衆議院 - 外務委員会 - 5号 昭和30年12月08日

(省略)
○菊池委員 ヤルタ協定は日本の関せざるところでありますけれども、このヤルタ協定の対象について、外務省当局は米国にただしたということがちょっと新聞に出ておりましたけれども、そのときにこの南千島、歯舞、色丹はこのヤルタ協定の中に入っていたのでしょうか、どうでしょうか、その点…………。
○下田政府委員 ヤルタ協定は、御承知のようにクーリールはソ連に引き渡さるべしとありまして、クーリールというだけでありまして、北千島、南千島、中千島と区別はしていないはもとより、本来の日本の領土であります歯舞、色丹については何らの言及をいたしておりません。
(省略)


衆議院 - 外務委員会 - 6号 昭和30年12月09日

(省略)
○菊池委員 きのうお伺いしたのですが、どうもさっぱりはっきりした御答弁が得られなかったのでありますが、ヤルタ協定の中には、当時の協定国が言っておるクーリール・アイランズの中には、南千島とか歯舞、色丹とか、そういう島もみな含んであるのですかどうですか。
○中川(融)政府委員 クーリール・アイランズといいました場合にどういう島を含むかということは、これは島の名前が列挙してあればわかるのでありますが、島の名前が列挙してない場合には、事実上の問題としてこれを考えなければならぬのでありますが、日本から考えてみまして、明治の初めに日露間で協定ができました際には、これは島の名前は列挙してあったのでありますが、その際にはクーリール・アイランズと書いてありましたが、カッコをして書いてある島には、南千島は入っていないのであります。従ってわれわれは、ロシヤとの法律関係、条約関係におきましては、クーリール・アイランズという場合には、南千島は入っていないと解釈しておるのであります。その立場から日ソ間の交渉を続けておることは御承知の通りでございます。
○菊池委員 サンフランシスコ条約において日本が放棄したのは、南樺太とウルップ以北、つまり南千島、歯舞、色丹は含んでいないというわけでございますか。サンフランシスコ条約のときに、その島の名前ははっきり明示して放棄したのですかどうですか、その点ちょっと……。
○中川(融)政府委員 御承知のように、サンフランシスコ条約には島の名前は書いてないのでありまして、先ほど申しましたように、事実上の解釈によってきめることになるわけであわます。日本としては、伝統的な日露間の協定に基くクーリール・アイランズには南千島は入っていない、こういう解釈をただいまとっておるわけでございます。
(省略)


衆議院 - 外務委員会 - 7号 昭和30年12月10日

(省略)
○松本(七)委員 もう一つ、日ソ交渉の領土問題で指摘したいのですが、千島の問題、これは吉田内閣当時は千島を南と北というふうに分けたことはなかったと思う。サンフランシスコ条約においても、これは明確に分けてあるわけじゃないと思うのです。それが最近は南と北を分けてソビエトとの交渉に当っておるようですが、いやしくもポツダム宣言その他からいえば、日本の領土問題については、やはり連合国全体を相手にしなければ最終的な解決はできない、その点は問題ないと思う。政府が南千島だけこの際切り離して、そうして返還をソビエトに要求するということは、今の政府の方針がそういうものであるということは了解できても、今言うような領土問題の経過、性質から考えれば、少くとも日ソ交渉と並行して、連合諸国に爪そういう問題を持ち出してい話を進めるのが順当だと私は思いますが、そういうことはやっておられないのでしょうか、あるいは必要を認められないのでしょうか。
