サンフランシスコ条約締結当時、日本が放棄した千島に国後・択捉が含まれると解釈されていた。衆議院決議においても、北方領土は、歯舞、色丹島の引渡を求めるものだった。


決議、決議の趣旨説明、日本共産党の反対討論を掲載する。

 日本共産党は、歯舞・色丹は国際間の協定としてソ連に編入され、国際間において公然と承認されている、と主張している。




昭和27年7月31日 衆議院決議 

領土に関する決議

 平和条約の発効に伴い、今後領土問題の公正なる解決を図るため、政府は、国民の熱望に応えてその実現に努めるとともに、時に左の要望の実現に最善の努力を払われたい。
 一 歯舞、色丹島については、当然わが国の主権に属するものなるにつき、速やかにその引渡を受けること。
 二 沖縄、奄美大島については、現地住民の意向を充分に尊重するとともに、差し当り教育、産業、戸籍その他各般の問題につき、速やかに、且つ、広い範囲にわたりわが国を参加せしめること。なお、右に関して奄美大島等については、従来鹿児島県の一部であつた諸事情を考慮し特別に善処すること。
 三 小笠原諸島については、先ず旧住民の復帰を実現した上、教育、産業、戸籍その他各般の問題につき、速やかに、且つ、広い範囲にわたりわが国を参加せしめること。
  右決議する。




(決議の趣旨説明)

