昭和三四年最高裁決定

千島列島に属する国後島は、日本国には属しないこととなったものと解する、との決定が下った。


出入国管理令違反被告事件 (昭和34年02月25日) 最高裁判所第二小法廷 決定
(原審裁判所名 札幌高等裁判所)

判示事項 千島列島に属する国後島は出入国管理令第二条第一号にいう本邦に属するか

裁判要旨 日本国との平和条約発効の日以降、千島列島に属する国後島は、出入国管理令の適用上においては、同令第二条第一号にいう本邦には属しないこととなつたものと解するを相当とする。



主文

 本件、上告を棄却する。

理由

 論旨第一項一及び四について。
 所論は事実誤認、単なる法令違反の主張に帰するものであって適法な上告理由に当らない。(所論は要するに被告人は昭和二九年七月中旬漁船恵美丸に乗船して国後島に渡航したが、同島の属する千島列島は、出入国管理令及び回令施行規則において、本邦外の島として掲げられていない。即ち本邦に属するものとされており、これを本邦外とする法規は存在しない。従って被告人の国後島に渡航した本件所為は、何等本邦外の地域におもむく意図をもつて出国したとされるいわれはなく、罪とならないものであるのに、原判決がこれを有罪としたのは、法令の解釈適用を誤ったものであるというにある。しかしながら記録によれば被告人はソ聯領に密出国することを企て、aと共謀して、原審の支持する第一審判決の判示の日〔原判決が昭和二九年一〇月八日頃と判示したのは、同年七月一八日頃の誤記と認める〕。ソ聯領におもむく意図を以て、有効な旅券を所持せず従って旅券に入国審査官からの出国の証印を受けないで、判示海岸から右a所有の漁船恵美丸に同人と共に乗船して出航し、同日夕刻頃ソ聯領下の国後島沖合一五〇米位の海域に到達したものであること原審認定のとおりであって、原審の事実認定に誤りは存しない。そして昭和二七年四月二八日発奴の日本国との平和条約二条(C)は、「日本国は千島列島……に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」旨規定しているのであって、同日の外務省令一二号で千島列島に関する規定が削除されたのも右条約の趣旨に基くものであるから、同日以降、千島列島に属する国後島は、出入国管理令の適用上においては、同令二条一号にいう本邦には属しないこととなったものと解するを相当とする。されば原審のこの点に関して判示するところにはやや妥当を欠く点もあるけれども、結局被告人の本件所為につき原審が出入国管理令六〇条二項、七一条を適用処断したのは正当である。〕
 論旨第一項二及び第二項について。
 所論は要するに出入国管理令は政令であって法律ではないと前提して、政令には特に法律の委任がある場合を除いては罰則を設けることができないこと憲法七i条六号の規定に照して明らかであるところ、出入国管理令には法律の委任がないのであるから、同令に設けられた罰則規定は憲法の右条項に違反し無効である。従って被告人の本件所為につき原審が同令の罰則規定を適用して被告人を処罰したのは憲法三一条、九九条に違反するものであるというにある。しかしながら、出入国管理令は昭和二七年法律八一号及び同年法律一二六号により法律として効力を有するものとされたものであること原審の判示するとおりであるから、所論は前提において誤っており、所論違憲の主張は前提を欠き適法な上告理由とならない。
 論旨第一項目について。
 所論は訴訟法違反の主張に帰するものであって適法な上告理由に当らない(この点に関する原審の判断は正当である)。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

  昭和三四年二月二五日
   最高裁判所第二小法廷
    裁判長裁判官 小谷勝重
       裁判官 藤田八郎
       裁判官 河村大助
       裁判官 奥野健一

判例集 第13巻2号197頁



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