○重光国務大臣 連合国側と申しましても、領土の問題は小笠原と琉球の問題だろうと思います。米国関係でございます。小笠原、琉球諸島は日本の領土であるべきであるという主張は、ずっと続けてやっております。そして潜在主権が認められたということになっております。従いましてこれらの島々に住んでおる人々は日本人として取り扱っておるという状況でございます。しかし、はっきりこれが日本の行政権に返されておらぬことは、これまた事実でございます。その返される日の遠からざることを希望するわけでございます。しかしソ連との関係は、私は少し違うと思います。ソ連はこれから国交を回復しよう、正常化しようというねらいをもって交渉をしておるのであります。米国との関係は、はっきりと平和条約が結ばれて、国交を回復しておるのでありますから、その前提において基礎が違います。しかし国交回復後においても、これらの諸島に対するわが国の希望は常に米国側に表示をしておることは、今御説明した通りでございます。ソ連に対しては、日本の固有の領土、いまだかつて問題に従来なったことのない領土については、国交回復の際にこれは返してもらいたい、こういうことは日本の主張としては私は正しい主張じゃないか、こう思います。それでその主張を続けていたしておるわけでございます。
○松本(七)委員 その説明は、今までの何回もの御説明で政府の考え方というものはわかっておるのですが、私の今聞いておるのはその点ではないのです。千島の問題はただ対ソビエトだけの問題ではないのではないか。というのは、御承知のようにポツダム宣言において、カイロ宣言の条項は履行せらるべく、また日本国の主権は、本州、北海道、九州及び四国並びにわれらの決定する諸小島に局限せらるべし、こういう宣言によって今後のすべての領土問題というものは決定されるのです。ですから、かりに日本が本来の領土であるから当然返してもらうべきだという主張を掲げてソビエトと交渉するとしても、こういうポツダム宣言のあれがある以上は、これは対ソビエトだけでは済まないのではないか。今度は米国とソビエトの間柄で千島の問題をどうするかは一応別として、日本としてはこういうポツダム宣言がある以上は、ソビエトに交渉すると同時に、やはりこのポツダム宣言に基いて、連合国に対して毛、ここで規定されている以外のそういう諸小島についての帰属はやはり話し合いをしなければ最終的な決定はできないのじゃないか。それだから、少くともソビエトに交渉する以上は、並行して連合諸国とも何らかの話し合いをする必要があるのではないか、その点をお伺いしておるのです。
○重光国務大臣 よくわかりました。ソビエト以外の今日日本と平和を回復しておる国々との関係は、これはサンフランシスコ条約で決定をしておるわけであります。そこでサンフランシスコ条約はポツダム宣言を受諾したことから出ておるのでございますけれども、平和を回復するためにすべての条文は平和条約に規定されておるのでございます。そうでございますから、領土問題もこれらの国々に対しては、サンフランシスコ平和条約の規定に従って処理されるべき問題だと思います。サンフランシスコ条約によれば、千島南樺太という地域に対する領土権は日本は放棄しておるのでございます。しかし歯舞、色丹のごとき北海道直属の島々に対する領土権はむろん放棄しておるわけではございません。これはアメリカ初め平和条約調印国もはっきりそう申しておるのでございます。
 さて問題は、千島とは何ぞやという問題になります。千島とは何ぞやという問題は、明確に条約上に規定ほございません。明確にございません。どう解釈するかという問題に結局帰着いたします。南千島というのは・日本からいえば千島じゃない、こういう解釈をとっておるのでございます。南千島は従来千島として取り扱われておらぬ、これは北海道として取り扱われておるのだ、日本とソ連との千島、樺太交換条約にもこれは規定がないのだという歴史をたどってそういうふうに定義をいたしておるのでございます。そこで、それじゃサンフランシスコ条約による千島というのはどうであるか。米国はどういう解釈をそれにしておるか。米国は千島をソ連に譲り渡すというような意味のことをヤルタ協定なんぞでもやっておるようだが、一体どういう地理的な保障になるかというようなことをたださなければなりません。米国側の考え方は、クーリールといううちには、日本がそう主張する日本固有の領土がこの中にあるというふうには考えておらぬのだ。日本がそう主張すると、南千島は固有の領土だとして返還を主張するということにはアメリカもこれは異議はない。しかしヤルタ協定で千島というものはどこからどこまでというような、はっきりした地理的の地図で線を画したことはなかったのだ、こういうふうな大体の説明がございます。そうでありますから、日本は日本として南千島はクーリールのうちに入っておらぬのだ、こういう建前でこの主張を強くするということには、国際的の故障は少しもないと私は思います。そこで、その他の千島、中部以北の千島と南樺太という問題については、これはサンフランシスコ条約にはっきりと日本は放棄したということになっておるのでありますから、この問題については国際的の関係が起ってくる、こう思います。何となれば、サンフランシスコ条約によって領土の放棄を日本から受けた国は条約調印国であります。その調印国はこれに対して利害関係を持っておる、こういうことだ相なるからであります。