北澤直吉君 ただいま上程されました自由、改進、社会、社会第二十三控室、各党共同提案にかかる決議案につき、提案者を代表してその趣旨を弁明いたします。
 まず決議案を朗読することをお許し願いたいのであります。
   領土に関する決議案
  平和条約の発効に伴い、今後領土問題の公正なる解決を図るため、政府は、国民の熱望に応えてその実現に努めるとともに、時に左の要望の実現に最善の努力を払われたい。
  一 歯舞、色丹島については、当然わが国の主権に属するものなるにつき、速やかにその引渡を受けること。
  二 沖縄、奄美大島については、現地住民の意向を充分に尊重するとともに、差し当り教育、産業、戸籍その他各般の問題につき、速やかに、且つ、広い範囲にわたりわが国を参加せしめること。なお、右に関して奄美大島等については、従来鹿児島県の一部であつた諸事情を考慮し特別に善処すること。
  三 小笠原諸島については、先ず旧住民の復帰を実現した上、教育、産業、戸籍その他各般の問題につき、速やかに、且つ、広い範囲にわたりわが国を参加せしめること。
  右決議する。
 元来、一国の領土は、歴史的、精神的に見て、その国民と密接不可分の関係にありまして、従つて領土問題が一国の国民感情に重大なる関係を有しますことは、いまさら多言を要しません。特にわが国のごとく敗戦によつて領土の約半分を失い、現に北海道、本州、四国及び九州の四つの島に八千四百五十余万の大人口を擁し、しかも年年百万以上の人口の自然増加を見つつある国においては、国家民族の存立を維持し、その発展をはかることは決して容易の業ではないのであります。私どもは、日本の存立発展のためにも、はたまた極東の安定平和のためにも、わが国の領土問題及びこれに関連して人口問題が公正に解決せられることを望んでやまないのであります。歴史的に、民族的に、かつて日本の領土であつた地域及びその住民が、いつまでも外国の支配下にあることは、あたかも肉身を切られるがごとき思いをいたし、国民感情としても、まことに忍びがたいものがあるのであります。
 過般も、米国共和党大会において、ヤルタ協定の廃棄が正式に共和党の策に取入れられましたことは、私どもの意を強うするところであります。領土問題については、対日平和条約に関連をして、本院においてもしばしば熱心に論議せられ、また再三にわたり決議をいたしたのでありますが、私どもは平和条約発効後の新しい事態に処し、この際において領土問題の公正なる解決を促進するため、さらに具体的要望を表明し、政府当局の善処を促すことが時宜に適するものと認め、本決議案を提出いたしました次第であります。
 本決議案の第一点は、歯舞、色丹に関する問題であります。これら諸島が、元来歴史的、民族的に見て日本の主権に属することは、一点の疑いもないのでありまして、サンフランシスコ平和会議において、米国全権ダレス氏もこの点を明瞭にいたしておりますことは、諸君御承知の通りであります。これら諸島が現在不幸にしてソ連の不法占領するところとなつておりますことは、まことに遺憾しごくであります。ソ連と日本とは、いまだ国交を回復するに至つておらないのでありますが、政府においては、あらゆる可能な方法において、歯舞、色丹が可及的すみやかに日本に引渡されるよう善処を要望するものであります。
 本決議案の第二点は、奄美大島、沖縄に関するものであります。これら諸島に対しては、対日平和条約第三条により、米国を唯一の施政権者とする信託統治制度のもとに置かんとする国際蓮合に対する合衆国のいかなる提案にも日本は同意すること、及び、このような提案が行われ、かつ可決されるまで、合衆国はこれら諸島の領域及び住民に対して行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権力を有することとなつております。ダレス米国全権が、サンフランシスコ平和会議において、これら諸島に対する潜在的主権は日本に存することを明言しておりますことも、御承知の通りであります。私どもの見るところでは、これらの諸島を米国の信託統治下に入れることは、現在の国際情勢にかんがみ、その実現はなかなか困難であり、従つて、現在のように米国がこれら諸島に対し行政、立法及び司法上の権力を行使する状態が継続するものと思われますが、現に琉球立法院においては、ほとんど全会一致をもつて日本復帰に関する決議案を可決し、さらに奄美大島においては、全住民の九九・八%までが日本完全復帰に署名いたしておる現状であります。また、わが国八千万同胞も、同様にこれら諸島の日本完全復帰を熱望しておりますことは、御承知の通りであります。政府においては、この国民の当然の要望に対し十分の考慮を払われたいのであります。
 特にさしあたり要望したいことは、米国がこれら諸島に対する行政、立法及び司法上の権力の行使にあたつては、現地住民の立場、利益ないし希望を十分尊重し、また将来なるべくすみやかに、またなるべく広い範囲にわたつて、日本がこれら諸島の教育、産業、戸籍その他各般の問題につき参加することであります。また、これら諸島と日本とは、歴史的、民族的にきわめて密接なる関係にありますので、両者間の交通、経済関係をでき得る限り緊密ならしめることを希望するものであります。特に奄美大島等は、従来鹿児島県の一部であり、他の沖縄諸島と趣を異にし、特殊の事情がありますのて、奄美大島等、従来鹿児島県の一部であつた地域については、特に住民の意思を尊重し、一部行政事務を日本側に委任する等の措置につき、政府の特段の努力を要望したいのであります。
 本決議案の第三点は、小笠原諸島に関するものであります。小笠原諸島は、平和条約においては沖縄と同様の取扱いを受けておりますことは御承知の通りでありますが、小笠原の旧住民は全部内地に引揚げておりますので、まずもつてこれら旧住民の小笠原復帰を実現するよう政府の善処を要望したいのであります。しかして、住民の復帰が実現したあかつきにおいては、沖縄と同様に住民の要望を十分に尊重するとともに、教育、産業、戸籍その他各般の問題につき、なるべくすみやかに、かつ広い範囲にわたり日本の参加を認めるよう、政府の努力を要望するものであります。
 以上をもちまして本決議案の趣旨弁明といたします。本決議案に対しまして満場の御賛成をお願いいたす次第であります。(拍手)




(日本共産党の反対討論)

