[011/014] 12 - 衆議院 - 平和条約及び日米安全保… - 4号
昭和26年10月19日

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○田中委員長 高倉定助君。
○高倉委員 本会議また昨日の委員会を通じまして、いろいろと條約問題につきまして質問がなされておりますので、われわれの言わんと欲することも大方言い盡されているような次第であります。実は二十四日に大体質問をする考えでおりましたし、本日は総理もお疲れのことと思いますから、頭を冷静にされてからお聞きした方がむしろいいかと思いますので、簡潔に二、三御質問申し上げたいと思います。
 まず領土の問題でありますが、過般のサンフランシスコの講和條約の第二條の(C)項によりますると、日本国は千島列島の主権の放棄を認められたのである。しかしその千島列島というものはきわめて漠然としておる。北緯二五・九度以南のいわゆる南西諸島の地域の條文におきましては、詳細に区分されておるのでありまするが、千島列島は大ざつぱではつきりしていないのであります。そこで講和條約の原文を検討する必要があります。條約の原文にはクリル・アイランド、いわゆるクリル群島と明記されておるように思いますが、このクリル・アイランドとは一体どこをさすのか、これを一応お聞きしたいと思います。
○吉田国務大臣 千島列島の件につきましては、外務省としては終戰以来研究いたして、日本の見解は米国政府に早くすでに申入れてあります。これは後に政府委員をしてお答えをいたさせますが、その範囲については多分米国政府としては日本政府の主張を入れて、いわゆる千島列島なるものの範囲もきめておろうと思います。しさいのことは政府委員から答弁いたさせます。
○西村(熊)政府委員 條約にある千島列島の範囲については、北千島と南千島の両者を含むと考えておりますしかし南千島と北千島は、歴史的に見てまつたくその立場が違うことは、すでに全権がサンフランシスコ会議の演説において明らかにされた通りでございます。あの見解を日本政府としてもまた今後とも堅持して行く方針であるということは、たびたびこの国会において総理から御答弁があつた通りであります。
 なお歯舞と色丹島が千島に含まれないことは、アメリカ外務当局も明言されました。しかしながらその点を決定するには、結局国際司法裁判所に提訴する方法しかあるまいという見解を述べられた次第であります。しかしあの見解を述べられたときはいまだ調印前でございましたので、むろんソ連も調印する場合のことを考えて説明されたと思います。今日はソ連が署名しておりませんので、第二十二條によつてへーグの司法裁判所に提訴する方途は、実際上ない次第になつております。
○高倉委員 このクリル群島と千島列島を同じように考えておられるような今のお話でありますが、これは明活八年の樺太・クリル交換條約によつて決定されたものであつて、その交換條約によりますと、第一條に、横太全島はロシヤ領土として、ラペルーズ海峡をもつて両国の境界とする。第二條には、クリル群島、すなわちウルツプ島から占守島に至る十八の島は日本領土に属す。カムチヤツカ地方、ラパツカ岬と占守島との聞なる海峡をもつて両国の境とする。以下省略しますが、こういうふうになつておる。この條約は全世界に認められた国際的の公文書でありますので、外務当局がこのクリル群島というものと、千島列島というものの翻訳をどういうふうに考えておられるか、もう少し詳しく御説明を願いたいと思います。
○西村(熊)政府委員 平和條約は一九五一年九月に調印いたされたものであります。従つてこの條約にいう千島がいずれの地域をさすかという判定は、現在に立つて判定すべきだと考えます。従つて先刻申し上げましたように、この條約に千島とあるのは、北千島及び南千島を含む意味であると解釈しております。但上両地域について歴史的に全然違つた事態にあるという政府の考え方は将来もかえませんということを御答弁申し上げた次第であります。
○高倉委員 どうも見解が違いますのでやむを得ないと思いますが、過般の講和会議においてダレス全権が、歯舞、色丹諸島は千島列島でない、従つてこれが帰属は、今日の場合国際司法裁判所に提訴する道が開かれておると演説されておるのであります。吉田全権はそのとき、千島列島に対してもう少しつつ込んだところの―歯舞と色丹は絶対に日本の領土であるとは言つておられますけれども、国際司法裁判所に提訴してやるというまでの強い御意思が発表されていなかつたようでありまするが、この問題に対しまして、ただいまあるいは今後も、どういうようなお考えを持つておられるかということについてお伺いします。
○吉田国務大臣 この問題は、日本政府と総司令部の間にしばしば文書往復を重ねて来ておるので、従つて米国政府としても日本政府の主張は明らかであると考えますから、サンフランシスコにおいてはあまりくどくど言わなかつたのであります。しかし問題の性質は、米国政府はよく了承しておると思ひます。従つてまたダレス氏の演説でも特にこの千島の両島について主張があつたものと思います。今後どうするかは、しばらく事態の経過を見ておもむろに考えたいと思います。これは米国との関係もありますから、この関係を調節しながら処置をいたす考えでおります。
○高倉委員 過般の本会議で私も質問したのでありますが、北海道の全地域にわたつて、まことに脅威の状態にあることは、総理も御承知の通りと思いますが、今日わずかの警察予備隊、海上保安隊の駐留によりましては、とうていわれわれ満足できないような状態でございます。これに対してもう少し強力に、われわれが安心のできるような範囲において、これらを擴張するところの御意思がありますか。
○吉田国務大臣 この問題については当局もいろいろ処置を講じておりますが、要するに今後治安のために要する警察その他の力は、増強いたす考えでおります。
○高倉委員 さらに最後でありますが、いろいろと論議されましたわが同胞が、まだ外地から三十数万帰還していないのであります。これらに対して今後いかなる処置によつてその帰還を実現されるか、簡単でよろしいのですが、これにお答え願いたい。
○吉田国務大臣 この問題はしばしば申しますが、終戦以来当局者として、あるいは外務省として頭を悩ました問題であります。当初から私がこれに関係しておつたのであります。従つてこの問題のいきさつはよく承知いたしております。その結果国連あるいは米国、あるいは関係政府に対しての交渉は絶えずいたしております。またしばしば説明もいたしましたが、これは日本だけの問題ではないのであります。フランスにしてもドイツその他にしても、なお未帰還部隊が相当あるのであります。ゆえに単に日本の問題ばかりでなく、連合国数箇国にわたる共同の利害を持つた問題として国連あるいは赤十字その他が日本の要請に応じ、日本及び同じ利害を持つ諸国の未帰還部隊のために相当霊力をいたしておるところでありますが、なおこの盡力が一層効力の出るように、希望が達成せられるように努力いたします。しばらく経過をごらん願いたいと思います。
○高倉委員 残余の問題は今後に残しまして、これで本日は終ります。

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