(省略)


衆議院 - 外務委員会 - 12号 昭和30年12月16日
(省略)

○穗積委員 外務大臣は時間がありませんから、一、二の点だけお尋ねいたします。
 まず第一は、先月三十日の最初の外務委員会で、私は、日ソ交渉に対する日本の領土権主張の条約上の根拠のことについてお尋ねいたしましたが、時間切れでそのままになっております。そこで続けてお尋ねいたしますが、まず第一に、今度は南千島を松本大使を通じて強く要請するということでありますが、その条約上の根拠はどこに妥当性をお求めになっておられるのか、それが一点。
 それから北千島並びに南樺太は放棄して妥結するというお考えのようですが、それを放棄しなければならないと解釈される条約上の根拠はどこに求めておられるのか、その二点をまず最初にお尋ねいたします。
○重光国務大臣 南千島は今日までの歴史において日本の領土として争われたことのないわけでありますから、日本固有の領土として返還を要求するのが当然だろうと考えます。
 それから北千島、南樺太等はサンフランシスコ条約にも関係いたしますので、これは関係国の合意をもって、ソ連も日本も含めて合意によってその帰属を決定するということが適当な処置だと考えております。
○穗積委員 あとの部分については私はその正当性を理解することができます。ただし、前の南千島につきましては、サンフランシスコ条約は御承知の通り千島列島となっておりまして、国際的常識からいきまして、北千島と南千島とは一括した千島列島であることは言うまでもない。そこで、ソビエト側が言っております、条約でもありましょうということは、言うまでもなく終戦当時の条約で、それの領土条項を簡単に申せば、日本は武力をもって取ったものは返す、それからその次に、北海道、本州、四国、九州並びにその付属の諸島が日本の領土権として認られる、その境界はだれがつけるかといえば、戦勝国がこれを決定するというのが原則だと私は理解しております。ここで次に問題になりますのはヤルタ協定のことでございますが、これは日本は知らなかったということでございますけれども、今、降伏文書に言う戦勝国の決定の中にヤルタ協定の合意は入るか入らないかということは、国際法上解釈のしようでいろいろ問題があろうと思う。そう解釈すればできないことはない。これも、戦勝国の決定の場合には日本が合議に参加する権利も留保してありませんし、また日本の合意を必要とするという条件もついておりません。ですから、そのこと、つまり南千島について一体どういうふうに解釈しておられるか、それが一つ。
 それからサンフランシスコ条約におきまして、これは千島列島となっておって、実はアメリカ側もこれは千島列島全体、南北千島全部で、南千島を除外するものではないという意思を表明しているのであって、いささか条約上の根拠が不明確である。私の考えでは、南千島も含む千島列島全体並びに南樺太の問題につきましては、ロンドン会議においてソビエトだけを相手にして最終的決定をすることは不合理である、お門違いであるから、先ほど北千島並びに南樺太について大臣が言われたような方式を南千島についてもとって、それで今後進むことがこの二つの島に対します領土権主張を早く合理的に実現する方法であるとわれわれは信ずるのですが、その間に対する大臣の所見をもう少し具体的かつ詳細に発表していただきたいと思います。
