昭和26年、吉田首相は、沖縄などは、すでに日本の領土権を離れているとの公式見解を示した。

 日本の領土なるものは、四つの大きな島と、これに付属する小さい島とに限られているので、琉球等はすでに日本の領土権を離れている。すでに領土権は離れたが、将来米国の好意によって日本にもどすかという問題がある、と説明した。


衆議院 本会議 - 2号  昭和26年08月17日


○北村徳太郎君 九月初めの平和条約調印式に吉田首相がみずから出席されますことは、その職責上当然ではございますが、まことは御苦労千万でございまして、その労苦に対して、私どもは心からこれを多とするものでございます。(拍手)
(省略)
 第一に領土問題でありますが、わが党が、領土問題につきましては、早くから具体的に、かつしばしばその所信を表明して参りましたことは、御承知の通りであります。これは正義と世界平和のために絶えざる努力を拂われて来ました米国が、おそらく今回の対日講和においてもその信念に基き、かつしばしば言明されて参りました。いわゆる公正にして永久的な平和への高い人道的精神に基いたものであり、また従つて大西洋憲章を一貫する精神が十分尊重されておるものと信じたいのであります。でありますがゆえに、今日まで、わが党は、日本民族の熱烈なる要望を率直かつ明白に表明いたしまして米国の信念と良心に訴えて来た次第であります。国民の一部には、敗戰のみじめさに引続き、さらに六年の長きにわたる占領の管理から今ようやく独立と自由が許されるという喜びのために講和草案をあるいは冷静にかつ十分に検討していないものもありましうし、また一方、政府側だけの、やや甘い宣伝に酔わされているものも少くないと思うのでありますが、わが民族の将来を思いますときに、領土の四五%を剥奪されることは、民族死活の問題であることは申すまでもございません。そもそもポツダム宣言は、大西洋憲章及びカイロ宣言を受けて成立いたしておるのでございまして、それらの憲章及び宣言の精神は、あくまで領土的野心の皆無であることと、住民の意思の尊重ということが核心となつておることは、周知の通りであります。そこで、わが党は、千島列島、奄美大島、琉球諸島、小笠原諸島等が民族的にも歴史的にも日本領土たることをあくまで主張するものであります。(拍手)しかるに、今回の講和草案では、これらの地域が日本領土から除外されていますことは真に遺憾にたえません。百十万に及ぶこれら地域の住民たるわが同胞が、明け暮れ号泣して自分たちが日本の所属であることを血の叫びをもつて訴えていることは首相も十分御承知の通りであります。
 以上申し上げました地域以外なお歯舞、色丹が現に占領されておりますことも、私どもの容認しかねるところであります。しかし、国際情勢上どうしても国連信託統治とすることが必要である部分につきましては、それは認めなければならないでありましよう。但しこの場合、その信託統治地域に一定の期限を付し、期限到来とともに当然日本の手に返ることに確認されたいのであります。(拍手)かく申しますのは、今回の講和草案の前文に平等の主権が認められており、従つてこの主権という言葉の内容には領土の完全性が当然入るべきもので、固有の領土はそのまま認めらるべきはずであると考えることが通念であると信ずるからであります。
(省略)

○国務大臣(吉田茂君) お答えをいたします。
 全権としてサンフランシスコの講和会議に臨席いたす心構えについての御忠告は、つつしんで承ります。御希望になるべく沿うようにいたしたいと考えます。
 領土問題に関して御質問でありまするが、この領土放棄については、すでに降伏条約において明記せられておるところであります。すなわち、日本の領土なるものは、四つの大きな島と、これに付属する小さい島とに限られておるのであります。すなわち、その以外の領土については放棄いたしたのであります。これは嚴として存する事実であります。ゆえに、琉球等の西南諸島及び小笠原等についての信託統治の問題は、これはすでに日本の領土権を離れておる。その離れた領土に対して、米国として将来国際連合に提出さるべき信託統治の約束についてはいかなる措置をとるかということは、これは米国政府が国際連合に提出いたす措置がどうであるかということによつて決定せられるのであります。すなわち、すでに一応領土権は離れたのでありますが、それをどの程度まで、米国政府が、将来米国の好意によつて日本にもどすかという問題がここにあるのであります。ゆえに領土問題について、あまり多くをこの際述べるということはよろしくないことである。あまり突き進んで議論をするというのは好ましくないことで米国の好意連合国の好意を日本としては信頼して受けるのが、これがこの際処する外交と私は考うるのであります。
 また信託統治なるものは、御承知の通り、これはその土地の住民の利益を考え、その土地の国民、その土地の住民の安全なり幸福なりを考えて講和条約を締結するということで、信託統治の性質がそうなつておるのであります。いわんや、米国がこれを統治する場合においては、信託統治をなす場合においては、住民の幸福は十分に考慮することと私は考えるのであります。これはしかし将来に属することでありますから、なおしばらく時の経過をごらん願いたいと思います。



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