずれにしろ、ソ連の漁船とわが方の漁船とが混在して操業する場合の問題を処理しようというのが協定の本旨でございますので、その意味におきまして、操業協定は依然として維持さるべきものというふうに一応考えております。

○立木洋君 農林大臣が先ほど領海十二海里の設定がおくれたことについて反省しておるというお話がございましたけれども、この設定がおくれたことについて、日ソ漁業交渉の中でどういうふうな影響がおくれたことによってあったのかという点について、最初にお尋ねしたいと思います。

○国務大臣(鈴木善幸君) 領海の幅員を三海里から十二海里に広げる、この対応がおくれたために日本の沿岸漁業者の操業の制約もございましたし、漁網、漁具等に多大の被害も出てきた。そういう意味で、私は非常に残念に思っておるところでございます。しかし、このことが日ソ漁業交渉そのものに悪影響をもたらしておるとは私は考えておりません。

○立木洋君 外務大臣にそこでお尋ねしたいわけですが、いま農林大臣がそういう反省の弁を述べられたわけですけれども、これは数年前から漁民の中では、十二海里に早くしてほしいという要望がありましたし、昨年の一月も政府において領海法を本国会でやったらどうかというふうな話もあった。しかしその議論の過程では、常に外務省がそれに対して慎重論を唱えてきたというふうなことがいろいろちまたで報道されているわけです。今日、日ソ漁業交渉を目前に、何とかしてこれを正しく打開しなければならないという状況の中で、急遽これを国会で取り決めるという段取りに至ったわけですが、こういうような経過を外務大臣としてどのようにお考えになっておられるのか。また、こういうようなきわめて後手後手になったという外交折衝から、どういうような教訓を引き出されておられるのか、その点についてお尋ねしたいと思います。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 領海並びに漁業水域、これらの問題につきまして、特に領海問題は、ソ連の漁船が非常に目の先まで来て漁業を行うと、こういうことが最近非常にふえたということから、沿岸漁民の間に非常に強かったこともそのとおりでございますし、昨年の段階では、昨年中に何とか国連海洋法会議の何らかの結論が出ないかということを期待をいたして、それまでその動向を見て対処をいたしたいと、こういうふうに考えたわけでございます。しかし、昨年もついに秋までかかりましても結論が出ないということになりまして、それから何らかの対策を講じたいということを考えておったところでございまして、ことしになりましていよいよ待っていられないと、こういうことになりましたので、水産庁の方と外務省とは常時密接に連絡をしながら、この問題の対処を考えてきた次第でございます。

○立木洋君 まあ昨年は鳩山さん、外務大臣ではございませんでしたから、そのときのことをとやかく私言うつもりはございませんけれども、しかし外務省の姿勢として、少なくともやはり国民の利益の立場に立って積極的に外交を展開していくということが基本でなければならないだろうと思うんです。そういう点で、今日こういうきわめて漁業問題との関連においての立ちおくれがあったという点については、やはりきちっと教訓を引き出して、今後の外交姿勢のあるべき姿をはっきりとその中からつくり出していくということが、私はきわめて重要な点だと思うんです。その点、外務大臣から反省の弁が聞かれなかったことはもうきわめて遺憾でありますが、改めてその点いかがでしょうか。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 外交の姿勢という問題につきましては、いろんな角度から問題があろうと思います。日本の国益というものも、私どもはやはり長期的な観点から見た本当の国益を追求すべきであろうというふうに思いまして、国際的に協調をすべき点は協調をすることによりまして、末長い国益を確保したいと、このように考えておるわけでございます。その点と、先ほど来申し述べました沿岸漁民の保護を何とか図らなければならないと、その方法等についていろいろ議論はあったことと思いますし、外務省には外務省としての立場もあったろうと思います。しかし、ことしになりまして、十二海里を何とか早く決着をわが国独自として、海洋法会議の結論を待っていられないでやらなければならないと、こういう点につきましては、水産庁の方とよく御相談をして対処をいたしたところでございまして、なお御指摘の点につきましては、それは今後とも本当の意味の国益を追求するという意味で、心にとめてまいる所存でございます。

