昭和26年10月26日 衆議院本会議

○議長(林讓治君)
 日程第一、平和条約の締結について承認を求めるの件、日程第二、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約の締結について承認を求めるの件、右両件を一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。平和条約及び日米安全保障条約特別委員長田中萬逸君。

〔田中萬逸君登壇〕

○田中萬逸君
 ただいま議題となりました平和条約の締結について承認を求めるの件及び日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約の締結について承認を求めるの件の両案について、本委員会における審査の経過並びに結果について御報告申し上げます。

 領土問題に関して特に論議されたのは、まず千島の帰属についてであります。平和條約第二條は、日本が千島列島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄することを明らかにしているのでありますが、これについて、千島の割讓を最初に定めましたヤルタ協定がはたして日本を拘束するものであるかどうか、また千島は歴史的に見ても昔よりわが日本の領土であり、決して侵略戰争の結果獲得したものではないのであるから、その放棄ははなはだ遺憾であり、樺太とともにその返還を要求するため国際司法裁判所に提起する用はないか、またいわゆるクリル・アイランドとはいかなる範囲であるか等の質問に対しましては、政府は、ヤルタ協定は英米ソ三国間の協定であつて、その協定自身はもとより日本を拘束するものではなく、また千島が正統な日本の領土であることは、吉田首席全権がサンフランシスコ会議においても特に強調せられたところであるが、遺憾ながら條約第二條によつて明らかに千島、樺太の主権を放棄した以上、これらに対しては何らの権限もなくなるわけであつて、国際司法裁判所に提起する道は存しておらない、またクリル・アイランドの範囲は、いわゆる北千島、南千島を含むものであるが、歯舞、色丹の両島が千島に入らず、その最終的帰属は国際司法裁判所において決定されるとダレス氏もサンフランシスコ会議で述べておられ、両島に対する主権について米国も日本政府の主張を支持していたが、それは條約調印前のことであつて、ソ連が條約に調印しなかつた現在においては、條約第二十二條の紛争解決の手続規定によつてハーグの国際司法裁判所に提訴する方途はないのである、今後は結局国際紛争の一つの問題として残るであろうが、これをどうするかは実際上の関係であり、双方がそれぞれその主張を堅持いたすとすれば衝突するほかはないが、なるべく円満な方法によつて問題を解決し、国民に満足を與えるように努力したいとの言明がありました。

 かくて討論を終局し、採決の結果、両件とも多数をもつていずれもこれを承認すべきものと議決して、歴史的な本委員会の任務を終了したのであります。
 以上御報告申し上げます。(拍手)


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