井之口政雄君 私は、日本共産党を代表いたしまして、この決議案にまつこうから反対いたします。
 そもそも講和条約を結ぶにあたつて、その国が領土を失うか失わないかということは非常に重大な問題である。しかるに、諸君は、アメリカとの単独講和によつて、すでにこれらの八丈島並びに奄美大島、沖縄諸島は当然日本に復帰すべきところのものであり、アメリカの軍事基地にこれを絶対させてはならぬものであることは明らかであるにもかかわらず、その当時それをやらずして――それのみではない。日本全土に六百箇所からの施設並びに地区の無期限あるいはその他これの無償によるところのほとんど明渡しを承認しておきながら、今ごろになつてこれを出して、そうしてこの条約によつて一切日本が独立したかのごとき幻想を與え、まつたく国民を欺瞞しようとするところのものである。こうした決議案に対しては、当然反対せざるを得ない。
 なお、その内容について検討してみまするに、この決議案の第一項目は、歯舞、色丹島について、これの引渡しを要求している。しかるに、これはまつたく反対に、第二、第三項目の沖縄、奄美大島並びに小笠原諸島こそは日本にただちに引渡しを要求すべきものである。しかるに、それの方は放つておいて、この歯舞、色丹島の方を日本に対して引渡しを要求している。元来、歯舞、色丹島については、これはヤルタ協定によつて、アメリカのルーズヴエルトが主張し、すでにこれは国際間の協定としてソ同盟に編入され、ソ同盟は憲法を改正して、今日これはりつぱに、何ら日本との間に摩擦もなく、国際間において公然と承認されておるものである。もしこれの引渡しを日本が要求するものとすれば、ただちに戦争を挑発するものである。戦争を挑発せずして、これの引渡しはできない。諸君があらゆる方面において戦争を挑発しておるのは、当然この領土問題にもつながつておる。日本を危機に陥れておるところのこの諸君の政策は、まつたく国民全体が反対しておるところである。
 なお、この歯舞、色丹については、すでに終戦直後、マツカーサー・ラインの外に出ておることを、水産委員諸君も御存じではないか。そうして、これはそのときもうすでに世界でどこでも文句はなかつた問題である。しかるに、沖縄、奄美大島並びに小笠原諸島については、約百万の日本人が住んでおる。それは今日どうなつておるか。事実、今日はアメリカの軍事的信託統治になつておるではないか。それに対して、諸君が片言隻語でも抗議したか。何ら抗議していないてはないか。ただいまこれに出ておるところによれば、教育、産業、戸籍に日本が広範囲に参加するのだと言つておる。戸籍問題に参加するようなことを決議するなら、これらの諸島が日本にただちに復帰し、日本国民として、彼らがともどもにわが同胞として祖国に帰ることに努力すべきであるのに、これつぽつちの努力も諸君が払わずして、こういうものをここに出して来るということは、まつたくこれは欺蹣というよりほかに言いようがないものである。(拍手)
 今、沖縄諸島はどうなつておるか。諸君、上から下まてアメリカの軍事基地になつておる。B二九の軍事基地になつて、これが朝鮮に飛んで行く。さらに、日本がもし民主主義化して真の独立をかちとる場合に、ここからB二九が飛んで来て日本を爆撃する態勢を、アメリカは今でも保持しておるではないか。それに目をおおうて、単に戸籍問題などに対して日本が参加するなど、そういうふうなことを諸君が考えておるから、諸君は***たといわれるのだ。
 去る六月の十六日に、沖縄、琉球立法院がどんな決議をしておるか。この日本国会に対して、一日も早く自分らが復帰したいから、日本国の主権がここに及ぶことを要求するという決議をやつておるではないか。それを諸君に要請しておるではないか。こういうことこそは、決議案としてただちに決議し、これらの島々に対するところの主権を回復すると同時に、円本から――この六百箇所にもわたるところの日本の施設並びに地域からアメリカを追い出さなければならぬじやないか。それこそが最も必要である。それたけの国民としての情熱が君らにあるか、国民としての愛国心があるか。愛国心があるものであれば、こうした決議案に反対すべきは当然である。
 この意味におきまして、日本共産党ほ断固としてこの決議案に反対するものであります。(拍手)

注)***の部分は、発言不穏当との理由で、議長が取消しを命じた。




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