○立木洋君 国際的な協調が重要であるということは全くそのとおりでありますが、しかし、それは日本の国としての主体性があって初めて国際的な協調が正しく発展するわけであって、主体性を失って本当の意味での国際協力というものが前進しないという点も、またこれは明白な事実だろうと思うんです。その点を一言申し述べておきたいと思うんです。
 それで、農林大臣、今度の交渉の場合でも、領土問題と漁業問題とは切り離すということが基本的な方針だというふうな報道がなされておりますけれども、切り離すということはどういう意味なのか、その点御説明願いたい。

○国務大臣(鈴木善幸君) 領土問題と漁業の問題を切り離すということは、領土問題を解決しなければ漁業問題の決着を見出すことができない、これではわが国としては困るわけでございます。二、三千隻の漁船がいま港に係船をして出漁を一日も早くという状況にございます。
  〔委員長退席、農林水産委員会理事鈴木省吾君着席〕
そういう際におきまして、まず領土問題を決着をつける、戦後三十年未解決の問題として来た問題を、この一ヵ月か半月の間に決着をつけて、それから漁業問題の協定ができるのだと、これでは私はいけない。私どもが領土問題と漁業問題を切り離すという問題は、この北方四島の問題は、一九七三年の田中・ブレジネフ会談で明確になっておりますように、戦後未解決の問題である、今後平和条約の締結交渉を継続してやっていくと。戦後未解決の問題というのはこの北方四島の問題しかないわけでございますから、それは今後の外交交渉で、今後も息の長い、わが国の方針を堅持して交渉をしていくと。しかしその戦後未解決ということの現状を踏まえて、そして日ソ友好の維持発展という大局に立って話し合いをするのであれば、漁業問題の解決もできるであろう、これが私の基本的な考えでございます。

○立木洋君 領土問題の解決を前提としないということだと理解しますし、しかしそのことは、いわゆる領土の問題に関して日本側の主張を述べないということではないということに理解します。
 それで、サンフランシスコ条約で放棄した千島列島というのはどこからどこを指すのか、その点についてお答えいただきたい。

○政府委員(宮澤泰君) サンフランシスコ平和条約の二条(C)項で日本が放棄いたしました千島列島というものは、英語によりますと、ザ・クーリール・アイランズと書いてございます。したがいまして、歴史的にクーリール諸島と言われているもの、これを千島列島と私ども日本政府は解しております。
 それで、この千島列島の範囲は、一八五五年に帝政ロシアと日本が調印いたしました日本国ロシア通好条約及び一八七五年に同じく帝政ロシアと日本の間に交わされました千島樺太交換条約、ここにクーリール諸島、クーリール群島と書いてございますもの、すなわち、北はシュムシュ島から下の、南のウルップ島に至ります十八島、これがクーリール群島というふうにこの二つの条約で定義されておりますので、日本政府は主としてこのような根拠によりまして千島列島はこの十八島。したがいまして、いわゆる私どもが申しております北方四島はこのクーリール群島、桑港条約において放棄した千島列島の中には含まれておらない、このように解しております。

○立木洋君 日本政府としては北千島、南千島ということをお認めになるのかどうか。認めるとすれば、北千島と南千島はどこで分けるのか。

○政府委員(宮澤泰君) 私ども政府は、北千島、南千島というものを法的な、このような場合の放棄したあるいは云々という場合の法的な概念としては用いておりません。したがいまして、私どもが用いておりますのは千島列島という言葉、それだけでございます。

○立木洋君 そうすると、一九五一年十月十九日に国会で答弁した西村条約局長の、この条約に千島とあるのは北千島及び南千島を含む意味であると解釈しておりますということは、誤りであったということですか。それは何らかの形で訂正されましたか。

○政府委員(宮澤泰君) その点につきましては、昭和三十一年二月十一日の第二十四回国会衆議院外務委員会におきまして、森下外務政務次官が政府の統一見解として国後、択捉――ただいまの西村条約局長の答弁でない政府の見解を統一見解として声明されております。

