台湾の帰属は条約上未確定であるとの政府見解

 昭和39年の外務委員会・予算委員会で池田総理大臣は、台湾の帰属は連合国が決めるのであって、中華民国の本来領土ではない、との日本政府の見解を示した。
 また、中華民国が支配している状態を「これは不法占拠と申しますか、私は未確定の問題で、一応観念上あそこを支配しておるぞと、こう考えております」と説明している。



昭和39年02月06日 衆議院 外務委員会

○藤崎説明員(外務事務官)
 台湾の帰属の問題につきましては、御指摘のように、カイロ宣言では、中華民国に返させるというカイロ宣言の当事国の意思の表明がありました。これはポツダム宣言で確認されておりますが、最終的な領有権の問題については、日本の平和条約で、日本から放棄されるだけであって、将来の連合国間の決定にまかされておるというのが連合国の見解でございます。



昭和39年02月29日  衆議院 予算委員会


○岡田委員 ・・・総理大臣に伺います。条約問答ばかりで退屈でしょうから、総理大臣に伺いますが、それでは台湾の領土が未確定であるとするならば、総理大臣に伺いたいのは、終戦以来、特にサンフランシスコ条約の発効以来、いわゆる中華民国政府が台湾を支配しておるというのは、法的に何と説明しますか。不法占拠以外に説明ができないじゃありませんか。不法占拠でしょう、法律上。

○池田国務大臣 日本が放棄してまだ帰属はきまっていない。しかし、カイロあるいは。ポツダム宣言によりまして、将来は中華民国の領土になるべきものだというふうな一応の観念は、あったかもわかりません。しかし、そういう中華民国に帰るべきだというふうな気持ちはありましたでしょうが、法律的には帰っていない、こういうことでございます。だから、これは不法占拠と申しますか、私は未確定の問題で、一応観念上あそこを支配しておるぞと、こう考えております。

・・・

○岡田委員 その次。総理大臣は、台湾の帰属についても再三答弁をされております。その答弁は、帰属未確定という立場に立っておられます。たとえば、一月三十日の横路質問に答えて、「カイロあるいはポツダム宣言においては中国に入れるということに一応の話はなっておりますが、日本との平和条約で、日本は放棄したということだけで、どこに帰属するともきまっていないのが実情でございます。」このように御答弁になっておられます。以上の論拠に立って、という見解が、政府の見解でございますが、これは間違いございませんか

○池田国務大臣 日本は放棄しただけでございます、連合国に対しまして。したがって、これを客観的に、連合国が確定しておりませんから、未確定と言い得ましょう。日本は放棄しただけ、これが法律上の日本の立場でございます。

・・・

○岡田委員 それじゃもう一歩進めます。それでは国際通念上台湾をいわゆる中華民国の領域と認めるものではなくて、あなたのおっしゃったのは、将来認めるべきものと、そういう意味に解釈をしているのだ、これが政府の見解である、こういうようにとってよろしゅうございますか。

○池田国務大臣 認めるべき問題と言っておるのじゃございません。経過がこうなっております。将来これは連合国できめるべき問題、ただ経過的には中華民国に属すべきものであるということの一応の合意はできておったが、その後にできたサンフランシスコ講和条約ではそれをきめていない。しかし、いま現に施政しております中華民国のものとして――法律的ではない、領土権の問題ではなく、施政は一応は妥当と申しますか、一時的な便法措置と考えております。

○岡田委員 ちょっとその点では了解しないのですが、重要な点を御発言になっているので伺いますが、連合国が台湾の帰属を決定するものなのですか。日本政府の見解はそうなのですか。それを伺っておきます。

○池田国務大臣 日本は放棄したのでございますから、その放棄の相手は調印した連合国でございます。

○岡田委員 しかし、連合国がきめるべきものと先ほど御答弁になりましたね。ですから、そうでございますか、これは重要な点です。

○池田国務大臣 そのとおりでございます。調印した連合国がきめるべきものであります。

○岡田委員 それじゃ、これは蒋介石にも聞こえることなのですが、台湾の帰属は連合国がその帰属をきめるべきものであって、いわゆる中華民国の本来領土ではない、こういうことですね、日本政府の見解は。

○池田国務大臣 法律的にはそのとおりでございます。しかし、政治的の問題は、先ほど申しましたように、中華民国が現に施政をしておるということは忘れることはできますまい。

○岡田委員 現実の問題は知っております。法律的な問題を明確にしておかなければならない。法律的にはそういう解釈をおとりになっているという点は私は非常に重大だと思う。中国の内部――あなたは観念的にと、お話しになった。先ほど観念的に中国大陸を含めたその地域を代表する。いわゆるチャイナということばも使われた。その中の問題であるというのに、その台湾は法律的には中国の人によってきめられるのではなくて、外国人である連合国によってきめるのだ、こういう解釈をおとりになった。これは非常に重大な問題ですが、もう一度確認しておきます。

○池田国務大臣 当然のことではございますまいか。サンフランシスコ条約はそういうふうになっておるのでございますから、あなた方認めないかもわかりませんが、サンフランシスコ条約をわれわれは認めている。日本国としてあれしているのであります。その解釈としては、法律的には中華民国のものではない、しかし、事実の問題としては、現に施政しているということはみんなが認めておる、こう言っておるわけであります。

・・・

○池田国務大臣 ちょうど北千島、中千島、樺太はソ連にやっておるのじゃございません。連合国が樺太、中・北千島はソ連のものにあらずと決定することがあると同じように、台湾につきましても、連合国がきめるべき筋合いのものでございます、法律は。

・・・

○池田国務大臣 先ほど来たびたび申し上げますがごとく、サンフランシスコ講和条約の文面から法律的に解釈すれば、台湾は中華民国のものではございません。しかし、カイロ宣言、またそれを受けたボツダム宣言等から考えますと、日本は放棄いたしまして、帰属は連合国できまるべき問題でございますが、中華民国政府が現に台湾を支配しております。しこうして、これは各国もその支配を一応経過的のものと申しますか、いまの世界の現状からいって一応認めて施政権がありと解釈しております。したがって、私は、台湾は中華民国のものなりと言ったのは施政権を持っておるということを意味したものでございます。もしそれ、あなたがカイロ宣言、ポツダム宣言等からいって、台湾が中華民国政府の領土であるとお考えになるのならば、それは私の本意ではございません。そういう解釈をされるのならば私は取り消しますが、私の真意はそうではないので、平和条約を守り、日華条約につきましては、施政権を持っておるということで中国のものなりと言っておるのでございます。



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