○重光国務大臣 ポツダム宣言には、なるほど、日本本土並びに本土に付属する島は日本に帰属すべきである、その他の何については、戦勝国といいますか、連合国の指定する地域というような趣旨の――これは文句は私は今はっきり覚えておりませんが、そういう趣旨のことがございます。これを日本は承認をしたのであります。戦敗によって承認をいたしたのであります。その規定によって、そういうことによってサンフランシスコ条約ができておるのであります。ポツダム宣言は、領土の帰属の問題について法律的にはっきりした確定はいたしておりません。これは一つの方針の宣言でございます。それを確定したのがサンフランシスコ条約でございます。サンフランシスコ条約ははっきりして、日本はこれに判こをついておるのでありますから、これはサンフランシスコ条約が認めるところであります。そこでサンフランシスコ条約までさかのぼっていくベきであって、ポツダム宣言はサンフランシスコ条約によってその点は処理されておると見て差しつかえない。だからサンフランシスコ条約によって処理された通りに日本は考えて差しつかえないと思うのであります。そのうちにクーリールとあるのは南千島すなわちわれわれが言う日本の固有の領土、北海道直属のこれらの島々、いまだかつて争われたことのない島々がサンフランシスコ条約による千島であるかどうかということは、調印国の意向特にアメリカあたりの意向も確かめる必要がある。アメリカはクーリールの定義がどういう地理的のものであるかということは線を画してこれをやったわけではない。そこでソ連との関係においてはソ連との話し合いによってこの点はきまっても、自分らは異存がない、こういう大体の考え方であることははっきりしております。そこでクーリールの問題も、今度ソ連と平和条約を締結しようというのでありますから、ソ連と交渉しなければなりません。そこで千島の問題については日本はこういう考えを持っておるのだということを十分に主張することは妥当なことだと考えております。
○穗積委員 南千島は含むか含まぬかサンフランシスコ条約調印国全部に確かめてあるのですか。
○重光国務大臣 確かめてあります。
○穗積委員 どういうことですか。
○重光国務大臣 それはサンフランシスコ条約を締結するときに線を画してはっきりどこがどうだということは、そのときには合意によってきめておらぬ。そこで千島というのはどこまでいくかということは、今度ソ連との関係において平和条約によってこれを交渉して差しつかえない。またそういう趣旨であるということを承知したのであります。それですからこれは交渉によってソ連との関係できめて差しつかえない。それならばこれをどういうふうにやるかということは……。(穗積委員「千島列島は南千島も入るんだ、当りまえじゃないか」と呼ぶ)それはなかなかむずかしいのだ。そこでそれは話し合いによってきめるということは差しつかえないと思います。それだけ私は申し上げ得るのであります。それから先それはどうするかという意見は一つ差し控えたいと思います。
○穗積委員 これは遺憾ながら非常な私は驚くべき答弁だと思うのです。つまりサンフランシスコ条約でいう千島列島はあなたは南千島は含まないというふうに理解しておる。相手は、国際通念によれば千島列島という言葉は南千島、北千島一連の列島をいうことは明瞭であります。(「そんなことはない」と呼ぶ者あり)それをこっち側は含まないと解釈したとしても、サンフランシスコ条約の締約国――アメリカ初めすべての国がこの条約解釈については、南千島は含まないということをはっきりと何らかの条約と同等以上の確かさをもってこれを確約を得なければならない、その点ができておらぬことが一つ。それからもう一つ大臣にお尋ねいたしますが、それでは放棄いたしました南樺太と北千島はソビエトの領土に帰属したと解釈しておられるかどうなのか、不確定なものであるかどうか。ソビエトの領土として確認しておられると私は解釈する。そうでなければ北千島と南樺太の問題をソビエトと話し合いをするとか、またはその南千島が含まれないといたしましても、それをソビエトだけと交渉するということにはならないと思うので、南千島、北千島並びに南樺太はソビエトのものになったと確認しておられる論理になると思うがどういうことでございますか。南千島から三つに分けて正確に説明していただきたい。
(省略)
