漁業法違反 最高裁判所第二小法廷決定  (いわゆる北島丸事件)

裁判要旨:
国後島ケラムイ崎北東約五海里で同島沿岸線から約二・五海里の海域は、漁業法六六条一項の無許可漁業禁止の効力が及ぶ範囲に含まれる。


昭和44(あ)89
事件名 漁業法違反
裁判年月日 昭和45年09月30日
法廷名 最高裁判所第二小法廷 決定
結果 棄却
判例集等巻・号・頁 刑集 第24巻10号1435頁

原審裁判所名 札幌高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日 昭和43年12月19日



主    文
 本件各上告を棄却する。

理    由

 弁護人野口一の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない(原判決の維持する第一審認定事実によれば、被告人両名は、外三名とともに、北海道知事の許可を受けないで、昭和四一年八月二一日、国後島ケラムイ崎北東約五海里で同島沿岸線から約二・五海里の海域において、漁船A(九・二四総トン)を使用し、ほたてけた網によりほたて貝約八〇〇キログラムを採捕し、もつて小型機船底びき網漁業を営んだというものであるところ、原判決は、一般に漁業法における漁業禁止の範囲と許可可能の範囲とがつねに一致しなければならない理由はない旨の見解のもとに、国後島に対しては現在事実上わが国の統治権が及んでいない状況にあるため、北海道知事が同島の沿岸線から三海里以内の海面については漁業法六六条一項所定の漁業の許可を与えることが考えられないとしても、漁業調整の見地から前記本件操業海域は漁業法六六条一項の無許可漁業の禁止の効力が及ぶ範囲に含まれるものと解すべきである旨判断しているが、この判断は、正当として是認すべきである。)。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
  昭和四五年九月三〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一


北海道海面漁業調整規則違反 最高裁判所第一小法廷判決

(いわゆる第2の北島丸事件)

裁判要旨
一 北海道海面漁業調整規則三六条は、北海道地先海面であつて、漁業法、水産資源保護法および北海道漁業調整規則の目的である水産資源の保護培養および維持ならびに漁業秩序の確立のための漁業取締りその他漁業調整を必要とする範囲の、わが国領海における漁業および公海における日本国民の漁業のほか、これらのわが国領海および公海と連接して一体をなす外国の領海における日本国民の漁業にも適用される。

二 北海道海面漁業調整規則五五条は、わが国領海における同規則三六条違反の行為のほか、公海およびこれらと連接して一体をなす外国の領海において日本国民がした同規則三六条違反の行為(国外犯)をも処罰する旨を定めたものである。

三 北海道海面漁業調整規則三六条により日本国民が国後島ノツテト崎西方約三海里付近の海域において同条に掲げる漁業を営むことは禁止され、これに違反した者は、同規則五五条による処罰を免れない。




昭和44(あ)2736
事件名 北海道海面漁業調整規則違反
裁判年月日 昭和46年04月22日

原審裁判所名 札幌高等裁判所
原審裁判年月日 昭和44年11月06日

判例集 刑集 第25巻3号451頁


  主    文

 原判決および第一審判決を破棄する。
 本件を釧路地方裁判所に差し戻す。

 理    由

 検察官の上告趣意について。
 原判決の維持する第一審判決の確定した事実によれば、被告人は、父A所有名義のB丸(総トン数六・九四トン)に船長兼漁撈長として乗り組んでいたものであるところ、Cほか二名を同船に乗り組ませ、漁業権または入漁権に基づかないで、昭和四二年一〇月五日午前六時頃から同日午前九時三〇分頃までの間、国後島ノツテツト崎西方約三海里付近の海域において、同船により刺し網約三〇反を使用してさけ約一七〇尾を採捕したが、この採捕にあたり被告人が刺し網を投網設置し、または揚網した海域(以下、本件操業海域という。)が国後島の沿岸線から三海里を越えていたかどうかは断定できないというのである。