○立木洋君 私は、それは日本の政府がその当時とった処置というのはきわめて政治的な意図があった。明治三十六年文部省著作小学地理、われわれ日本の国民が過去受けてきた教育、この地理の教科書の中には千島列島は三十有余の島より成りと明確に書いてある。最も大きいのは択捉島であるということが書かれてあります。このことによって日本の国民というのはいままで全部教育されてきたし、千島列島というのは国後、択捉を含む三十余島であるというふうになされてきたのですが、これはただ単なる一般の教科書ではなくて、文部省著作の教科書であります。このことについてはどのようにお考えですか。

○政府委員(宮澤泰君) 私どもは、日本が桑港条約で放棄いたしましたのは千島列島、すなわち英語で申すクーリール群島ということで、その範囲は、ただいま私が申し上げました森下政務次官の統一見解そのものと解しております。

○立木洋君 いま出版されておる多くの日本の辞典、私は大体拾って見てみました。国語大辞典、広辞苑、あらゆる国語辞典等々全部当たってみました。その中では、千島列島というのはどういうふうに書いておると思いますか。

○政府委員(宮澤泰君) 大変申しわけございませんが、いろいろなものを調べておりません。存じません。

○立木洋君 これは日本の政府が一貫して、文部省で決定した教育大綱、いわゆる教科書体系ということの中に明確に三十余島として国後、択捉を含むのが千島列島である。そして、国語大辞典によりますと、択捉以南を南千島、以北を北千島と言うということが明確に書かれてあります。北方領土という言葉が辞典にどのように掲載されておるか、御存じですか。

○政府委員(宮澤泰君) その点につきましても、私正確に調べておりません。

○立木洋君 どの辞典を見ても、北方領土なんてありません。これは特別に後からつくった言葉なんです。これは日本の国民の中で、民族の中で千島列島というものがどういう概念であるか。これは先ほど言われた日露通好条約等々で南千島が日本の領土になり、さらには北千島は明治八年千島樺太交換条約でこれが日本の領土に入った。ですから、南千島というのは日本の固有の領土であり、いわゆる北千島というのは武力によって日本が入手した領土ではなく歴史的に見て日本の領土であるということとして、一括千島列島として日本の政府はいままで全部解釈をし、そういうもとで国民を指導し、理解をさしてきたんです。そして、それがなぜあの昭和三十一年に、国後、択捉は南千島ではなく北方領土であるということを決めなければならなかったのか、その点についてはどのようにお考えですか。大臣、御答弁ください。

○国務大臣(鳩山威一郎君) サンフランシスコ条約によりまして日本が放棄した千島、クーリール・アイランズの定義が明らかにしてないわけで、これにつきましていろいろの解釈が出たこと、これも事実でございます。しかし、従来からの一八五五年の日露通好条約、下田条約と言われているもの、このときにこの国後、択捉を含んだところで日露の間に決められたわけであります。それ以来、日本がずっと本来固有の日本の領土として、ソ連に占領されるまではそれを続けてきたわけであって、他方、カイロ宣言等から見ましても、日本が過去におきまして軍国主義時代に略取したものを取り返すと、こういうことでありますから、したがいまして、日本が一八五五年以来日本の国土として平穏無事に領有してきたもの、これまで放棄をするという趣旨ではなかったと思うのでございます。そういう意味で北方四島、これが地理的な形でいかに呼ばれましょうとも、日本が従来日本の固有の領土であると、こう観念してきたもの、これはやはり国後、択捉までではないかと、こういうふうに私ども考えておるところで、これが地理的な名稱その他にはいろいろな呼び方がありましょうけれども、わが国の政府としての方針といたしまして、国後、択捉二島は固有の領土として返還を求める、固有の領土であるとこのように主張しているもの、こう考えているところでございます。
  〔委員長代理鈴木省吾君退席、委員長着席〕