○穗積委員 領土権に関する条約上の問題というものは債権とは違います。私があなたに借金があって、私が委員長に貸金がある場合、借金はそのままにして、私は貸金だけを請求する権利はあります。しかし領土権というものは、すべての第三者に対抗しなければならぬものです。そこでアメリカと結んだ条約は、ソビエトその他の未締約国には関係がないといいましても、これは違います。主権といえば所有権のようなものだ。それでこの土地に対してそれが私のものであるか、ものでないかはっきりしないような登記をしておいて、そして他の第三者に向っては、これはおれのものだというのを確認した登記をしてもらいたい、そういうようなことは通る話ではありません。ですからこの条約の内容というものは、読んで字のごとくである。あなたがアメリカと秘密的に話をしたとかせぬとかいうことは、何ら国際諸国をオブライジするものではありません。だからあくまで条約は条約の文書によっていかなければならない。千島列島というのは、これは通念的にそうであるし、あなたがそう解釈されるなら、南千島は別だということを条約と同等の効力のある文書によって、アメリカその他の締約国から確認を求めなければならぬ。それもしないで、ソビエトに要求してソビエトにそういう論理が通るはずがありません。
(省略)
○重光国務大臣 話し合いをやっておるときにこちらが主張するということは当然じゃありませんか。ソビエトだけの主張をわれわれに聞かせろ、こういうことは無理じゃありませんか。第三者に対抗することができないから、ソビエトの話も聞いて、交渉をしよう、こういうのです。そして交渉しておるわけです。(穗積委員「できませんよ」と呼ぶ)それをできねというのはどういうことか知らぬが、それは私はできぬことはないと思う。
(省略)
○岡田委員 先ほどの穗積君の質問いたしました問題について、もう一度伺いたいと思います。サンフランシスコの条約の第二条のCには、穗積君の言われましたような「千島列島並びに」そのあとまくら言葉みたいなのがずっとあって、「樺太の一部」という意味で、この地域に対する「権利、権原及び請求権を放棄する。」こういうように明文化されております。そこで国際交渉というものは何といいましても、私が申し上げるのはしゃかに説法かもしれないが、国際法上の通念を基礎にして、社会通念として通る常識的な基礎の上に立って交渉しなければ、いかに強いことを言っても、いろいろなことを言っても、単にはったりになってしまって、これは国際交渉としては話は成立ができないものだと私は思うのです。そこで考えて参りますことは、千島列島という言葉の概念の中に、南千島を除くという通念が出てくるかどうか、この点が非常に問題になるわけなのですが、私は北海道に生まれ北海道に育った、ですから千島と北海道あるいは歯舞、色丹の場合の関連を、われわれとして一番近接しているだけに感じます。その感じた通念からいうならば、歯舞、色丹というのはこれは北海道に付属する諸島と見るべきだと思う。しかし南千島といわれる国後、択捉島というのは、私は行ったこともあるけれども、これは北海道に結びついた島と理解すべきものでなくて、これはやはり千島列島として理解すべきものである、こういうように理解をするのが社会上の通念として当然だと思う。とするならば、この中で千島列島という明文上の規定があるとするならば、そして南千島というものを別に何らか交渉の対象にするとするならば、これは何らか日本の政府としての論拠がなければならぬと私は思う。ところが遺憾ながらこの条文上に明記されている限りにおいて――この下にたとえばカッコでもして、南千島を除くと書いてあれば、これはまた別ですけれども、その条文上の規定のない限りにおいて、千鳥列島の中には当然南千島というものが入ってくると理解すべきであると私は考える。ですから、交渉するのは自由だというお話であります。それは自由かもしれません、自由かもしれませんが、しかし社会通念として通った筋に立って――穗積君のさっき言ったのはその筋に立って、相手の納得し得るような理論的な根拠の上に立って交渉すべきではないか、とするならば南千島というものを除くという法理的な国際法上の、あるいは社会通念上の論拠というのは成り立たないことになってくるのではないか、こういうように私は考えるわけです。