 そして、原判決は、(一)漁業法六五条一項一号および水産資源保護法四条一項一号の場所的適用範囲は、一般的にわが国民の漁業の操業が可能な海域と考えるべきであるが、外国の領海はかかる海域に属さない。(二)漁業法六五条一項一号、水産資源保護法四条一項一号に基づく命令における禁止の場所的適用範囲は、少なくともその命令において許可等(免許を含む。)による解除が留保されている場合には、その許可等の可能な場所的範囲と一致して考えられるべきであり、外国の領海は、当該外国との間の特別の取決め等があれば別であるが、これがない以上、許可等による禁止の解除が可能な海面ではないから、北海道海面漁業調整規則三六条の場所的適用範囲は外国の領海に及ばない。(三)外国の領海においては、わが国は漁業法一三四条等に基づく漁業取締りの実力を行使することができないものであり、このことも、以上のような解釈の一つの根拠となる。(四)漁業法および水産資源保護法は、いわゆる行政法規であり、明文の規定がなく、またはその目的ないし性格から明確にその趣旨が推認できない以上、その場所的適用範囲は外国の領海に及ばない。(五)ところで、国後島およびその領海は、領土的な帰属はともかくとして、現在ソヴイエト社会主義共和国連邦が属地的に統治し、わが国の統治権を行使しえない点で外国およびその領海と同一視することができ、それゆえ、以上に述べたような理由によつて、同島沖三海里以内の海面は、外国の領海と同様に、漁
業法六五条一項一号、水産資源保護法四条一項一号、さらには北海道海面漁業調整規則五五条一項一号、三六条四号による規制の対象とされていない場所と見るべきであり、本件操業海域がかかる場所であることの可能性があり、国後島の沿岸線から三海里を越えた公海であることの証明がない以上、結局本件公訴事実は犯罪の証明がないことに帰する旨判示し、同様な理由により被告人に対し無罪を言い渡した第一審判決を維持し、検察官の控訴を棄却したものであつて、所論引用の札幌高等裁判所昭和四三年(う)第一一四号同年一二月一九日言渡の判決(高等裁判所刑事判例集二一巻五号六五四頁)と相反する判断をしたものであることは、所論のとおりである。

 思うに、漁業法六五条一項および水産資源保護法四条一項の規定に基づいて制定された北海道海面漁業調整規則(以下、本件規則という。)三六条の規定は、本来、北海道地先海面であつて、右各法律および本件規則の目的である水産資源の保護培養および維持ならびに漁業秩序の確立のための漁業取締りその他漁業調整を必要とし、かつ、主務大臣または北海道知事が漁業取締りを行なうことが可能である範囲の海面における漁業、すなわち、以上の範囲の、わが国領海における漁業および公海における日本国民の漁業に適用があるものと解せられる(本件規則前文、一条、漁業法八四条一項、昭和二五年農林省告示一二九号「漁業法による海区指定」参照)。そして、わが国の漁船がわが国領海および公海以外の外国の領海において漁業を営んだ場合、特別の取決めのないかぎり、原則として、わが国は、その海面自体においてはその漁船に対する臨場検査等の取締り(漁業法一三四条参照)の権限を行使しえないものである。しかし、前記各法律および本件規則の目的とするところを十分に達成するためには、何らの境界もない広大な海洋における水産動植物を対象として行なわれる漁業の性質にかんがみれば、日本国民が前記範囲のわが国領海および公海と連接して一体をなす外国の領海においてした本件規則三六条に違反する行為をも処罰する必要のあることは、いうをまたないところであり、それゆえ、本件規則三六条の漁業禁止の規定およびその罰則である本件規則五五条は、当然日本国民がかかる外国の領海において営む漁業にも適用される趣旨のものと解するのが相当である。すなわち、本件規則五五条は、前記の目的をもつ前記各法律および本件規則の性質上、わが国領海内における同規則三六条違反の行為のほか、前記範囲の公海およびこれらと連接して一体をなす外国の領海において日本国民がした同規則三六条違反の行為(国外犯)をも処罰する旨を定めたものと解すべきである。

 ところで、国後島に対しては、現在事実上わが国の統治権が及んでいない状況にあるため、同島の沿岸線から三海里以内の海面については、北海道知事が日本国民に対し漁業の免許もしくは許可を与え、または臨場検査を行なうことができないものであるとしても、また、かりに本件操業海域が同島の沿岸線から三海里以内であつたとしても、同海域は、前記範囲のわが国領海および公海と連接して一体をなす海面に属するものであるから、以上に述べたとおり、本件規則三六条によつて日本国民が本件操業海域において同条に掲げる漁業を営むことは禁止され、これに違反した者は本件規則五五条による処罰を免れないものと解すべきである。
 しからば、被告人の本件所為に対し罪責を問いえないとした原判決および同旨の第一審判決は、いずれも法令の解釈適用を誤つた違法があるものである。そして、原判決が所論引用の札幌高等裁判所判決と相反する判断をしたものであることは、前示のとおりである。
 よつて、刑訴法四〇五条三号、四一〇条一項本文、四一三条本文により、原判決および第一審判決を破棄し、さらに審判させるため、本件を釧路地方裁判所に差し戻すことにし、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。

 検察官山室章、同臼井滋夫 公判出席
  昭和四六年四月二二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
 裁判官    長部謹吾は退官につき署名押印することができない
         裁判長裁判官    岩   田       誠


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