○立木洋君 これは昭和三十一年九月七日、アメリカからの覚書、つまり日ソ交渉に当たってのアメリカからの覚書があって、そこでアメリカと日本政府が話し合いをして、それから後こういう問題が出てきた。言うならば、サンフランシスコ条約の二条(C)項で千島列島の権利、権原、請求権をすべて放棄するということになったのは千島列島なわけです。ところが、一方では千島列島ということをサンフランシスコ条約で放棄しておきながら、国後、択捉は今度は千島ではないという詭弁を使って、北方領土という新しい言葉をそこで持ち出して、そうしてだからこれは返還を求めるんだ、いわゆる島の名前を変えても。いわば国際的な道義から言うならば、これは筋が通らないというふうに私は言わざるを得ないと思うんです。
 時間がありませんので結論に入りますけれども、こういう態度で私は問題を進めていったんでは、まず第一に、これは北千島と言われる島々、これは歴史的に見て日本の領土であります。この北方領土という形で現在政府が主張し、こういうことで問題を進めていくならば、北千島を完全に請求権を放棄すると、いわゆるそういう請求する権利を放棄するということを再確認することにならざるを得ない。これは将来の日本民族にとっても、重大な禍根を残すことになるのではないかという点が第一点。
 第二点は、いわゆる国際的な条約において放棄した千島をただ返せと言っても、これでは道理が通らないのは明らかであります。こういうやり方で今後領土問題を解決しようという立場をとるなら、永久に領土問題は解決できないと言わざるを得ない。この点についてどのように考えておられるのか。
 第三点は、日ソ漁業交渉がいま問題になっているわけですけれども、その焦点の一つはやはり線引きの問題であると思うんです。日本政府が、このような領土問題に関する国際的な条約、国際的ないままでの取り決めから見て道理の通らないことを繰り返していたんでは、これはやはり日ソ漁業交渉の正しい解決にも妨げにならざるを得ない、この点についてどのようにお考えになっているか。
 以上、三点を質問して私の質問を終わりますが、お答えをいただきたいと思います。

○国務大臣(鳩山威一郎君) ただいまの三点ともに、この全千島が日本の固有の領土である、こういう前提に立たなければならない、こういうお話でございますので、日本といたしましては、サンフランシスコ平和条約によりまして千島列島は放棄をすると、このように約束をしたわけであります。この条約にはソ連は参加をいたしておりませんけれども、ソ連の参加しないアメリカを初めほかの国々との間にはそのような約束をしたわけでありますから、日本といたしまして、全千島がこれは日本の固有の領土であるというような主張はすべきでないというふうに考えております。
 線引き等の問題にお触れになりましたけれども、全千島が固有の領土であるという前提に立ちまして日本の線引きを行うということは、これはやはりサンフランシスコ平和条約との関係で理由がないと、言うべき立場にないというふうに考える次第でございます。

○田渕哲也君 まず初めに、領海法と非核三原則の問題について若干質問をしたいと思います。
 領海法の附則2に「当分の間」という言葉がありますが、この「当分の間」というのはいつまでのことですか。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 日本が国連海洋法の結論を待たないで、進んで領海を三海里から十二海里に広げる、このような措置をとったわけでございますが、これはもっぱら沿岸の漁民の保護ということを考えた措置でございます。したがいまして、海洋法会議で領海は十二海里まで広げることを認める、そして海洋の秩序といたしまして、いわゆる国際海峡につきましての航行の方式がいかに決まるか、そういう海洋法会議の結論の出るまでという趣旨と考えておる次第でございます。

○田渕哲也君 そうしますと、国連海洋法会議で国際海峡の通航の方法が決まれば、この分についても十二海里に広げると解釈していいわけですね。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 海洋法会議の結論が出れば、その方向に日本としても協力をすべきであるという意味でございまして、その結論の方向に従いましていかなる規制をするかということを決めたいと、こういう考えであります。

○田渕哲也君 政府は、いままで非核三原則はあくまで守るということを繰り返しておられるわけですけれども、国連海洋法会議で現在非公式単一草案というもので国際海峡での妨げられない通過通航権、こういうことを言っております。これについて核積載艦は含むか含まないか、これはいまだに検討中のことだと思いますけれども、わが国がいままで政府が答弁されたような形で非核三原則を守ろうとすると、やはり国際海峡での妨げられない通過通航権というものは核艦船は含まないんだ、こういう前提のもとに国際海峡の通航権というものを決めなくてはならない。もし、世界の世論といいますか、大勢がそうならない場合は、せめて、核積載艦については決めないけれどもそれはその国の法令に従うと、その国の法令で規制できる。先ほども答弁がありましたように、交通安全とか汚染の問題では各国のその国の法令で規制できるようでありますけれども、そういう扱いにしなければこれは困ると思うんですけれども、この点はどうですか。