そこでことさらに南千島というものに対して、何らか法理的な根拠というものがあるならばこの点をお示し願いたいということを穗積君が伺ったのだろうと思うし、たとえばソビエトが今の交渉よりも一歩下げて、それではサンフランシスコ条約の通りにいたしましょう、こういうように向うから申し入れて参りました場合において、日本側としてサンフランシスコ条約では困りますという論拠は成り立たないわけです。なぜならばサンフランシスコ条約をわれわれは締結しているからです。そういう点からいっても、やはり今後の問題になるわけですから――私は今後の交渉の内容について伺おうとはいたしません。むしろその法理的な根拠なり、そういう客観的な根拠があるかどうかという点について、もう一度私は冷静な気持で伺っておきたいと思います。
○重光国務大臣 今るる述べられましたそのお考えについて、私も全然そう考えております。そうでなければならぬと思います。そこでもし穗積先生の御質問がそうであったならば、それは私は、この考え方は全然その通りに考えます。これは国際通念でやらなければ、ただこちらの一方的にきめたことを相手に持ち出していったからといって、それは通るものではありません。そこに国際交渉の非常に重要な心がけがなければならぬとこう思う、それは全然その通りである。ただ問題は、今言われた通りに、サンフランシスコ条約は守らなければならぬ、それはその通りです。であるから、利害関係国の間に意見の一致を見るようにすることが適当であるといって、こちらがソ連に交渉するわけです。ただ問題は、南千島が一体千島列島に入っているか入っていないかという問題なのです。そこでサンフランシスコ条約には、千島のことを英語でクーリールというのですが、そのクーリールのことが書いてあるかどうかということが問題なのです。ところがそのクーリールのことについて果してどこからどこまでがそうなのか、むろん歯舞、色丹はそれに入っていないとみなが了解すれば、そのうちでどこから国後、択捉が入っておるかどうかということは、そのときにははっきり検討していなかった。だから、これはその交渉の題目に供することには異存がない。しかしそういうことをやるのはサンフランシスコ条約の関係だということで、そういうことを幾ら言ってみても――よしんばサンフランシスコ条約では国後、択捉は日本の領土だということになったのだ、こういう解釈をサンフランシスコ条約の調印国、ことにアメリカから得たと仮定すると、得たと仮定したってそれもソ連の交渉においてそれだから当然日本のものじゃないかというわけにはいかない。なぜいかないかというと、サンフランシスコ条約にはソ連は調印をしていないからそういうわけにいかない。日本の有力な交渉の根拠にはなるけれども、それだから、ソ連が当然これを認めるというわけにはいかない。だから、ソ連がサンフランシスコ条約の通りでよろしい、こういうならそのときば別である。そこにまたソ連との一つの交渉があるわけだが、そこで日本が主張する根拠いかんということになるわけである。その根拠は、私の言葉でいえばこの二つの島は、これはあなたは北海道生まれとして北海道の直属の島でないから、主張しない方がいいとこう言われるわけでありますが、私どもの観念ではやはり北海道直属の島だ、こう見ておる。この点はあなたがあそこに生まれてそう言われるのだとすると、またこれは私の方の根拠が薄くなるわけだが、(笑声)しかし私の方はそう考えている。のみならずこれはなぜわれわれがそう考えるかというと、一体千島と樺太というものは、これはいわゆるロシヤとの間に千島、樺太交換条約というものを一八七五年に結んでいる。そのときにはもう初めから国後、択捉というものは日本の領土になっていたので、交換の対象になったものは国後、択捉の島ではなくして、その以北の島になる。ロシヤとの関係にはそういう歴史的ななにがはっきりあるわけです。それではこれをソ連がそれはそうだといって認めるかどうかということは、これは交渉の結果に待たなければいかぬ。しかし日本としてはそれは根拠がある、正当な根拠がそこにあるのだ、こういうことを主張する場合にはそれは非常に有力になるわけです。
(省略)





北方領土問題の先頭ページへ   北方領土問題関連資料のページへ