○政府委員(中島敏次郎君) ただいまの草案のお考え方につきお答えを申し上げますと、ただいま先生の御指摘のとおり、現在の海洋法草案におきましては、いわゆる国際海峡における通航制度といたしましては、妨げられざる通過通航制度という考え方で草案はできておりますし、それに従って審議が行われておるわけでございます。
 で、この考え方は、継続的、かつ迅速な通過の目的のために通航することを言うということでございまして、それがいかなる種類の船舶について適用があるかというような限定は付されていないということでございます。わが国といたしましては、るる政府、大臣から御答弁がございますように、いわゆる国際海峡におきましては、一般領海における無害通航制度よりも、もっと自由な通航制度を確立すべきであるというのが基本的な立場でございまして、その場合、わが総合的な国益から見て、わが国の巨大タンカーその他の海運の自由を確保するために、いわゆる船種別の規制という考え方の導入に対してはきわめて慎重であらざるを得ないと。一たん特定の船舶についての規制の考え方が入りますと、それが巨大タンカーの規制というところに波及していく公算がきわめて大きいという状況におきまして、わが国の総合的な国益の確保のために、いわゆる国際海峡における自由な通航制度の確立ということを期している次第でございます。

○田渕哲也君 ただいまの趣旨ですと、国際海峡の通航権はできるだけ自由にする、そして船舶の種類を問わないと。そうなると、核積載艦も通すということになると思うんですね。日本は、通すべきだという主張をしているのですか、核積載艦は例外で通すべきではないという主張をしているのですか。今後どうするつもりか。この点はいかがですか。

○政府委員(中島敏次郎君) わが国に非核三原則という重要な政策があるというととは、これは当然のこととしてわが代表団としても、これを念頭に置きながら会議に臨んでおるということが一点でございます。
 そこで問題は、いまの国際海峡における通過通航制度との関連で、わが国がいかなる立場をとるべきかという点になるわけでございますが、先ほど来申し上げておりますように、わが国の総合的な国益から見て、とにかく国際海峡においては、無害通航よりも、無害通航によるところの恣意的な判断の入る余地のないような通航制度をつくるべきであるということで臨んでおるわけでございますが、先生御承知のように、この草案の規定自体が最終的に固まったわけでは毛頭ございませんで、今後の論議も踏まえながら、わが国の最終的な態度というものは、この通航制度が最終的にどう決まるかということを見て、その際に検討さるべき問題だろうというふうに考えております。

○田渕哲也君 私は、政府の言うことに若干矛盾があると思うんです。できるだけ自由な通航をするように主張をしておきながら、非核三原則を持っておるから尊重してくれるだろうと言ったって、わが国があくまで非核三原則を政府の言う形で守ろうとするならば、国際海峡は核艦船を通すなという主張をしなければつじつまが合わないのですよ。そういうことが世界の各国に普遍的に認められないならば、せめてそれは各国の法令で規制できるようにしろと、最低限度そういう条件をつけなければ、政府は非核三原則を持つ限りは、もしその妨げられない通過通航権で核艦船も通すんだという合意のもとに海洋法が決まった場合、その海洋法には調印すべきではない、こういうことになると思いますが、どうですか。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 核積載艦をいわゆる国際海峡、これを通すべきでない、このような主張もあろうと思います。核保有国、特に、あるいは原子力潜水艦と言った方がいいかもしれません。この保有国自体は、恐らく大変な関心を持っておることは想像できるわけでございます。海洋法会議の結論を早く出してもらいたいということが一方にありまして、他方、国際海峡の自由なる通航と、それから領海を十二海里に広げると、この二つが切り離せない問題として考えている国もあるわけでございます。
 日本の立場はどうかということは、たびたび御説明しておりますように、特定の船は沿岸国が自由に規制できると、こういうようなルールを決めるということにつきましては、日本としては国益上、これは国によりましては大型タンカーの方がよっぽど危険であると、現に大きな被害を方々で起こしているわけでありますからその方がよっぽど危険なんだと、こういう主張も現実に強いわけでありますから、そういったことを考えまして、自由なる通航を日本としては主張をしておると、こういうことでございまして、核積載艦を通さなきゃならないから主張しているんであろうと、こうおっしゃるのは、いささかそれは本旨ではないのでございます。その点は、ぜひともひとつ御理解を賜りたいわけでございます。

○田渕哲也君 私は、そういうことは言っていないわけです。タンカーとかその他の船舶の自由な通航というのは、大いにこれは主張すべきなんです。ただ、わが国の非核三原則と、そういう海洋法が決まったときのあり方によって、これは非常に大きな矛盾ができるだろうと思うんですね。自由な通航で核艦船も通れるように海洋法が決まった場合、わが国が非核三原則をあくまで守ろうとするならば、その海洋法に調印するというのは矛盾ではありませんか。この点はいかがですか。

○国務大臣(鳩山威一郎君) まだ海洋法会議の最終結論がいかようになるか。その条文までできてないわけでございますけれども、そういう際に日本は調印すべきかすべきでないか、これはよく日本としての国益を考えまして決せなけりゃならない大事な問題であろうと考えます。日本として海洋秩序というものをほかの国並みに守っていくか、日本だけ特殊な制度を設けるかという点につきましては、これはよく国益を考えて決すべきことであろうと。いずれにしても、現在の段階におきましては、海洋法会議の結論でいかなる海峡通過というような方式が確立されるか、その際に、日本として日本の権限がどのように及ぼし得るのか、こういったことを考えて決すべきことであろうと、このように思うのでございます。

○田渕哲也君 時間がありませんから、最後に一言だけ申し上げますけれども、私は、今回の領海法のこの附則の2というのは、当然こういう論議をしなければならない問題を避けておるわけです。私は、いずれ国連の海洋法会議で、妨げられない通過通航権が普遍的な法則として認められる、核艦船もそれに含むんだと、恐らくそうなる公算が私は強いと思うんですね。アメリカ、ソ連は、核艦船の通過通航権を認めないということは恐らく賛成しないでしょう。そうすると、そういうかっこうで海洋法会議で結論が出た場合に、日本がこれを十二海里に領海を広げた場合に、またこの問題が提起されるわけです。その場合に、日本がいままで政府の答弁のようなかっこうで非核三原則を守ろうとすると、この海洋法というものに調印をしないか、あるいはそのときもなおかつ領海は広げないか、どちらかしかなくなるんじゃないですか。この点、私は、今回の領海法というのは非常にこういう点こそくな手段でやっているから、結局こういう問題を後に持ち越しているわけです。そういう点を指摘したいと思いますけれども、いま申し上げたように、本当に非核三原則を守ろうとすると、海洋法会議で核艦船の通過が国際海峡で認められた場合は、日本は調印をしないか領海を広げないか、どっちかの立場しかなくなりますよ。この点はいかがですか。

○政府委員(中島敏次郎君) その点につきましては、先ほど来外務大臣からもお答え申し上げておりますように、それから私からも御説明いたしましたように、いわゆる国際海峡における通航制度の海洋法会議の最終的な結論がどういうことになるかということいかんだろうと思います。その結論を見て、非核三原則の問題は対処するということ以外にいたし方ないのではないかというふうに考えております。

○田渕哲也君 大臣は何かありますか。

○国務大臣(鳩山威一郎君) 現状におきまして、この非核三原則の問題、核積載艦の通過をどう扱うかという点を解決をしないで逃げているではないかと、こういう御指摘でございますけれども、現状におきまして、国際海峡の通航制度が決まっておらないという段階におきましては、今回の案のようなこと――ほかにいろいろ方法はあろうと思います。あるいは自由通航帯というものを設定をするという考え方もあろうかと思いますけれども、現実におきまして、政府の提案という案は、自由な通航を認めるそういう航行帯をつくるようなこととほぼ同じような効果を、領海を三海里にとどめるということで果たしているわけでございまして、現時点におきまして、政府としてこのような方式が一番国際的にも理解されやすい制度であろうということで、このような案としてお出ししたわけでございます。

○田渕哲也君 終わります。

○委員長(橘直治君) 以上で予定の質疑は全部終了いたしました。
 本連合審査会はこれにて終了することに御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○委員長(橘直治君) 御異議ないと認めます。よって、連合審査会は終了することに決定いたしました。
 これにて散会いたします。
   午後三時十六分散会



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